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第一章
第21話 攻めてきたんじゃなくて逃げてきた
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じーさんとばーさんをベッドに寝かせた。
よく眠っている。特に怪我もなさそうだし、安心した。
「少年、此度のことは言葉もない。本当に、感謝する」
「少年のおかげで私は助かった。心より礼を言う」
リビングで落ち着いているルウガと、何とか生き返ったウラ。
とりあえず、助けたけど殺されるという展開はなさそうでホッとした。
「少年、名は?」
ウラが聞いてきた。
「ヴェルトだ。てか、少年って、お前も同じぐらいだろうが?」
「む、ん、まあ、そうだが……」
「ちなみに、お前は何歳だ? 実は一万歳、とかじゃねーよな」
「何をバカな。私はまだ生まれて十年しか経っていない。まさか魔族が不老不死などという迷信を本当に信じているわけではあるまいな?」
「ああ、俺とタメなのね。俺も十歳だ」
なんか、ウラを見ているとフォルナとダブった。
ガキのくせに大人顔負けで偉そうなところが。
だが、本当に似ているのは、オーラというか漂う気品?
ただ、相手が魔族というのもあるかもしれないが、どこか別世界に居るような身分の存在に感じ取れた。
流れる銀髪も、これまでの過酷な道のり所為か乱れている。鎧や衣類もボロボロだ。
だが、それでもウラ自身は気高く見える。
「ははは。そうか、ヴェルト殿はウラ様と同じ年齢であったか。その年齢で魔族である私に向かってきた勇気、そして慈悲、種族は違えど感服する」
「なんかそう言われると心が痛むな。つーか、俺はもともと見捨てるつもりだったし」
「それでも救ってくれたではないか」
「あんたの腕と引き替えにな」
「なら、安い物だ」
本当にご立派なことだ。昔はこういうタイプは堅物とか、かっこつけとか思っただろうが、今では普通にかっこいいと思っちまった。
そして、これほどの男が命を懸ける、ウラ。
こいつらに、俺は興味が沸いた。
「んで、結局お前らは何なんだ? どこの魔王国軍だ?」
「おお、そういえば、まだ名乗っていなかったな。我が名はルウガ。『七大魔王』の一人、『シャークリュウ』様率いる『ヴェスパーダ魔王国軍』の兵士であり、現在はこちらのウラ姫の親衛隊隊長を努めている」
「私はウラ。ウラ・ヴェスパーダ。七代魔王シャークリュウの娘にして、ヴェスパーダ魔王国の姫だ」
「ってか、ヴェスパーダってどっかで聞いたことあるような……ん? シャークリュウ?」
俺は椅子ごとひっくり返った。
ファルガについこの間、聞いたばかりの単語だ。
「って、ボルバディエ国を滅ぼしたのお前らかよ!」
「ああ」
「て、てか、ななな、七大魔王の娘だあ? お、お前、魔王の娘だったのか?」
いや、妙に納得してしまった。たしかに、魔王軍が近づいてきていることは聞いていた。
ウラの正体も魔王の娘と考えれば、ウラ自身に感じたものや、ルウガの忠誠心も分からなくもない。
でもさ、偶然助けたのが魔王の娘とか、俺はかなりヤバイことをしたんじゃないか?
