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第一章

第10話 ケンカを教えてやる

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「さあ、準備はいいな? 特にルールは設けない。これ以上は無理だと私が判断をするか、降参するまでだ。で、どっちがヴェルトと戦う?」

 トントン拍子に決まりすぎだ。それに喧嘩じゃなくて、タイラーという立会人付きの決闘なら問題ないわけね。
 武器屋の外ではいつの間にか見物の人垣ができて、相対する俺とシャウトとバーツを囲んでいた。


「実戦演習は来年からだから、まだ僕と戦ったことはないよね、ヴェルト。今日はいい機会だ。将軍タイラーの息子であり、誇り高きリベラル家の力を見せてあげよう」

「おい、待てよ! ヴェルトと戦うのは俺だ! あいつとは一度ガツンとやらねーとと思ってたんだから!」


 そして、俺の目の前の二人はやる気満々の様子。
 前世で恐れられてた時はこんな風に「俺がやる」みたいな展開あんまなかったから、ちょっと変な感じだった。

「いやいや、ここは僕が……」
「俺だよ!」

 だが、この二人はガキとはいえそれだけ自信があるからこんなことを言えるわけだ。
 魔法の才能あったり、将来有望だったり、色々と目指すべきものが大きかったりと。
 俺とは見ている世界が違う。
 だけど……


「大げさなんだよ。ケンカもまともにしたことねぇボクちゃんたち。二人まとめてかかって来いよ」

「「え、ええ!?」」

 
 それでも俺は、負ける気が全くしなかった。
 
「ヴェルト、何を言ってるんだい! 二人がかりなんて……」
「そうだ! おまえ、いくらなんでも俺たちを馬鹿にし過ぎだぞ! だいたい、お前は魔法もほとんど使えないのに!」

 子供とはいえプライドがあり、何よりも自分の力に自信を持っているからこそ俺の発言に怒っている様子。
 確かに、こいつらが身に着けてる魔法とかをぶっ放せば、俺は簡単に吹っ飛んで負けるだろうな。
 そんなもんが俺に当たればの話だけどな。

「くはははは、喧嘩に必要なのは魔法じゃねえ。体と度胸と意地さえあれば、それで十分なんだよ。いいからかかって来いよ、ボクちゃん」
「むぅうううう、お、お前ぇ!」
「あ、バーツ! ちょ、まだ決めてないのに……」
「おやおや……仕方ない。はじめ!」

 そして、俺のあからさまな挑発に顔を真っ赤にして怒り心頭のバーツは、我慢できずに俺にとびかかってきた。
 先走って飛び掛かるバーツに、タイラーも仕方ないと判断して、無理やり開始の合図をする。

「うおおお、くらえ、ヴェルト!」

 そして、もう周りが目に入ってないバーツは子供の小さな体で精いっぱい拳を振りかぶる。
 まさに、力任せの典型的なテレフォパンチ。
 なので……

「よっ」
「ひっ!?」

 振りかぶって、1、2、の動作で殴ろうとするバーツに対して、俺は1の動作だけの最短最速のジャブをバーツの顔面に寸止めした。

「あ、お、あ……」
「くははは、ぐしゃ~ってな♪」

 これは昔、ボクシングやってた十郎丸に教わったテク。
 相手を挑発して、単純な力任せのテレフォパンチさせてカウンター。
 まっ、本当に殴るのはガキ相手にやるわけにはいかないので、寸止めして、軽くほっぺをコツンとするだけに留めてやった。
 
「おっ……ほぉ……」
「わ、ば、バーツ!?」

 そんな一瞬の攻防にタイラーは予想外だったのが感心したような様子を見せ、一方で同じく予想外だったシャウトも驚いて声を出し、ギャラリーもどよめいてる。
 一方で、驚いて少しビビった反応を見せたバーツだったが、すぐにまた怒った顔を見せる。

「お、おい、なんで止めるんだよ、ヴェルト!」
「んあ?」
「男同士の決闘だろ! ガツンと殴れよ! 俺を馬鹿にしてんのか!」
「……い、いや、そんなこと言われても……」

 こっちの事情を知らずに何とも生意気なことを言ってきやがる。
 とはいえ、こっちは前世の担任がすぐそばにいるっていうのに、10歳のガキをガチで殴れるわけねぇ。
 にもかかわらず……

