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第11話 神々の奪い合い

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「うわっ、びっくりした!」
「……何かしら?」

 急に悲鳴が聞こえて驚いた。
一体何が起こったのかと二人はテントから抜け、興味本位で悲鳴がした方へと向かう、するとそこには……

「あはん、もうカラッカラなのおん? 虚弱な旦那さまあん」

 そこには、まるでミイラのように全身が干からびるほどまで何かを吸いつくされた人が床に倒れていた。
 その異形の光景に誰もが後ずさりし、悲鳴を上げる。

「あ、アレは!」
「な、なに……一体どうしたというの?」

 神人は大きく目を見開いた。
 倒れるミイラのような人物。その人物は、メガネをかけている中年男性。
 変わり果てた姿とはいえ、神人はその人物に心当たりがあった。

「と、父さんッ!」
「え……な、き、神人くんのお父さん?」

 そう、神人の父親だ。それがどうしてここに?
 思わず叫んだが、既に気を失っている父は、返事をしない。
 代わりに……

「父さん? あらんあらん、これはこれは嬉しいわあん。八百万のお坊ちゃままでいたの~ん」

 一人の妖艶の女がそこに居た。

「旦那様は、私の一回の水洗だけで頬コケになってしまいまして、私は不完全燃焼ですのぉん♡」

 白い髪に白い肌。布面積が極端に少ない白の布ビキニで胸の先端のみを隠し、何故か腰元には白いバレーダンサーのチュチュ。
 いや、チュチュというよりもトイレの便座に見える。っていうか、普通に便座だった。
 プロポーションそのものは『普通』と言えなくもないが、その大胆過ぎる格好に、男性客たちは顔を赤らめて前かがみ。

「きゃああああ、変態よおお!」
「痴女だ! 痴女が居る! 誰か警備員を!」
「神人くん……とりあず、あの露出狂から目を逸らしなさい」

 客も騒ぎ出し、店内が騒然としている。
 また、女の格好を見るなと、弥美が神人の手をつねる。
 だが、神人からすれば、ほっておけないこと。
 父が倒れていること。そして、今女の口から語られた八百万の名前。
 そこから察するに……

「うるさいですわああん、水洗しちゃうんん!」

 それは、女の指先から突如発生した水の渦。

「う、うわ、何だこの水、い、ぎゃぎゃあああ!」
「なにこれ、ち、力が、吸い取られ!」

 水の渦が回りに居る来店客たちから光る何かを吸い込み始めた。
 すると、来店客たちは見る見るうちに脱力仕切ったかのようにその場で倒れた。

「な、なにをっ!」
「はあ、全然栄養価がたりないわあん! 現代人は食べているものの栄養バランスが全然だめねええん!」

 間違いない。今の力で神人は確信した。

「あんた……神様かっ!」
「…………き、神人くん?」

 突然の神人の発言に首を傾げる弥美。
 すると、女は妖しく微笑みながら……

「そうよ~ん。わたしぃは、……『トイレの神様』……イレットよ~ん」
「と、トイレの神様っ!」

 やはり、神の一人だった。しかし、同時に疑問があった。

「なんで、父さんを! 父さんに何をしたんだよ!」

 そう、どうして父がこんな無残な姿に?
 その問いかけに、トイレの神様であるイレットは、何かを思い出したかのように顔を火照らせて、息遣い粗くなった。

「あん、だってええん、あなたのお父様があん、偶然トイレに立ち寄ってくれたおかげでえん、私たちは出会えたのぉん。その喜びと挨拶をかねてえん、今みたいに水洗能力で排泄物をエネルギー化して流してもらったのよぉん」

 全てを抜き取った。何を抜き取ったかは追求しないでおくが、それでも父親がこうなってしまったことに、神人はゾッとした。

「これからぁん、毎日ぃ、あなたたち家族からあん、幸せのいっぱいつまった排泄物ぅをぜ~んぶ私に注ぎ込んでくれるなんて、想像しただけでぇん、もう我慢できないわぁん♡」

 思わずゾクッとしてしまうほど、何かに狂ったように喘ぐイレット。
 それは、流石の弥美すらも顔を青ざめさせた。
 そしてイレットは……

「だからぁん、今日はお坊ちゃまにもん、挨拶をかねてえん、ぜ~~~~~~んぶ戴いちゃうわあん!」
「ひっ!」
「大丈夫うん、ぜ~~~んぶ、受け止めちゃうん。坊ちゃま若いから、こんな水洗使わないで、むしろ神様が直接ナマトイレにハメハメピュッピュを許可しちゃうん。出した後も、わたしぃの神ウォシュレットで気持ちよくさせてえん、天国まで昇天させてあげるうん♪」

 その瞬間、イレットは飛んだ。

「お父様とおん、便所兄弟にしてあげるわぁん! 親子なのにい、兄弟んなんてすてきぃん♡」

 飛びかかるイレット。

「ッ、う、うわあああああ!」
「よくわからないけど、下がりなさい、神人くん!」

 悲鳴を上げる神人。守ろうと前へと出る弥美。
 すると、その時だった。


「あら、ウォシュレットで昇天? 何を言っているのかしら! ご主人様のお尻を念入りに洗うのは、この専用の神たる私の仕事!」

「ッ!」


 神人にとって聞きなれた声。そして同時に、棘の生えたタオルが、イレットをぐるぐる巻きにして拘束した。

「これはぁん! 最痛のボディタオルうん!」
「ええ。気持ちよさを通り越して痛みが伴うほど相手を削るほどのゴシゴシタオルよ。お味はいかが? イレット」

 不敵に微笑みながら、相手を見下すように登場したのは、ルゥ。
 さらに、拘束されたイレットの頭上から、巨大な塊が落下して、ズシンと音を立てて潰した!

「坊や様に天国の気持ちよさを与えるのは、用を足されるときではなく、睡眠の時間こそです」

 イレットを押しつぶしたのは、巨大な布団。
 そこには、いつもの柔らかい微笑みではなく、主に手を出した不届き者に怒りを覚えている、アンファが。
 そして……

「カビだらけの穢れた貴様の心をピカピカになるまで磨いてやろうか? 便所女め」

 投げナイフのように、複数の歯ブラシを指の間で挟みながら、殺し屋のような冷たい目をした、ブラシィ。

「ルゥ! アンファ! ブラシィ!」

 三人の神の堂々とした登場に思わず声を上げる神人。
 今ここホームセンターに、主を賭けた神々の対決が幕を開けたのだった。

「神人くん……あの人たち、誰なの?」

 そして、彼女にどう説明すればいいのか、神人の悩みは尽きなかった。
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