「つか、ヤバ、えっ、なに? まさか、お前らこの国を滅ぼしに来たんじゃねーだろうな! つか、国境付近は軍が待ちかまえてるのに、どうやって抜けて来たんだよ!」
助けてしまったものの、こいつらの目的次第では話が変わる。
いや、俺の半端な気まぐれで助けた命が、この国を滅ぼすことにだってなりかねないんだ。
そう思うと自然と俺の心の奥底から敵意があふれ出たが、ルウガとウラは慌てたように俺を制す。
「待ってくれ、私たちは確かにボルバルディエを滅ぼした。それは認める。だが、この国を攻撃する気はない。我々にそんな力はもうないのだ!」
「すまぬ、ヴェルト殿。まずは我々のことを話さねばなりませんな」
力はない? どういうことか分からないが、そう言ったウラの表情は酷く暗かった。
そして、傍らのルウガが話す。
「まず、我々は魔王シャークリュウ様の号令の下、ボルバルディエと戦をし、そして滅ぼした。ヴェルト殿と同じ人間も数え切れないほど殺した。勿論、降伏したものや戦えぬ市民を襲ったりはしなかったが……いや、それは言い訳だな」
滅ぼした。そう言われたところで、俺にはピンと来なかった。
一つの国が滅ぶなんて、俺には想像もつかないほどの出来事だ。
いや、想像もしたくもない。フォルナや先生や、みんなの居る国が無くなるなど、考えただけで怖くなる。
ルウガは、俺に気を使おうとしているようだが、その気遣いも何だか辛かった。
「まあいいや。あの国に知り合いは、いねーし」
「ん? 随分と楽観的だな。私はてっきり、人殺しと罵られるかと思ったが」
「ああ? どうせ言ったって、戦争がどうとか、うんたらかんたら言うんだろ? 俺は興味ねえ。自分の知り合いに危害がねえかぎりはな。んなことより、続きを聞かせろよ」
いちいち怒ったり狼狽えたりするのも、何だか違う気もした。
だから、俺はせいぜい、気にしていないように振る舞うことしかできなかった。
「そうか。うむ、我々ヴェスパーダ魔王国軍は、ボルバルディエ国を攻め滅ぼした後、アークライン帝国に進撃した。しかし立ちはだかった『人類大連合軍』、そして『勇者』に敗れて、敗走した」
「なに? なんだよ、あの勇者ってこの間、亜人のスゲー将軍を倒したと思ったら魔王も倒したのか? つくづくお利口さんだね~」
「負けたことは否定しない。勇者は強かった。魔王様とあれほどの死闘を繰り広げられる人間が居るとは思わなかった」
ルウガとウラは言いながらもどこか悔しそうだ。
そりゃあ、自分が仕える男、そして自分の父親が敗れたんだ。素直に相手を認められない気持ちも分かる。
「んで、魔王は死んだのか?」
「いや、討ち取られる前に我々は恥を覚悟で一騎打ちからシャークリュウ様を連れだし、そのまま撤退した。追撃も激しく、多くの仲間が討ち取られたが、何とか魔王様は守り切れた。だが、我々は途中でバラバラになり、ウラ様の親衛隊で生き残ったのも私だけだ」
「ふ~ん、そうやってこんな辺境まで逃げたのか。ご苦労なこった」
なるほど、そういうことか。
ファルガが、魔王がこの国の方向へ向かっていると言ったのは、敗れた魔王が逃げてきているということだったのか。
よく眠っている。特に怪我もなさそうだし、安心した。
「少年、此度のことは言葉もない。本当に、感謝する」
「少年のおかげで私は助かった。心より礼を言う」
リビングで落ち着いているルウガと、何とか生き返ったウラ。
とりあえず、助けたけど殺されるという展開はなさそうでホッとした。
「少年、名は?」
ウラが聞いてきた。
「ヴェルトだ。てか、少年って、お前も同じぐらいだろうが?」
「む、ん、まあ、そうだが……」
「ちなみに、お前は何歳だ? 実は一万歳、とかじゃねーよな」
「何をバカな。私はまだ生まれて十年しか経っていない。まさか魔族が不老不死などという迷信を本当に信じているわけではあるまいな?」
「ああ、俺とタメなのね。俺も十歳だ」
なんか、ウラを見ているとフォルナとダブった。
ガキのくせに大人顔負けで偉そうなところが。
だが、本当に似ているのは、オーラというか漂う気品?
ただ、相手が魔族というのもあるかもしれないが、どこか別世界に居るような身分の存在に感じ取れた。
流れる銀髪も、これまでの過酷な道のり所為か乱れている。鎧や衣類もボロボロだ。
だが、それでもウラ自身は気高く見える。
「ははは。そうか、ヴェルト殿はウラ様と同じ年齢であったか。その年齢で魔族である私に向かってきた勇気、そして慈悲、種族は違えど感服する」
「なんかそう言われると心が痛むな。つーか、俺はもともと見捨てるつもりだったし」
「それでも救ってくれたではないか」
「あんたの腕と引き替えにな」
「なら、安い物だ」
本当にご立派なことだ。昔はこういうタイプは堅物とか、かっこつけとか思っただろうが、今では普通にかっこいいと思っちまった。
そして、これほどの男が命を懸ける、ウラ。
こいつらに、俺は興味が沸いた。
「んで、結局お前らは何なんだ? どこの魔王国軍だ?」
「おお、そういえば、まだ名乗っていなかったな。我が名はルウガ。『七大魔王』の一人、『シャークリュウ』様率いる『ヴェスパーダ魔王国軍』の兵士であり、現在はこちらのウラ姫の親衛隊隊長を努めている」
「私はウラ。ウラ・ヴェスパーダ。七代魔王シャークリュウの娘にして、ヴェスパーダ魔王国の姫だ」
「ってか、ヴェスパーダってどっかで聞いたことあるような……ん? シャークリュウ?」
俺は椅子ごとひっくり返った。
ファルガについこの間、聞いたばかりの単語だ。
「って、ボルバディエ国を滅ぼしたのお前らかよ!」
「ああ」
「て、てか、ななな、七大魔王の娘だあ? お、お前、魔王の娘だったのか?」
いや、妙に納得してしまった。たしかに、魔王軍が近づいてきていることは聞いていた。
ウラの正体も魔王の娘と考えれば、ウラ自身に感じたものや、ルウガの忠誠心も分からなくもない。
でもさ、偶然助けたのが魔王の娘とか、俺はかなりヤバイことをしたんじゃないか?
