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第3話 絶対に穢さない

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「ぐっ、痛っ……」
「あっ、大丈夫でしょうか? その、いきなり坊ちゃまが転ばれて……あ、頭を……」

 俺に何があった? これは神のイタズラか? 分からない。
 しかし、夢では無さそうだ。
 試しに抓った頬も痛い。
 
「あの……坊ちゃま……」
「ッ!?」

 ただ、そんな戸惑っている俺の前でソードが小首を傾げている。
 ボロい布切れに身を包んで、その首には奴隷の証であり反逆防止の首輪。
 だが、その奴隷の身でありながらも、その神々しいオーラは包み隠せない。
 全身が引き締まり、一方で女の魅力を存分に溢れさせた豊満な胸や尻、そして服の下を捲れば割れた腹筋が魅力的だということを俺は知っている。
 誰もが振り向くその美貌と長い美髪の黒髪。
 俺がかつて性欲の赴くままに蹂躙した身体。
 
「あの……坊ちゃま……」
「あ、あの、その……」

 そう、全ては『今日この日』から始まった。
 俺はソードが逆らえないのをいいことに……英雄となれる女を……俺のようなクズなんかが本来手にしていい女じゃないのに……くそ、どうせなら、こいつを買う前に戻って欲しかった。
 そもそも俺なんかと出会わなければ、こいつももっと幸せになれたのに。

「なんでもねえ……」
「そ、そうですか……」

 それよりも、俺は転んだということみたいだが……そういや、初めて出会ったときはこいつにそのまま抱き着いて朝まで犯した……だけど今回は俺の意識が一瞬失ったことで、倒れて頭を打ったってことか? 背中も少し痛いのは気のせいか?
 ただ、とにかくこれから自分の身に起こることが分かっていないのか、ソードは俺の様子にハラハラとしながらも、軽く咳払いして姿勢を正し、

「では、改めて。今宵より、坊ちゃまの奴隷としてお世話になります。身の回りの世話から、護衛、更には性玩具として弄ぶも――――」
「ッ、や、やめろぉッ!」
「ッ!? ……え?」

 そのとき、自分で布のスカートの裾を持ち上げて白い紐の下着を晒し、奴隷としての構文を口にしようとしたソードを俺は止めていた。
 俺にキョトンとした様子のソード。
 そりゃそうだ。
 だって、『そういう目的』で買ったはずの俺が止めてるんだから、不思議がるのも無理はねえ。
 だけど俺は……

「す、すまねえ! 謝っても許してもらえねえのは分かっているが、本当にすまなかった!」
「……え? へ? え?」

 俺は土下座をしていた。
 前世の分も含めて。もちろん、こんなことで許されないことは分かっているし、今の何も知らないこいつにこんなことしたって何の意味もないことは分かっている。
 だけど……

「買っといてなんだが……その、俺も色々と思い直したんだ……お前は俺の奴隷なんかになる必要はねえって」
「……はっ!?」
「だから、奴隷商人ともう一度交渉する。返金はいらねえけど、何とかお前をもう一度引き取ってもら―――」
「え?! い、いえ、それはお待ちくだされ、坊ちゃま!」

 俺の傍にいても不幸になるだけ。それならば俺以外の―――そう思ったとき、激しく取り乱したソードが俺に縋ってきた。


「いや、え、あの、何か御不満でありましょうか! この胸、この尻、さらには全身の穴という穴で必ずや小生は坊ちゃまをご満足させましょう! どうか、返品だけは考え直してください!」


 ……アレ? こいつ、この時点では処女だよな? こんな積極的だったっけ?


「え、と、あと、その、仮に返品されたところで、次に買うのは変態金持ちの老人かもしれませんし、そ、それは嫌なのです。それよりかは、しょ、小生は坊ちゃまの方が万倍も……というか、あれぇ? 何でこんなことに?」

「ん? 何だ? 最後の方はブツブツ聞き取れなかったけど……と、とにかく、その、自分で言うのもなんだが、お、俺も変態クソ野郎だから、お、俺なんかに買われたらどんな変態なことされるか分からねえぞ! だから、お前は――――」

「いえいえ、坊ちゃまならどんな変態でもドンと来いでありましてというか望むところと言いますか、いずれにせよ、どうか小生に不満が無いのであれば、このまま小生を買って飼っていいただきたい!」

「い、いや、そんなこと言われても……」

「お願いします! どうか! どうか何卒!」


 まさかこんなことになるとは思わなかった。
 ソードの幸せを考えて俺が買うことをキャンセルしようとしたら、必死に土下座までして俺のモノになりたいと懇願してきた。
 
 まさか、拒否してもこういうパターンになるとは思わなかった。
 どうする?

