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第一章
第1話 俺は何のために生まれ変わったのか
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俺が朝倉リューマを思い出したのは、『ヴェルト・ジーハ』として八歳の誕生日を迎えたころだった。
あれから、二年。俺は十歳になっても、何もふっきれていないし、前にも進めていない。
たまに、どうしようもないときに、自然と涙が出た。
「ヴェルト、どうしたの? この間も誕生日の時に泣いていたわね」
正直、俺は自分が分からなかった。
俺は、ヴェルト・ジーハなのか、朝倉リューマなのか。
ヴェルト・ジーハとして生まれ変わったのか、朝倉リューマの記憶が宿ったのか。
ただ、今では血の繋がっている両親にすら身構えてしまう。
「おふくろ……」
「怖い夢でも見たの?」
アルナ・ジーハ。二十六歳。俺を生んだ女で、ヴェルト・ジーハの母親だ。
赤毛が似合う美女として、平民ながら近所でも評判だ。
いつもヤンチャしたり反抗期な俺を甘やかす極度の親バカ。
「はっはっは、まったくヴェルトは可愛いな。じゃあ、今日はパパとママと一緒に寝るかい?」
同じく極度の親バカである父親、ボナパ・ジーハ。二十九歳。
金髪の短髪で、ガッチリとしたガテン系の面構えなのに、俺とおふくろを視界に入れた瞬間、デレデレになる。
「そっちの方が寝苦しいから、俺は一人で寝るよ。んで、ウザイ」
「おおお、ママ~、ヴェルトがまた一つ大人になったよ~」
「でも、パパとママにウザイなんて、お仕置きパンチ! えい! えい! えい!」
ヴェルト・ジーハ、十歳。それが今の俺の名前。
母親譲りの赤毛が特徴だが、反抗的で生意気な目つきで可愛くない。
しかし、それが逆に可愛いと俺の両親は嫌がる俺を無視してベタベタ甘やかそうとする。
俺は、今までそれに抵抗していたが、今となってはその気持ちがさらに強まった。
朝倉リューマの時から、親からは勘当同然で、家族の愛情というものを知らない。
だから、なんか居心地が悪かった。
「そういえば聞いたぞ~、ヴェルト。お前、昨日の学校の授業で行われた浮遊≪レビテーション≫の実践テストでやらかしたらしいな」
「あら、私は聞いてないわよ?」
「畑で作業していたら、先生が泣きながら飛び込んできたよ。浮遊≪レビテーション≫で壺を演習場の端から端まで移動させる課題で、お前は壺を手でぶん投げたらしいな!」
ああ、そういえばそんなことをやったな。
だって俺、魔法なんて全然使えねーから。
「まあ! できないことを逃げ出さずに、自分で活路を見いだすなんて、エライわ!」
「ママもそう思うだろう? とっても豪快なやり方で、パパも嬉しかったよ!」
ここは、周り一面を麦畑で囲まれた農業地帯。電気もなければコンビニも車も存在しない。
近所もかなり離れた間隔で家が数件建っているだけだ。
しかし、田舎というわけではない。三十分ぐらいかけて歩けば、エルファーシア王国の王都にたどり着くことが出来る。
俺が通っている、『エルファーシア児童魔法学校』も王都にある。
王都の人口は数十万人。衣食住に満たされ、技術や魔法文化も発達し、犯罪も少なく、平和に溢れた国である。
だがそれは、朝倉リューマの世界とは大きく違うものだ。
「ファンタジーな異世界か。どうりで俺はこの世界に馴染めねえはずだ」
自分は死んだ。そして、中世を感じさせるファンタジーな世界にヴェルトとして生まれ変わった。
正解なのか不正解なのかは分からないが、それが一番納得できる答えだった。
「馴染めない? どうした、ヴェルト。まさか学校でイジメられているのか? 許さんぞ! どこの貴族の子だい? パパがぶっとばしてやろう!」
「えーん、ヴェルト~、つらかったらいつでもママに言うのよ? 魔法なんてできなくても、ママがヴェルトを守ってあげるから。この、母の愛情パンチで、えい、えい、って!」
それにしても、いつも思うが、こいつら大丈夫か? 朝倉リューマの時の両親もウザかったが、これはこれでまずいだろ?
