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第10話 ホームセンターにて

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 街一番のホームセンター。
 天井も高く店内もだだっ広く、日用雑貨、家具、収納棚、ガーデニング用品、工作工具、その他にもそんなマニアックなものまで? という、ありとあらゆるものが揃っている。
 当然、キャンプに必要な道具だって腐るほど取り揃えているため、「ここで手に入らないものはない」と思わず断言してしまいそうになる。
 本日から大型連休幕開けということもあり、店内には朝早くというのに、子連れの家族が笑顔で店内を歩いていた。
 そんな空間に、神人も弥美と恋人繋ぎをしながら、お目当てのコーナーを目指していた。

「ねえ、弥美さん、バーベキューグリルとかの道具一式とか、飯盒とかもレンタルできるんでしょ?」
「ええ。でも、キッチン周りの道具とか、食器類とか、数に限りがあってレンタルできないものもあるわ。帰りは身軽の方がいいから、使い捨てのものを選びましょう」
「使い捨てか~……俺、勿体ないから、使い捨てってあまり好きじゃないんだよな~」

 キャンプに関連した道具は専用のコーナーが設けられていた。
 入り口にはサンプルとして設置されているテントやハンモック、そして火器類などのキャンプ上級者のようなセットが設置されていた。
 そのコーナーを見て、弥美は途端に嬉しそうになった。

「あら、見て、テントよ。今日はホテルに泊まるからテントは建てないけど……これはこれで面白そうね」
「でも、テントってなんか狭くて暑そうで虫に刺されたりしないかな?」
「そういうのも、キャンプらしくていいと思わない? 私、好きな人とならば、そんな空間喜んで受け入れるわ♪」

 不意打ちのように堂々と告げる弥美に思わず照れてしまう神人。
 すると、弥美はそのまま腰を下ろして、サンプルのテントの中に入ってしまった。

「弥美さん、買い物……」
「まだ全然時間に余裕あるから大丈夫よ。ほら、君も来て来て」

 テントの中から手招きしてくる弥美。大丈夫なのかなとあたりを見渡すと、男性店員と目が合った。
 てっきり怒られるのかと思ったら、男性店員は「いったれ兄ちゃん!」と言ってるかのような、真っ白い歯を剥き出しに笑いながら、親指を突き立てた。
 そんなノリのよい店員に背中を押されて、神人もテントの中に入った。
 先にテントに入っていた弥美と並ぶようにうつ伏せ状態になり、そして中が狭くて肩同士がくっついた。
 でも、弥美はちっとも嫌そうな顔は浮かべず、むしろ機嫌良さそうだった。

「ほら、素敵な空間よ。うん……これもいいわね……うん、素敵……」
「弥美さん……」
「今度は二人で行きましょう。テントの借りられるキャンプ場に」
「うっ、は、はいいっ!」

 そんな風に言われては恥ずかしい照れる可愛いムズ痒いといった感じで、神人はテントの中でモゾモゾした。
 すると……

「隙あり」
「んっ!」

 照れている神人は完全に無防備だった。そんな隙だらけの神人の頬に、弥美は軽く口づけした。

「こ、困るよ~、弥美さん」
「あら、何が困るの?」
「こ、こんな狭いところで、そんなのダメだよ……」
「どうして?」
「……分かっててからかってるでしょ」

 昨晩と同じように弥美は微笑んだ。何かを待っているかのように。
 そしてその待っているものは……

「続きは今晩ね」
「ッ!」
「今日家を出る前に、私は『大人の女』になって帰ってきますって、両親にも伝えてきたから」

 ああ、抗えない。改めて実感した神人は、ただ小さくコクンと頷くだけだった。

「でも、いいの? ……お、俺なんかで」
「あの偶然でもあり運命とも呼ぶべき出会い……だれにも頼らずに、回りからは頼られ、いつも一人で乗り越えてきた私を、あの時無我夢中で暴漢から助けてくれた君に……そして、優しく私の鼻緒を直してくれたときの君の微笑み……私の女としての心が動いたときから決めていたのよ」
「暴漢から助けたって……普通に暴漢は弥美さんが投げ飛ばしたじゃない。それに、鼻緒だってそんなに大したことじゃ……」
「あら? 大したことがないと、人って恋をしてはいけないのかしら?」

 今日、大人の階段を一歩上に上る。
 それは最早確定事項なのだと認識した神人はドンドンと心臓の音が高鳴りだした、その時だった!


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 それは、店内に響く悲鳴だった。
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