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第一章
第42話 実はブラジャーしてました
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泥んこ遊びをして泥だらけの子供は、いかにも子供らしくて微笑ましいだろう。
だが、俺たち三人は泥まみれではなく油まみれ。油にまみれてヌルヌル。
フォルナも連れてひとまず家に帰ると、先生に深い溜息をついていた。
「「「ごめんなさい」」」
三人そろってシュンとなって謝るわけだが、まあ、今回は俺もやり過ぎた。
「ったく、まあいい。さっさと三人で風呂入って来い」
とりあえず、先生には事情のすべてを説明。
公衆の面前で俺たちは痴情のもつれで喧嘩したという噂が王都中に流れた。
まあ、それを鵜呑みにする奴はさすがにいないが、気づけばウラも含めて俺たちはからかわれながら家に戻っていた。
「姫さんの着替えはあとで持っていきます。あと、ウラちゃん、風呂入ったらこれに着替えな」
「えっ?」
風呂に行こうとするウラに、先生が何かを投げた。
それは、小さい女の子用の服。ノースリーブのシャツと白いスカート。
庶民向けの少し安っぽい作りではあるが、素朴で可愛らしい服だ。
「あの、これは?」
「さっきな、近所の人がお前らのケンカを見て、『ウラちゃんに渡してくれ』ってよ。あんまり服も持ってねーだろうからって」
「えっ、わ、私に? にん、人間が?」
「小さい頃の着ていたお下がりだから、あんまりいいもんじゃないけど、良ければどうぞってよ」
ウラは少し信じられないといった表情で、服を持ったまま固まっている。
無理もない。ついさきほどまで、煙たがられていた魔族であるはず。
すると、先生はニッコリと笑顔で、ウラの頭を撫でた。
「なーんかよ、近所の人や、さっき店に来た人たちが言ってたぞ。『ヴェルトにイジワルされたら、すぐに相談しろ』ってな」
「え…………」
目をパチクリさせるウラ。
どうやら、あんだけワンワン泣いてる姿を見せたら、王都の連中も毒気が抜かれたのかもしれねえ。
魔族といっても、所詮は子供だ。
確かに色々と不安要素を抱えているかもしれないが、そこはこのエルファーシア王国。
農民の家に姫が自由に遊びに行ったり、農民の息子と結婚するとか平然と公認するような平和な国だ。
「くはははは、良かったな、泣き虫」
「うっ、な、泣いてないぞ! ヴェルト、何度も言うがお前は私を子供扱いするな!」
「はいはい、良かったね~、泣き虫お姫様。ほれ、さっさと風呂入るぞ」
「あっ、待て、この、うう~、私は泣いてなんかないぞ!」
魔族と人間の問題の全てを水に流すとまではいかないが、そんな大きな問題は俺には興味がねえ。
ただ、自分の手の届く範囲で、ウラを守ってやれればそれでいい。
「ちょっ、二人で入るのはズルイですわ! ワタクシも入りますわ!」
「お~入れ入れ、もう一人の泣き虫お姫様」
それに、この二人の問題も少しは解決したかな?
「ううううう、今日のヴェルトは一段とイジワルですわ! ウラも苦労しますわよ」
「まったくだ。こいつにデカイ顔されるのは気に食わん。今度二人で再戦するぞ」
仲良しとまではいかないが、ライバル? ってところか。
まあ、少なくとも険悪な雰囲気はないし、なんで歪みあっていたのかも、そもそも忘れていそうだ。
俺はホッとした気分になった。
「さーて、さっさと流すか」
こうして、油まみれでヌルヌルになった二人を連れて、俺たちはさっさと汚れを落とすべく風呂に入るわけだが……
「おーい、この服はさすがに他の服と混ぜるわけにはいかねーから、こっちの籠に入れて別にしとけ」
「ううう、これ、結構お気に入りでしたのに」
「ヴェルトの所為だ」
未だにふくれっつらな顔で不機嫌な二人。
まあ、公衆の面前で泣かせたわけだから、俺も悪いんだけど。
「悪かったって、もうしねーよ」
「全然反省がこもってませんわ! よりにもよって、皆さんの前で私の下着を晒すなんて!」
「あんなこと、初めてだ。もう、お嫁にいけないから……責任取るんだぞ?」
まあ、そりゃ~、怒るよな。
動きが封じられて身動きが取れないない中で何度もすっころばされて、パンツ見せられて、何よりもそれを格下の俺にやられたわけだからな。
「そもそも、ヴェルトは正々堂々という言葉や騎士道精神、そして礼節などをもう少し身につけるべきですわ」
「そういえば、あのギャンザと戦っているときも、結局は策を張り巡らせて相手を嵌めていたからな」
「これでは、将来他国とのパーティーや会談などでヴェルトを連れて行けないではないですの」
「ちっ、仕方ない。魔国流だが、私も王族の身だ。マナーや心構えを今度叩き込んでやる」
あ~、はいはい、そうですね。今日は俺が全面的に悪かったですよ。
だから、もうネチネチ言うなっての。
「ったく、はいはい、機会があれば覚えてやるよ」
「あっ、ヴェルト、脱ぎ散らかさないの! ララーナさんが迷惑するでしょう!」
「本当に子供だ。下着、ズボン、靴下、シャツ、ちゃんと分けろ」
こいつら、俺の母ちゃんか?
