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第一章

第12話 選んだスタイル

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 シャウトとバーツはかなり凹んでいた。
 二人して武器屋の部屋の隅で体育座りしている。


「おい、いい加減に機嫌を直せよな~。なんか、俺がイジメたみてーじゃねえかよ」

「そうじゃないよ。ただ、ショックなだけだよ……僕って弱いんだな~て……勇者と共に世界に正義の輝きをと思っていたのに……」

「くそぉ……うう……こんなんじゃこの暗黒の時代を終わらせられねえ……」


 俺たちの決闘が終わり、ギャラリーも離れて王都はいつも通りに戻っていた。
 勝敗は誰の目にも明らかだったし、二人とも戦意がなくなっていた。
 その結果、俺の勝利で、タイラーの計らいで俺は武器を買えることになった。

「まあ、いいお勉強になっただろ?」
「でも~……」
「くそぉ」

 俺には資格だ実力だ才能だ心構えがどうとか言ってた武器屋の爺さんも、タイラーの言葉には逆らえず、ちょっと悔しそうな顔でこっちを見ている。

「ヴェルト、武器はまだ決まらないのかい?」
「ん? あー、まだだな。結局、パッとしたのがないし。てか、ほんとになんでも買ってくれんの?」
「ああ。今日の戦いは面白かったしね。それに、順調な道ばかり歩いていたシャウトにもバーツにもいい経験だった」

 座り込もうとした俺に、タイラーが声をかけてきた。


「君やシャウトぐらいの子なら、例えばこの……名工ハサンの手がけた雷鳴の剣とか、ドラゴンスレイヤーたちに愛用される竜を切り裂くドラゴンバスターソード、目移りしそうな武器ばかりじゃないか」

「んなもん、俺が使いこなせるわけねーじゃん。俺はもっと振り回しやすさと持ち運びやすさが揃った武器がいい」

「使いやすさっていうことかい? しかし、普通は自分の得意な魔法に合った武器を探すだろう? シャウトの得意魔法は風と氷で速度を重視した魔法だったので、細剣≪レイピア≫にしたんだけど」

「俺は逆だ。自分に合った武器を先に見つけて、武器に合う魔法を後から身につける」


 タイラーはメチャクチャ太っ腹だった。なんと、俺の健闘を讃えて、好きな武器を一つ買ってくれるというのだ。
 一度も見たことがないような金額の、この武器屋でもメインでもあり客寄せや観賞用の武器でも構わないと言ってくる。
 まあ、俺に使いこなせるわけがないんだが。

「ふ~ん」
「な、なんだよ」
「いや。やはり君は物事の考え方が少し違うね」

 タイラーの言葉に、内心「そりゃそーだ」とツッコミたかった。
 実際、俺の精神年齢は十七歳だし。

「実は、シャウトと初めてこの店に来たとき、シャウトは当たり前のようにドラゴンバスターソード等の強力武器をねだったよ。やはり、勇者や大剣豪などの英雄に憧れる年齢だからね。ただ、今のあの子の体格や魔法技術を考えると、細剣≪レイピア≫が一番合っていると思って私が選んだ」
「えーと、だから何が言いたいんだ?」
「子供が武器を選ぶなら憧れから入る。でも、君はもっと現実的に、今の自分と照らし合わせて自分に合って、そして機能性を有した武器を求めている。やはり、普通じゃないよ」
「勇者ね~。別に俺は興味ねーよ。どーせ、将来は麦育てながらジジイになるからいいんだよ」
「それ、本当なのかい? 最近、姫様は城の図書館で農業系の本も借りているようだが」
「いや、あいつは関係ねーし」

 どうやら俺の考え方は子供っぽくないって言いたいのかもしれない。
だから、タイラーの中で何かが引っかかっているんだろ。

「ねえ、ヴェルト。ここだけの話なんだが、二年後……シャウトは卒業後には国を離れ、大帝国軍士官学校に進学することになっている」
「大帝国軍士官学校? それって、勇者とかが行ってる……大陸の中央にある?」
「そうだ。大陸中の国の貴族や王族を始め、才能溢れる天才児たちが集う人類大陸一の教育機関だ。フォルナ姫も二年後にはそこに行かれる」

 聞いたことがあった。人類のエリートと金持ちだけが集う学園都市。正直、俺には縁がないところだ。

「んで、それがなに?」
「そして、二人は軍士官学校を卒業後には……すぐに人類大連合軍に入隊することになっている」
「……戦争に?」
「そうだ」

 無関係……そう思っていても、顔見知りが参加するとなると、簡単には言えないものだ。
 正直、この世界に戦争があって、国も滅んでいると聞いても、未だに俺はピンとこない。
 朝倉リューマのときから、世界ではどこかで戦争をしていた。
 だが、俺は興味がなかった。
 戦争は、テレビの世界の向こうでやっている、自分には関係のない世界。