ヴェルトである俺は毎日こんな風にされながらも、両親に甘えなかった。それは、朝倉リューマの頃の性格の名残と、両親に対して血の繋がりがあるものの本当に自分の両親と思っていいのかという疑問と、前世のことを黙っている後ろめたさもあった。
いや、それは両親だけでなく、俺がこの世界で出会った全ての人間に言えること。
誰も、本当の俺の正体を知らない。この世界は、あって当たり前のものがない。だからこそ、俺にとっては何だか居心地が悪かった。
「でも、ヴェルト。本当にイジメられているんなら、すぐに言うんだぞ?」
「られてねーよ。むしろ、俺の方が泣かせてるんだから。てか、息子が未だに基礎魔法も使えず、テストで赤点取りまくって落ちこぼれ街道まっしぐらなんだぞ! 親父ならガツンと怒れよ!」
「はっはっはっ。何を言ってるんだ。パパはお前が落ちこぼれなんて思わないぞ。お前が元気で居てくれるだけで、パパにとっては満点だ」
「だから、甘やかされたバカ息子がグレるんだよ! 試しに一度怒ってみろ! ほれ!」
「そ、そうか~。仕方ないな~、じゃあ……めっ!」
「……おふくろ。腹減った。さっさとメシくれ……」
ったく、どこまで親バカなんだよ。俺は親父を無視して、テーブルに無造作に置かれている新聞を開いた。今では、この世界の文字すら当たり前のように読めてしまう。馴染めないようで、馴染んでしまった感がある。そんな風に思っているとき、新聞の見開きが目に止まった。
そこには、幼い少年が剣を掲げている絵がかかれていた。
「ふーん。弱冠十二歳の小さな勇者、『四獅天亜人≪ししてんあじん≫』のカイザー大将軍を討つ。ほ~、俺と二つしか違わないのに、戦争に参加してるわけか。お利口さんだね~」
「お前、十歳なのに、たまにそういう達観したところがあるから、そっちの方がパパは心配だよ」
異世界に生まれ変わったといっても、俺には特別な何かがあるわけではない。この世界には魔族や亜人族などの異種族が存在し、人間と日々争いを繰り広げているが、この国は異種族の領土からは遠くに存在するために、目立った戦などは特になく、なにより勇者や英雄のような存在は既に存在している。
また、俺自身も特殊能力があるわけでも、魔法の才があるわけでもない。
前世の知識なんて、所詮は常識の知らない不良のもの。クソの役にも立たない。
つまり、俺には何か使命があるとか、神に選ばれた存在とかまるでなく、ただの農家の息子として俺は第二の生を送っている。
十歳にして既にそれを実感してしまっているからこそ、尚更思う。
俺は、何のために生まれ変わったのか?
何のために、朝倉リューマの記憶がよみがえったのか?
あれから、二年。俺は十歳になっても、何もふっきれていないし、前にも進めていない。
たまに、どうしようもないときに、自然と涙が出た。
「ヴェルト、どうしたの? この間も誕生日の時に泣いていたわね」
正直、俺は自分が分からなかった。
俺は、ヴェルト・ジーハなのか、朝倉リューマなのか。
ヴェルト・ジーハとして生まれ変わったのか、朝倉リューマの記憶が宿ったのか。
ただ、今では血の繋がっている両親にすら身構えてしまう。
「おふくろ……」
「怖い夢でも見たの?」
アルナ・ジーハ。二十六歳。俺を生んだ女で、ヴェルト・ジーハの母親だ。
赤毛が似合う美女として、平民ながら近所でも評判だ。
いつもヤンチャしたり反抗期な俺を甘やかす極度の親バカ。
「はっはっは、まったくヴェルトは可愛いな。じゃあ、今日はパパとママと一緒に寝るかい?」
同じく極度の親バカである父親、ボナパ・ジーハ。二十九歳。
金髪の短髪で、ガッチリとしたガテン系の面構えなのに、俺とおふくろを視界に入れた瞬間、デレデレになる。
「そっちの方が寝苦しいから、俺は一人で寝るよ。んで、ウザイ」
「おおお、ママ~、ヴェルトがまた一つ大人になったよ~」
「でも、パパとママにウザイなんて、お仕置きパンチ! えい! えい! えい!」
ヴェルト・ジーハ、十歳。それが今の俺の名前。
母親譲りの赤毛が特徴だが、反抗的で生意気な目つきで可愛くない。
しかし、それが逆に可愛いと俺の両親は嫌がる俺を無視してベタベタ甘やかそうとする。
俺は、今までそれに抵抗していたが、今となってはその気持ちがさらに強まった。
朝倉リューマの時から、親からは勘当同然で、家族の愛情というものを知らない。
だから、なんか居心地が悪かった。
「そういえば聞いたぞ~、ヴェルト。お前、昨日の学校の授業で行われた浮遊≪レビテーション≫の実践テストでやらかしたらしいな」