だが、そのとき、俺の服を整理しだしたフォルナとウラが、ピタリと動きを止めて、急に顔を上げた。
「って、お風呂って一緒に入りますの?」
「お、お前と一緒に入るのか?」
「ああ? なんだ、恥ずかしいのか? じゃあ、待つか? それとも先に入るか?」
別にどっちでもいーよ。お湯がもったいないとかあるけど、一度に入ったほうが効率が……
って、こいつら、何を顔を赤くしてモジモジして……ああ、そう、恥ずかしいわけね。
「ったく、それじゃあ、お前ら先に入れよ。俺は後で入るから」
「えっ? あっ、でも、その、お湯が、そ、そそ、それに、ええっと」
「いや~、あの、その、なんだ? ヴェ、ヴェルトがどうしてもって言うなら一緒に!」
……ったく、このマセガキ共が。なーにを色気づいてやがる。
「いいよ、もう。上がったら教えろよ」
「っちょ、ま、待ちなさい! 入らないとは言ってませんわ! そ、そう、お湯がもったいないですわ!」
「いくな、待て待て! 別に何でもないから、入るぞ。うん、入るぞ!」
なんか、悶えたりしながらも一大決心をしたような表情のフォルナとウラ。
お互いうなずき合いながら、こっちをチラチラ見ながら、自分の衣服に手をかけてる。
ったく、たかが十歳のくせに背伸びしやがって。
そりゃー、あんな公衆の面前でのスカートめくりは精神的にきつかっただろうけど、ほとんど身内のガキ同士が風呂に入るのに、何をそんなに……
「っと、……ふう……」
「よいっしょっと……」
スカートを脱ぎ、シャツのボタンを外していく二人。
そして、俺は次の瞬間、衝撃を受けた。
「あっ、フォルナのそれ……なんか綺麗だな」
「えっ? あっ、でも、ウラのも可愛らしいですわ? これ、魔国で使われているのですか?」
お互いの下着を見せて、何か意見を言い合っている二人だが、俺にはそれはどうでもよかった。
「あっ、も、もう、ヴェルトの、エッチ」
「ス、スケベ、あんまりジックリ見るな」
俺の体に稲妻が走り、気づいたら俺は脱衣所を飛び出して、素っ裸のまま駆け出していた。
「ちょっ、まてえええええええ、そんなバカなあああああああああああああ!」
ありえねえ! 嘘だろ? 十歳だろ? 十歳って言ったら、幼稚園児と大して変わらねえぐらいじゃねえの?
なんで? えっ、つか、しかも二人とも?
どーなってんだよ!
「ヴェルト、ど、どこ行きますの!」
「ま、待て! なんだ、私たちの体が何か変だったのか?」
変だったんじゃねえよ。知らなかったんだよ!
「てか、俺はアホか! あれじゃあ、確かに男と風呂に入るのを躊躇うに決まってんじゃねえかよ!」
また俺はやらかしてしまったらしい。
とにかく俺は絶叫しながら家中を駆け巡り、気づけば厨房まで走っていた。
「つっ、うるせーな、どうしたヴェルト! って、何だその格好は? 風呂に入ったんじゃねーのかよ」
「ヴェルくん、風邪引きますよ? と、お店の中に入ってきちゃダメです! お客さんに見えちゃうから」
厨房の入り口で立ち尽くす俺。
一応、柱や鍋とかが遮って、カウンターの客からは俺は見えない。
でもいいんだ。今の俺の心境に比べたら、俺の素っ裸が誰に見られようと、大したことねえ。
問題は……
「せ、先生……カミさん……た、大変だ……」
「あっ?」
「どうしたの?」
唾を一気に飲み込み、俺はたった今、見てしまった衝撃をありのままに言う。
「フォ、フォルナとウラが、ブ……ブラをしていた!」
「……はっ?」
何でだよ! だって、あいつら、子供だろ! 何で子供が大人の女が身につけるようなものを着けてんだよ!