 ただ、確かに言われてみれば、俺が仮にソードを奴隷商人に返したところで、その後まともな奴がソードを買う保証なんて全然ない。むしろ低い。それこそこいつの言うように醜い変態クソジジイに弄ばれるかもしれない。
 そうであれば、今度こそ俺さえしっかりしていれば……


「わ、分かった……」

「ほ、本当でありますか?!」

「あ、ああ……お前がそこまで望むのであれば……」


 そう言って、あの凛々しいソードが安堵と共に涙目になりながら俺に頭を下げてきた。
 くそ、何やってんだよ俺は。
 こいつの幸せをとか言っておいて、結局俺の奴隷に逆戻りさせてんじゃねえかよ。
 いや、でも前と同じにはさせねえ。
 ようするにこいつを奴隷じゃなくさせれば……そうだよ……首輪も外して――――

「では、早速、主従の儀式を、はっ♥ はっ♥ はっ♥」
「ちょ、ま、おま!? 何やろうとしている?!」
「え? な、何って、ナニを……」

 と、気づけばいつの間にかソードが俺のズボンを降ろそうとカチャカチャ勝手に、しかも俺が身を捩って後ろに下がったら、何で不思議そうに小首傾げてんだ?
 たしかに……たしかに主従の儀式みたいなもんで前回早々に処女をもらったけども……でも……

「お、俺は、お前にそういうことさせるつもりはない!」
「……うぇっ!!!???」

 くそ、そんなに驚いて……知らなかった……ソードは俺が初めて処女を奪ったときは、抵抗は少なかったけど、唇をかみしめて耐えていた……あいつはこの時点で最初からこうなる覚悟をしていて、だからこそ俺の発言にこれほど驚いているんだ。

「どどど、どういうことでしょうか、坊ちゃま! 小生の爆乳パフパフや、全身隈なくナメナメや、そういのは――――」
「しない! 頼むから、もうそういう悲しいこと言うんじゃねえ!」
「うぇええ!?」

 ってか、こいつ処女のくせに元々こういう知識あったのか……意外な真実というか……

「とにかくだ、今日はもう遅い。風呂にでも入って、身体をさっぱりさせてよ、まずはベッドでゆっくり休めよ」
「……先体エッチでしょうか? そのあと、ベッドでゆっくりもう一度?」
「違うっての!」

 いかん、初めて出会ったときから俺はソードに対して怒涛の勢いで性調教的なのしてたから、こいつが元々こういう知識あったの全然知らんかったな。

「そ、その、坊ちゃま本当によろしいのでしょうか? そ、その、小生に遠慮の必要などは……ひょっとして、お体の具合でも悪いのでしょうか? あ、ひょっとして先ほど頭を打たれたのが何か!?」

 だけど、こいつにはもうそういうことはさせない。

「ああ……頭か……確かにな。ガツーンと衝撃だった……打ち所が良くて、自分がどれだけのクソ野郎かをハッキリ自覚した」
「……へ?」
「だから安心しろよ、ソード。俺はお前の人間としての、女としての尊厳を辱めるようなことは絶対にしねえ」
「え、えええ?!」

 身綺麗のまま英雄となって、そして俺なんかのようなクズを忘れて、勇者のあいつとかもっと相応しい男と――――へっ、俺の胸も何をズキリとさせてんだかよ。


(ぜ、前回と違う……まさか本当に……さっき頭を打たれた拍子に打ち所が悪くて真人間になられたと? なんということだ、突然のことで訳が分からず、いきなり飛びついてきた相手を坊ちゃまと知らずに背負い投げしてしまい……まさかそれで歴史が変わった!? そんな、小生と坊ちゃまのドスケベ調教ライフは?!)


 そのとき……


(な、なんということだ?! 訳が分からず過去に戻ってしまったのだが、それでも再び坊ちゃまとのドスケベ調教を最初からしていただけることに歓喜していたというのに、坊ちゃまが坊ちゃまではなくなった!? そんな……乱暴者で荒くて……だけれど、本当は寂しがり屋でベッドの上で時折見せる甘えんぼなところが本当に愛らしくて……もう小生の身も心も坊ちゃまとのドスケベライフ無しでは耐えられないほどだというのに、その坊ちゃまが真人間に?! どど、どうなってしまうのだ、この世界は!?)


 俺はソードが頭を抱えて何を思っているのか、まったく分かっていなかった。
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