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第十話 帳じり合わせ

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「俺は考えたけど……誰か一人を選ばない。全員を選ぶ。全員を幸せにしたい」
「「「んもぅ……『リュウセイ』は……仕方ないなぁ♡」」」

 別に一夫多妻が認められてる世界だから問題ありませんし、この世界の人たちの問題ですからいいんですけどね。
 でも、勇者の彼は一夫多妻が認められていない国から来てます……しかも、普通の学生で恋人もいなかった平民の子だったっていうサーチ結果があるなぁ。
 この世界では随分と順応できてるみたいですね。
 
『彼、優しいんですね……って……こういうの初めてなら思っていたんですけどね……』

 そしてそんな彼は自分を愛してくれた女の子たちを悲しませないために……と、初めの頃の僕なら思っていたけども、今は違います。


『考えるのを放棄してますよね……』

『うむ。『全員俺の女。みんな違ってみんないい。誰も手放すもんか。ハーレム最高パラダイス』という思考だの。なんで、それを苦悩の末に出した結論のように言っているのだろうなぁ?』

『ちなみにあの勇者、元の世界で女性との交際経験はゼロです』

『やっぱりだの! つーか、短い人間の人生、数年後には全員ヨボヨボになっておるのに、そんなもんに囲まれて嬉しいかのう? マインよ。おぬしも、ヨボヨボにベタベタされるのは嫌であろう?』

『僕は……もしそれが、御主神さまからの寵愛でしたら……たとえどのような御姿になられても……』

『……メンコイやつめ……今宵は一睡もさせぬぞ♡』


 あっ、御主神さま……少し照れ……あっ、でもすぐに僕をサワサワしてくるぅぅ!?

『では、そのためにもサクっと回収だぞ!』
『承知しました。しかしどうされます? 何を回収します?』
『全部でよいであろう? って、あの勇者に与えられたチートってどんだけあるのだ?』
『はい、え~……』

 世界のバランスを保つためにスキルは回収する。
 でも、取り過ぎるとそれはそれでバランスが崩れたり、単純に可愛そうなのでちょっと大目にみたりすることもあるけど、あの勇者は……


『異世界転移特典で、『無限の魔力』、『簡易レベルアップ』、『時間停止』—―――――』

『多い!』

『……あと、伝家の宝刀『ニコポナデポ』は、やはりあります』

『全部消そう……ん? あっ、しかしこの世界の勇者の敵はどういう歴史をたどるのだ? 勇者をポイっと元の世界に帰してよいのか? 魔王はどうなる?』

『はい、え~と……この世界創成期からの正式スケジュールでは、魔王はあと二百年ほど地上を……って、この世界は元々魔王が人類を虐げ、凌辱し、蹂躙し続ける予定になってました』

『なら、問題ないではないか』

『……そうですね……』


 世界のバランス調整。人類が覇権を握る世界。獣が覇権を取る世界。魔族が覇権を取る世界。別の星を侵略したり、宇宙戦争したり、色々と世界には個々の予定があります。
 この世界の予定されていた歴史と、実際に起こった現在の歴史を読み取る……サーチし……時にはそれの帳じり合わせたりするのが僕らの仕事でもあります。


「「「今夜は……私たちを全員一緒に平等に愛して!」」」

「ぐへへ……あっ、こほん。分かった……部屋に行こう……ボソボソ……っしゃ、ついに俺も……」


 あっ、勇者の彼が女の子たちと宿の中へ……一瞬下品な笑みを浮かべそうになったけど、まぁ初めてなら嬉しいよね……うん……どうせなら、せめて思い出だけでも……


『ほれ、サクっとゆくぞ』

『あっ、ま、待ってくださいよ、御主神さま! 彼、初めてみたいですし、せめて最後に女の子たちと良い思い出でも……』

『もし身籠ったら、異世界人の血が入ることになる。メンドーだ』

『でもぉ!』

『だいたい、ニコポナデポは洗脳の一種だ。望まぬまぐわいだぞ?』

 
 ああ、御主神さまは本当に容赦が……


『ちなみに、何であやつ……『リュウセイ』などと名乗っておる? たしか、あ奴の本名は、『茂部野(もぶの)人志(ひとし)』だろう?』

『あっ、えっとモブノくんはこの世界では、『光牙(こうが)流星(りゅうせい)』という偽名を使っています』

『なぜ偽名を? 異世界で?』

『はい、調べてみた所……彼が元の世界に住んでいたころから頭の中で思い描く、理想のもう一人……妄想世界のもう一人の自分の名前のようです。きっと、突然見知らぬ世界に放り出され、不安でいっぱいで心折れそうになるも、そんなことに負けぬよう、理想の自分らしく生きていこうという強い意志が込められているのかもしれません』

『アホクサ……』
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