「「「「「ぶぐほおおおおお!」」」」」
なんか、店内に居た客が全員ラーメンを噴出しているようだが、俺だって気持ちは分かる。
たかが十歳のガキが、ブラジャーをつけているとか、何を考えて……って、先生は何を「あちゃ~」って顔してんだよ!
「あ~、ヴェルト。すまん。俺が悪かった。確かに十歳で一緒に風呂に入れって言ったのはまずかったな」
先生は、屈んで俺の肩を組んで、俺にだけ聞こえるように小声でそう言ってきた。
「な、はあ? いや、でもあいつらは別に一緒に入る気だったし……って、そうじゃなくて、どうなってんだよ、この世界は! 十歳であんななのか?」
「いや、そうじゃなくてだ。元居た世界でも多分珍しくねーっていうか」
「何で? いらねーだろ! ガキだろ? ガキ!」
「いや、そーじゃなくて、普通に考えてみろ。十歳っていったら、小学四年生と五年生の狭間だ。数年後には中学生。別に変じゃねえだろ?」
…………あああっ!!!!
そ、そうだ! 十歳っていえば、数年後には中学生じゃねえか!
この世界は小学校みたいな学年があってないようなもんだから、すっかり忘れていた。
「そうだったのか。なんか、ガキガキ言ってたけど、あいつらの言うように、子供扱いしすぎてたのかな? やっぱ、何だかんだで時間が経ってるんだな」
フォルナとは五歳からの付き合いだから、ずーっと幼稚園児を相手にしてる感覚で、そのフォルナと同じ歳だから、ウラも似たような扱いにしてた。
あいつらは子供扱いするなと怒っていたが、それはあながち間違いではないのかもしれない。
「あのね、ヴェルくん、姫様もウラちゃんもね、ちゃんと成長していっているんですよ? 二人とも、いつかヴェル君のお嫁さんになるために、どんどん素敵な大人の女性になっていっている途中なの。だからね、全然おかしくないのよ? ……で、チューガクセイって何のこと?」
カミさん。そんなキラキラした綺麗な瞳で言わないでくれ。
「いや、おい、ヴェルト。だからどうしたんだ? お前、まさか急に子供扱いしていた二人にドキドキしたとか言うんじゃ……いくら成長期とはいえ、結局は十歳だぞ?」
先生。それは違うから。頼むからそんな汚物を見るようなドン引きした瞳で言わないでくれ。俺はロリコンじゃないから。
そうじゃなくて、
「そーじゃねえよ、先生。ただ、何だかさ……五歳から一緒のフォルナが十歳になってもうすぐ中学生の歳なんてよ……年月が経ってるわけだけどさ、実感が湧いてこねーなって」
「ん~、まあ、そうだろうな。俺からしてみりゃ、十代なんてイベント目白押しで、あっという間ってのが良く分かるからな」
「なんかこー、うるせえマセガキが成長するぐらい時間が経っちまったんだなって」
「何をジジイみたいなことを」
二度目の人生だからだろうか。正直、俺は自分が十歳であることを、「まだ十歳」と思っていた。
だが、そうではないのかもしれない。「もう十歳」なのかもしれない。
あのギャンザですら、十五歳で軍を率いる将になっているんだ。
「なんかさ、そう考えるとさ、俺は俺で努力しているつもりだけど、神乃を探すとかそういうのを、あんま計画なしでタラタラやってるわけにもいかねーなーって」
いつか……
もしものとき……
そうやって、未来で後悔しないように身につけられるものだけ身につけて、いつか神乃に会いに行こう。
そう思っていた。
なら、その「いつか」とはいつだ? さすがに、現状で「今でしょ」とまではいかないが、そろそろ真剣に俺も考えた方がいいかもしれねえな。
「ヴェルトーーーー! 今更恥ずかしがってないで早く来なさい!」
「私たちだって、恥ずかしいんだぞ! でも、お前がどうしてもって言うから!」
体にタオルを巻いて俺を連れ戻しに来たフォルナとウラ。
いつものように、うるせえガキと心の中で思っていた言葉が、何だか出てこなかった。
そして、俺たちは近いうちに知ることになる。
今の荒れ狂う世界の中で、俺たちはいつまでも子供のままで居られないということを。
だが、俺たち三人は泥まみれではなく油まみれ。油にまみれてヌルヌル。
フォルナも連れてひとまず家に帰ると、先生に深い溜息をついていた。
「「「ごめんなさい」」」
三人そろってシュンとなって謝るわけだが、まあ、今回は俺もやり過ぎた。
「ったく、まあいい。さっさと三人で風呂入って来い」
とりあえず、先生には事情のすべてを説明。