「もう、止めんなよ!」
「ったく、しゃーねぇな。なら、止めてくれって言わせてやるよ」
「なにぃ?」

 またバーツは俺に殴りかかってくる。とはいえ、まさにガキのケンカ。

「はいはい、よっと」
「な、え……」

 腰も入ってないで、ただポカポカ殴ろうとしてくる感じだ。
 いくら魔法の訓練したり、剣とかの訓練をしていても、素手のケンカは素人。
 俺はバーツの見え見えのパンチを軽く払い、バーツが着ているシャツの裾を掴んで、それを一気に頭全部を覆い隠すように捲り上げてやる。

「うりゃ」
「わ、ま、前が見えな、わ、お、おい! なにすんだよ!」

 そしてそのまま素早く足を引っかけて転ばして……本来ならここから殴ったり踏みつけたりなんだけど……ここは足を掴んで……

「十郎丸直伝、四の字固め」
「ふが、ぎゃ、うわああ、い、いたいたいたいたいたいたいたい!?」
「ほれほれ~、電気あんま~♪」
「ふぎゃ、ぎゃあ、くすぐっ、ぐぎゃああああああああああ!! いた、ぎゃ、くすぐった、うぎゃああ!」

 服で顔を隠され周りが見えない状態で、ちょっと関節でグリグリやったり、股間をグリグリしてやったりで叫ぶバーツ。

「おま……異世界の子供相手にそんな昭和の技を……」

 相手が子供なので精いっぱい気遣って技をかけてやったのに、先生は呆れた様子でため息している。
 だけど、そんな先生と打って変わって……
 
「お、おいおい、なんかすごいことになってんぞ!」
「ってか、ヴェルトのやつ、よんのじ? 足、どんな形になってんだ? あれ、痛いのか?」
「おーい、バーツ、負けるなぁ! 反撃しろぉ~」

 周りのギャラリーは初めて見る技だからか、なかなか盛り上がっている。

「おぉ……初めて見る技だな……あの股間のグリグリはいただけないが……」

 タイラーも何だか興味深そうに「ほぉ」みたいな様子。

「くおお、くそ、うぎぎぎぎ、いだいいい」

 そして、そんな間にも必死に抵抗して逃れようとするバーツ。
だが、ガッチリホールドしてるから逃げるのは無理。
 どんなにジタバタもがいても、「まいった」するまで逃がさない……のも可哀想なので、俺はロックを解除してやった。
 
「ぜぇ、はあ、ぜぇ、は、う、ぜぇ、はあ、ぜぇ、はぁ……」

 顔に服をかぶせられたままピクピクしてるバーツ。よっぽど効いたのか、服を直したり、立ち上がる力もまだ無さそうだ。
 すると……


「ヴぇ、ヴェルト! 何だ今の戦いは!」

「あ゛?」

「お、男同士の正々堂々の決闘を、相手を目隠ししたりそんな卑怯なことするなんて……そ、それに、こ、こかん……急所を攻撃するなんて男らしくないぞ!」


 出遅れたシャウトだったが、どうやら今の俺のやり方が非常に気にくわなかったのか、最初のバーツ同様に怒った顔してる。
 いや、しかし、これもダメと言われても……

「次は、僕が相手だ!」 

 こっちの気持ちも知らないで、ガキどもは好き勝って言ってくるので困ったものだ。
 さらに……

「風の戦女神よ我と共に駆け抜けよ、我が身に宿りし血において、汝を解き放つ。エレメントソード・サイクロンセイバー!」

 空気読めよ……
シャウトが細剣≪レイピア≫を抜く。そして、すかさず剣を祈るように構えて呪文を唱える。
 何で魔法も使えない奴を相手に、竜巻まとったヤバそうな魔法剣を使おうとしてんだよ。

「決闘において一切の手は抜かない。それが我が血族の誇りであり、友への礼儀! さあ、ヴェルト……ちょっとお仕置きだからね! いくぞ!」

 そう言って、風邪を纏って勢いよく向かってくるシャウト。
 さらに……


「うおおお、もう、もう怒ったぞ、ヴェルト! 炎の精霊よ、我が身と心を燃やし、敵を滅っせん! エレメンフレイムセイバー!」

「……あら?」


 のたうち回ってたバーツだが、別に怪我を負わせたわけではないので息さえ整えばすぐに立ち上がって、目を血走らせて再び俺に飛び掛かってきやがった。
 今度は炎の魔法を纏って。
 二人同時に魔法剣で俺を両方向から挟むように向かってくる二人。
 バーツは周りが見えていないうえに、シャウトもハッとしたようだけど勢いを止められそうにない。

「むっ……ちょっとこれは……」

 まったく、二人まとめてかかって来いと言ったのは俺だけども、これはヤバイかも。
 タイラーも少し眉が動いて、流石にまずいと思ったのか身を乗り出そうとしている。
 だけど、俺は不思議と冷静だった。
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