「あら、私は聞いてないわよ?」
「畑で作業していたら、先生が泣きながら飛び込んできたよ。浮遊≪レビテーション≫で壺を演習場の端から端まで移動させる課題で、お前は壺を手でぶん投げたらしいな!」
ああ、そういえばそんなことをやったな。
だって俺、魔法なんて全然使えねーから。
「まあ! できないことを逃げ出さずに、自分で活路を見いだすなんて、エライわ!」
「ママもそう思うだろう? とっても豪快なやり方で、パパも嬉しかったよ!」
ここは、周り一面を麦畑で囲まれた農業地帯。電気もなければコンビニも車も存在しない。
近所もかなり離れた間隔で家が数件建っているだけだ。
しかし、田舎というわけではない。三十分ぐらいかけて歩けば、エルファーシア王国の王都にたどり着くことが出来る。
俺が通っている、『エルファーシア児童魔法学校』も王都にある。
王都の人口は数十万人。衣食住に満たされ、技術や魔法文化も発達し、犯罪も少なく、平和に溢れた国である。
だがそれは、朝倉リューマの世界とは大きく違うものだ。
「ファンタジーな異世界か。どうりで俺はこの世界に馴染めねえはずだ」
自分は死んだ。そして、中世を感じさせるファンタジーな世界にヴェルトとして生まれ変わった。
正解なのか不正解なのかは分からないが、それが一番納得できる答えだった。
「馴染めない? どうした、ヴェルト。まさか学校でイジメられているのか? 許さんぞ! どこの貴族の子だい? パパがぶっとばしてやろう!」
「えーん、ヴェルト~、つらかったらいつでもママに言うのよ? 魔法なんてできなくても、ママがヴェルトを守ってあげるから。この、母の愛情パンチで、えい、えい、って!」
それにしても、いつも思うが、こいつら大丈夫か? 朝倉リューマの時の両親もウザかったが、これはこれでまずいだろ?
ヴェルトである俺は毎日こんな風にされながらも、両親に甘えなかった。それは、朝倉リューマの頃の性格の名残と、両親に対して血の繋がりがあるものの本当に自分の両親と思っていいのかという疑問と、前世のことを黙っている後ろめたさもあった。
いや、それは両親だけでなく、俺がこの世界で出会った全ての人間に言えること。
誰も、本当の俺の正体を知らない。この世界は、あって当たり前のものがない。だからこそ、俺にとっては何だか居心地が悪かった。
「でも、ヴェルト。本当にイジメられているんなら、すぐに言うんだぞ?」
「られてねーよ。むしろ、俺の方が泣かせてるんだから。てか、息子が未だに基礎魔法も使えず、テストで赤点取りまくって落ちこぼれ街道まっしぐらなんだぞ! 親父ならガツンと怒れよ!」
「はっはっはっ。何を言ってるんだ。パパはお前が落ちこぼれなんて思わないぞ。お前が元気で居てくれるだけで、パパにとっては満点だ」
「だから、甘やかされたバカ息子がグレるんだよ! 試しに一度怒ってみろ! ほれ!」
「そ、そうか~。仕方ないな~、じゃあ……めっ!」
「……おふくろ。腹減った。さっさとメシくれ……」
ったく、どこまで親バカなんだよ。俺は親父を無視して、テーブルに無造作に置かれている新聞を開いた。今では、この世界の文字すら当たり前のように読めてしまう。馴染めないようで、馴染んでしまった感がある。そんな風に思っているとき、新聞の見開きが目に止まった。
そこには、幼い少年が剣を掲げている絵がかかれていた。
「ふーん。弱冠十二歳の小さな勇者、『四獅天亜人≪ししてんあじん≫』のカイザー大将軍を討つ。ほ~、俺と二つしか違わないのに、戦争に参加してるわけか。お利口さんだね~」
「お前、十歳なのに、たまにそういう達観したところがあるから、そっちの方がパパは心配だよ」
異世界に生まれ変わったといっても、俺には特別な何かがあるわけではない。この世界には魔族や亜人族などの異種族が存在し、人間と日々争いを繰り広げているが、この国は異種族の領土からは遠くに存在するために、目立った戦などは特になく、なにより勇者や英雄のような存在は既に存在している。
また、俺自身も特殊能力があるわけでも、魔法の才があるわけでもない。
前世の知識なんて、所詮は常識の知らない不良のもの。クソの役にも立たない。
つまり、俺には何か使命があるとか、神に選ばれた存在とかまるでなく、ただの農家の息子として俺は第二の生を送っている。
十歳にして既にそれを実感してしまっているからこそ、尚更思う。
俺は、何のために生まれ変わったのか?
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