公衆の面前で俺たちは痴情のもつれで喧嘩したという噂が王都中に流れた。
まあ、それを鵜呑みにする奴はさすがにいないが、気づけばウラも含めて俺たちはからかわれながら家に戻っていた。
「姫さんの着替えはあとで持っていきます。あと、ウラちゃん、風呂入ったらこれに着替えな」
「えっ?」
風呂に行こうとするウラに、先生が何かを投げた。
それは、小さい女の子用の服。ノースリーブのシャツと白いスカート。
庶民向けの少し安っぽい作りではあるが、素朴で可愛らしい服だ。
「あの、これは?」
「さっきな、近所の人がお前らのケンカを見て、『ウラちゃんに渡してくれ』ってよ。あんまり服も持ってねーだろうからって」
「えっ、わ、私に? にん、人間が?」
「小さい頃の着ていたお下がりだから、あんまりいいもんじゃないけど、良ければどうぞってよ」
ウラは少し信じられないといった表情で、服を持ったまま固まっている。
無理もない。ついさきほどまで、煙たがられていた魔族であるはず。
すると、先生はニッコリと笑顔で、ウラの頭を撫でた。
「なーんかよ、近所の人や、さっき店に来た人たちが言ってたぞ。『ヴェルトにイジワルされたら、すぐに相談しろ』ってな」
「え…………」
目をパチクリさせるウラ。
どうやら、あんだけワンワン泣いてる姿を見せたら、王都の連中も毒気が抜かれたのかもしれねえ。
魔族といっても、所詮は子供だ。
確かに色々と不安要素を抱えているかもしれないが、そこはこのエルファーシア王国。
農民の家に姫が自由に遊びに行ったり、農民の息子と結婚するとか平然と公認するような平和な国だ。
「くはははは、良かったな、泣き虫」
「うっ、な、泣いてないぞ! ヴェルト、何度も言うがお前は私を子供扱いするな!」
「はいはい、良かったね~、泣き虫お姫様。ほれ、さっさと風呂入るぞ」
「あっ、待て、この、うう~、私は泣いてなんかないぞ!」
魔族と人間の問題の全てを水に流すとまではいかないが、そんな大きな問題は俺には興味がねえ。
ただ、自分の手の届く範囲で、ウラを守ってやれればそれでいい。
「ちょっ、二人で入るのはズルイですわ! ワタクシも入りますわ!」
「お~入れ入れ、もう一人の泣き虫お姫様」
それに、この二人の問題も少しは解決したかな?
「ううううう、今日のヴェルトは一段とイジワルですわ! ウラも苦労しますわよ」
「まったくだ。こいつにデカイ顔されるのは気に食わん。今度二人で再戦するぞ」
仲良しとまではいかないが、ライバル? ってところか。
まあ、少なくとも険悪な雰囲気はないし、なんで歪みあっていたのかも、そもそも忘れていそうだ。
俺はホッとした気分になった。
「さーて、さっさと流すか」
こうして、油まみれでヌルヌルになった二人を連れて、俺たちはさっさと汚れを落とすべく風呂に入るわけだが……
「おーい、この服はさすがに他の服と混ぜるわけにはいかねーから、こっちの籠に入れて別にしとけ」
「ううう、これ、結構お気に入りでしたのに」
「ヴェルトの所為だ」
未だにふくれっつらな顔で不機嫌な二人。
まあ、公衆の面前で泣かせたわけだから、俺も悪いんだけど。
「悪かったって、もうしねーよ」
「全然反省がこもってませんわ! よりにもよって、皆さんの前で私の下着を晒すなんて!」
「あんなこと、初めてだ。もう、お嫁にいけないから……責任取るんだぞ?」
まあ、そりゃ~、怒るよな。
動きが封じられて身動きが取れないない中で何度もすっころばされて、パンツ見せられて、何よりもそれを格下の俺にやられたわけだからな。
「そもそも、ヴェルトは正々堂々という言葉や騎士道精神、そして礼節などをもう少し身につけるべきですわ」
「そういえば、あのギャンザと戦っているときも、結局は策を張り巡らせて相手を嵌めていたからな」
「これでは、将来他国とのパーティーや会談などでヴェルトを連れて行けないではないですの」
「ちっ、仕方ない。魔国流だが、私も王族の身だ。マナーや心構えを今度叩き込んでやる」
あ~、はいはい、そうですね。今日は俺が全面的に悪かったですよ。
だから、もうネチネチ言うなっての。
「ったく、はいはい、機会があれば覚えてやるよ」
「あっ、ヴェルト、脱ぎ散らかさないの! ララーナさんが迷惑するでしょう!」
「本当に子供だ。下着、ズボン、靴下、シャツ、ちゃんと分けろ」
こいつら、俺の母ちゃんか?