「つか、ヤバ、えっ、なに? まさか、お前らこの国を滅ぼしに来たんじゃねーだろうな! つか、国境付近は軍が待ちかまえてるのに、どうやって抜けて来たんだよ!」
助けてしまったものの、こいつらの目的次第では話が変わる。
いや、俺の半端な気まぐれで助けた命が、この国を滅ぼすことにだってなりかねないんだ。
そう思うと自然と俺の心の奥底から敵意があふれ出たが、ルウガとウラは慌てたように俺を制す。
「待ってくれ、私たちは確かにボルバルディエを滅ぼした。それは認める。だが、この国を攻撃する気はない。我々にそんな力はもうないのだ!」
「すまぬ、ヴェルト殿。まずは我々のことを話さねばなりませんな」
力はない? どういうことか分からないが、そう言ったウラの表情は酷く暗かった。
そして、傍らのルウガが話す。
「まず、我々は魔王シャークリュウ様の号令の下、ボルバルディエと戦をし、そして滅ぼした。ヴェルト殿と同じ人間も数え切れないほど殺した。勿論、降伏したものや戦えぬ市民を襲ったりはしなかったが……いや、それは言い訳だな」
滅ぼした。そう言われたところで、俺にはピンと来なかった。
一つの国が滅ぶなんて、俺には想像もつかないほどの出来事だ。
いや、想像もしたくもない。フォルナや先生や、みんなの居る国が無くなるなど、考えただけで怖くなる。
ルウガは、俺に気を使おうとしているようだが、その気遣いも何だか辛かった。
「まあいいや。あの国に知り合いは、いねーし」
「ん? 随分と楽観的だな。私はてっきり、人殺しと罵られるかと思ったが」
「ああ? どうせ言ったって、戦争がどうとか、うんたらかんたら言うんだろ? 俺は興味ねえ。自分の知り合いに危害がねえかぎりはな。んなことより、続きを聞かせろよ」
いちいち怒ったり狼狽えたりするのも、何だか違う気もした。
だから、俺はせいぜい、気にしていないように振る舞うことしかできなかった。
「そうか。うむ、我々ヴェスパーダ魔王国軍は、ボルバルディエ国を攻め滅ぼした後、アークライン帝国に進撃した。しかし立ちはだかった『人類大連合軍』、そして『勇者』に敗れて、敗走した」
「なに? なんだよ、あの勇者ってこの間、亜人のスゲー将軍を倒したと思ったら魔王も倒したのか? つくづくお利口さんだね~」
「負けたことは否定しない。勇者は強かった。魔王様とあれほどの死闘を繰り広げられる人間が居るとは思わなかった」
ルウガとウラは言いながらもどこか悔しそうだ。
そりゃあ、自分が仕える男、そして自分の父親が敗れたんだ。素直に相手を認められない気持ちも分かる。
「んで、魔王は死んだのか?」
「いや、討ち取られる前に我々は恥を覚悟で一騎打ちからシャークリュウ様を連れだし、そのまま撤退した。追撃も激しく、多くの仲間が討ち取られたが、何とか魔王様は守り切れた。だが、我々は途中でバラバラになり、ウラ様の親衛隊で生き残ったのも私だけだ」
「ふ~ん、そうやってこんな辺境まで逃げたのか。ご苦労なこった」
なるほど、そういうことか。
ファルガが、魔王がこの国の方向へ向かっていると言ったのは、敗れた魔王が逃げてきているということだったのか。
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