「タイラー将軍は、戦争にも参加する気のねえ俺を、腰抜けって思うか? 同期や幼馴染がこの歳で世界を変えようと立派な志を持っているのに」

 俺が皮肉っぽく尋ねてみた。

「そうじゃない。シャウトやバーツ、フォルナ姫が努力し、強くなろうとしているのは、そういう明確な目的があるからだ。それは他の子供たちも……いや、今の時代、魔法や戦闘の技術を持って生まれた子達は、大半がそう考えている。しかし、君は戦争にも参加しないし、興味もないと言う。だけど、君には何か目指しているものがあるような気がしてならない。一体、君は何を目指して力を手に入れようとしているんだい?」

 戦争にも参加する気もないのに、何のために? 
 言えるわけがないが、あえて言うとしたら……

「はん。聞いたって大げさなもんは何もねーよ。そもそも俺が戦争や勇者に興味ねーって言ってるのは、無関心というより、本当に何も知らないだけだ。ようするに、世界のことを何も分かってねーからさ」
「ほう。それでは、そんな君が何を目指しているんだい?」
「だから、そんな大層なものは出てこねーよ。あえて言うなら……未練さ……前世でよっぽど未練を残して死んだんだろうな」
「……う~む……なおさら分からなくなったな」
「いいさ、分からなくて。多分、この世界の殆どのやつらには分からないだろうからよ」

 あえて言うとしたらこれぐらい。
 死んで生まれ変わってファンタジーな異世界に来てしまい、一緒に死んで転生しているかもしれない好きな女を探し出すのが目標とか、誰が信じる?
 今のところ、俺の生きる目的はそれだけでいい。誰に理解されなくても構わない。

「まっ、二人が戦争行くのは皆の自由だが、死んでほしくないってのは当然思ってるけどな……ん? こいつは……」

 その時、無造作に置かれた箱の山に目が止まった。店の隅に置かれ、箱から汚い剣や弓が飛び出している。

「爺さん、この箱はなんだ?」
「ああ、それはもう売り物にならん商品と、売れ残って処分予定のものじゃ」
「ふ~ん」
「そこにあるものは、全て刃は潰れておるし危険もない。それでよければタダ持っていってもええぞ」
「へっ、在庫処分かよ。つっても、さすがにこんなボロボロになったもんはいらねーけど」

 役に立たなそうなものばかりだ。そう思って、諦めようとしたとき、俺はあるものを掴んだ。

「あん? なんだこりゃ」

 それは、剣の柄のような棒状もの。しかし、剣のような刃はなく、しかも短い。それでいて、ずっしりとした重さを感じさせた。

「ああ、それは武器ではないぞ? 卸売業者が紛れ込ませたものじゃよ」
「武器じゃない? じゃあ、何だよこれは」
「それは、コンゴ族の亜人が学校で使う教鞭じゃ」
「教鞭? こんなぶっとい、剣の柄みたいのがか?」
「うむ。それを勢いよく振り下ろしてみろ」

 俺は言われた通りに、その教鞭を振り下ろした。すると、その反動で教鞭の先端が伸びた。

「お、おお!」
「コンゴ族は人間の二倍以上の体格を持っておる。彼らからすれば、教鞭もそれぐらい重く太いものでないとならんようじゃ」

 教鞭なんて、朝倉リューマの時代にも見たことはあるが、持ったことはない。だが、それでいて、どこか俺の手にしっくりときた。
 それは、教鞭というより、俺にとっては伸縮式の警棒にしか思えなかったからだ。

「どうして武器屋にこんなものが?」
「うむ、一時期観賞用として魔族や亜人専用の武器を取り扱っておったのだが、その中に紛れ込んでいたようじゃ。教鞭ということで買い手もおらんし、使い道もないので処分しようと思っていたところじゃ」

 俺は、胸が高鳴った。そして、どこか懐かしさすら感じた。

「気に入った。なら、これは俺がもらう」
「ほっ? そんなもんで良いのか?」
「ああ。武器じゃねーし、処分するものだから別にいいだろ?」
「う、うーむ、まあ、売りものではないしの」

 俺に対して、ジジイ、そしてタイラーも同じ顔をした。
武器として作られていないものを、武器として買おうとしている俺に目を丸くしている。
 だが、俺にとっては好都合。

「二本もらってくぞ」
「おお。そんなもんでゴッコ遊びができるとは思えんが、好きにせえ」

 今の俺はきっと、悪巧みをしたガキのように笑っているだろう。ハッキリ言って、タダで一番欲しかったものが手に入ったとも言える。

「そんなものでいいのかい? 他のも買ってあげるよ?」
「いいんだよ。その分の金で、今度ステーキでも奢ってくれよ。俺は今、伝説の武器より俺に合った武器を見つけたんだからよ」
「武器? 教鞭がかい?」

 店を出た俺は、さっそく二本の教鞭を左右で構える。そして、見えない敵を想像する。
 左の教鞭で相手の武器を受け止め、右手で相手の喉元を突く。そして、回し蹴り。
 悪くなかった。

「ちと、今の俺には重いな。だが、これの重さに慣れた頃、俺はいっぱしの使い手にはなっている」

 ハッキリと見えてきた。俺はこいつを極めると。
 ファンタジー世界だからって、この世界の戦い方に合わせる必要はない。
 自分にとって一番可能性のありそうなやり方で、後からアレンジすりゃいい。
 炎だ雷だといういかにもな魔法には目もくれず、俺はただこれだけを貫き通そうと誓った。
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