だが、そのとき、俺の服を整理しだしたフォルナとウラが、ピタリと動きを止めて、急に顔を上げた。
「って、お風呂って一緒に入りますの?」
「お、お前と一緒に入るのか?」
「ああ? なんだ、恥ずかしいのか? じゃあ、待つか? それとも先に入るか?」
別にどっちでもいーよ。お湯がもったいないとかあるけど、一度に入ったほうが効率が……
って、こいつら、何を顔を赤くしてモジモジして……ああ、そう、恥ずかしいわけね。
「ったく、それじゃあ、お前ら先に入れよ。俺は後で入るから」
「えっ? あっ、でも、その、お湯が、そ、そそ、それに、ええっと」
「いや~、あの、その、なんだ? ヴェ、ヴェルトがどうしてもって言うなら一緒に!」
……ったく、このマセガキ共が。なーにを色気づいてやがる。
「いいよ、もう。上がったら教えろよ」
「っちょ、ま、待ちなさい! 入らないとは言ってませんわ! そ、そう、お湯がもったいないですわ!」
「いくな、待て待て! 別に何でもないから、入るぞ。うん、入るぞ!」
なんか、悶えたりしながらも一大決心をしたような表情のフォルナとウラ。
お互いうなずき合いながら、こっちをチラチラ見ながら、自分の衣服に手をかけてる。
ったく、たかが十歳のくせに背伸びしやがって。
そりゃー、あんな公衆の面前でのスカートめくりは精神的にきつかっただろうけど、ほとんど身内のガキ同士が風呂に入るのに、何をそんなに……
「っと、……ふう……」
「よいっしょっと……」
スカートを脱ぎ、シャツのボタンを外していく二人。
そして、俺は次の瞬間、衝撃を受けた。
「あっ、フォルナのそれ……なんか綺麗だな」
「えっ? あっ、でも、ウラのも可愛らしいですわ? これ、魔国で使われているのですか?」
お互いの下着を見せて、何か意見を言い合っている二人だが、俺にはそれはどうでもよかった。
「あっ、も、もう、ヴェルトの、エッチ」
「ス、スケベ、あんまりジックリ見るな」
俺の体に稲妻が走り、気づいたら俺は脱衣所を飛び出して、素っ裸のまま駆け出していた。
「ちょっ、まてえええええええ、そんなバカなあああああああああああああ!」
ありえねえ! 嘘だろ? 十歳だろ? 十歳って言ったら、幼稚園児と大して変わらねえぐらいじゃねえの?
なんで? えっ、つか、しかも二人とも?
どーなってんだよ!
「ヴェルト、ど、どこ行きますの!」
「ま、待て! なんだ、私たちの体が何か変だったのか?」
変だったんじゃねえよ。知らなかったんだよ!
「てか、俺はアホか! あれじゃあ、確かに男と風呂に入るのを躊躇うに決まってんじゃねえかよ!」
また俺はやらかしてしまったらしい。
とにかく俺は絶叫しながら家中を駆け巡り、気づけば厨房まで走っていた。
「つっ、うるせーな、どうしたヴェルト! って、何だその格好は? 風呂に入ったんじゃねーのかよ」
「ヴェルくん、風邪引きますよ? と、お店の中に入ってきちゃダメです! お客さんに見えちゃうから」
厨房の入り口で立ち尽くす俺。
一応、柱や鍋とかが遮って、カウンターの客からは俺は見えない。
でもいいんだ。今の俺の心境に比べたら、俺の素っ裸が誰に見られようと、大したことねえ。
問題は……
「せ、先生……カミさん……た、大変だ……」
「あっ?」
「どうしたの?」
唾を一気に飲み込み、俺はたった今、見てしまった衝撃をありのままに言う。
「フォ、フォルナとウラが、ブ……ブラをしていた!」
「……はっ?」
何でだよ! だって、あいつら、子供だろ! 何で子供が大人の女が身につけるようなものを着けてんだよ!
「「「「「ぶぐほおおおおお!」」」」」
なんか、店内に居た客が全員ラーメンを噴出しているようだが、俺だって気持ちは分かる。
たかが十歳のガキが、ブラジャーをつけているとか、何を考えて……って、先生は何を「あちゃ~」って顔してんだよ!
「あ~、ヴェルト。すまん。俺が悪かった。確かに十歳で一緒に風呂に入れって言ったのはまずかったな」
先生は、屈んで俺の肩を組んで、俺にだけ聞こえるように小声でそう言ってきた。
「な、はあ? いや、でもあいつらは別に一緒に入る気だったし……って、そうじゃなくて、どうなってんだよ、この世界は! 十歳であんななのか?」
「いや、そうじゃなくてだ。元居た世界でも多分珍しくねーっていうか」
「何で? いらねーだろ! ガキだろ? ガキ!」
「いや、そーじゃなくて、普通に考えてみろ。十歳っていったら、小学四年生と五年生の狭間だ。数年後には中学生。別に変じゃねえだろ?」
…………あああっ!!!!
そ、そうだ! 十歳っていえば、数年後には中学生じゃねえか!
この世界は小学校みたいな学年があってないようなもんだから、すっかり忘れていた。
「そうだったのか。なんか、ガキガキ言ってたけど、あいつらの言うように、子供扱いしすぎてたのかな? やっぱ、何だかんだで時間が経ってるんだな」
フォルナとは五歳からの付き合いだから、ずーっと幼稚園児を相手にしてる感覚で、そのフォルナと同じ歳だから、ウラも似たような扱いにしてた。
あいつらは子供扱いするなと怒っていたが、それはあながち間違いではないのかもしれない。
「あのね、ヴェルくん、姫様もウラちゃんもね、ちゃんと成長していっているんですよ? 二人とも、いつかヴェル君のお嫁さんになるために、どんどん素敵な大人の女性になっていっている途中なの。だからね、全然おかしくないのよ? ……で、チューガクセイって何のこと?」
カミさん。そんなキラキラした綺麗な瞳で言わないでくれ。
「いや、おい、ヴェルト。だからどうしたんだ? お前、まさか急に子供扱いしていた二人にドキドキしたとか言うんじゃ……いくら成長期とはいえ、結局は十歳だぞ?」
先生。それは違うから。頼むからそんな汚物を見るようなドン引きした瞳で言わないでくれ。俺はロリコンじゃないから。
そうじゃなくて、
「そーじゃねえよ、先生。ただ、何だかさ……五歳から一緒のフォルナが十歳になってもうすぐ中学生の歳なんてよ……年月が経ってるわけだけどさ、実感が湧いてこねーなって」
「ん~、まあ、そうだろうな。俺からしてみりゃ、十代なんてイベント目白押しで、あっという間ってのが良く分かるからな」
「なんかこー、うるせえマセガキが成長するぐらい時間が経っちまったんだなって」
「何をジジイみたいなことを」
二度目の人生だからだろうか。正直、俺は自分が十歳であることを、「まだ十歳」と思っていた。
だが、そうではないのかもしれない。「もう十歳」なのかもしれない。
あのギャンザですら、十五歳で軍を率いる将になっているんだ。
「なんかさ、そう考えるとさ、俺は俺で努力しているつもりだけど、神乃を探すとかそういうのを、あんま計画なしでタラタラやってるわけにもいかねーなーって」
いつか……
もしものとき……
そうやって、未来で後悔しないように身につけられるものだけ身につけて、いつか神乃に会いに行こう。
そう思っていた。
なら、その「いつか」とはいつだ? さすがに、現状で「今でしょ」とまではいかないが、そろそろ真剣に俺も考えた方がいいかもしれねえな。
「ヴェルトーーーー! 今更恥ずかしがってないで早く来なさい!」
「私たちだって、恥ずかしいんだぞ! でも、お前がどうしてもって言うから!」
体にタオルを巻いて俺を連れ戻しに来たフォルナとウラ。
いつものように、うるせえガキと心の中で思っていた言葉が、何だか出てこなかった。
そして、俺たちは近いうちに知ることになる。
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