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第10話 妻からの手紙2枚目

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「俺が……寂しがり……か……」

 そこで英成は意識を取り戻した。

「つう……ここは?」

 意識が遠のく中で、少し前のことを思い出した。
 たまにそういうことがある。心の中で大きな穴が空いた日の夢だ。
 そして目が覚めたら現実がいつも英成を待ち受けていた。

「……は?」

 だが、この日だけは違った。
 意識を失い、目覚めたそこで入ってきたものは、木々に囲まれた森林だった。
 人工物など何一つない。空と緑しか見えぬ自然の中。

「おい……俺は、アパートの前に居たはずだよな? どうなってんだよ……何がどうなってんだよ……」

 意識がハッキリとした。

「うっ、う~ん……」
「あっ……」

 声がした。すると自分の膝にもたれるように、刹華とオルタ。二人も目を覚まし、寝ぼけた表情で左右を上下を見て目をパチクリ。


「……えっと、英成くん……これはどういうことでしょうか?」

「俺も聞きてえよ」

「う、うそ、だって、私たちは……あの光に包まれて……ほ、本当にどういうことですか! 英成くんが青姦するために私を攫って山奥へとかそういう冗談ではないのですか!? 青姦なんて公園ですればいいのに、ワザワザ山の中ですか!?」

「んなわけあるか! 俺だってどうなってんのか分からねえよ」

「そんなこと……だ、だって、こんな……まるでワープしたみたいに……そうです! オルタ……しっかり、オルタ!」

「おお、そうだ! オルタ、ほら寝ぼけてねえでシャキッと!」


 刹華もまるで状況分からずに戸惑うが、分かっているのは全てがオルタから始まったという事。

「ん~、おとーさん……セツカママ……ん~」

 なら、オルタならこの状況についても何か……

「あれ? わかんない……ここどこ?」

 オルタが不安そうに見上げてきた。

「どうしよう、おとーさん……セツカママ……失敗しちゃった」
「「はあああああ?」」

 英成と刹華には、そもそもオルタが何を失敗したのかは分からない。
 というか、オルタが何をしようとしていたのかすらも分からない。
 だが、これだけは分かった。全部オルタの責任であるということだ。

「テメ、おまっ、アレだろ! なにがどうだか、っていうかヤバイのか! つうか、なんなんだ! お前はなんだ? つうかここがどこだか分からんって、おい!」
「オルタ、じょ、冗談ではなく私たちは真剣に聞いているのですよ~?」
「だって……呪文を唱えるときに、くしゃみしちゃったんだもん」

 呪文? くしゃみ? 


「つうか……呪文って……たのむ、俺はファンタジーに疎いんだ。分かりやすく教えろ」

「じゅ、呪文ですか!? え? まさか本当に……これは転移? え? 異世界転移とかそういうアレではないでしょうね?」

「あ、そっか。おとーさんは魔法使えないって、おかーさん言ってたね!」

「……使えねえよ……」

「おとーさんもセツカママも、ちきゅー行くときおかーさんに送ってもらうもんね」

「ち、ちきゅー、地球に行くとき?」

「うん、ちきゅー行くとき」 


 会話が全然かみ合わない。

「分からん。とりあえず、五秒以内に俺たちを元の場所に戻せ」

 とにかく、会話がかみ合うのを待つよりも、するべきことは一つ。
 そう、戻ることだった。
 しかし、英成のその意見に対して、刹華は激しく取り乱して身を乗り出した。

「い、いえ、お待ちください、英成くん! こ、これが、いえ、まずは状況確認しましょう! これが異世界転移だというのなら、ここが、え、異世界ですか!? ファンタジーですか!?」
「ちょ、おま、こんな時に何を目をキラキラさせて興奮してんだよ!?」
「だだだ、だって、だって! い、異世界転生と異世界転移は全人類憧れのアレですよ!」
「アレって言われても……いや、お前がそういうライトノベルやアニメ好きなのは知ってるけど!」
「そうですよ! ですので、まずは本当かどうかこの森を抜けて場所を確認してからにしましょう! まずはGPSで……って、スマホが圏外です!」

 近衛刹華。由緒正しい家柄と教育に厳しい両親に育てられ、やがて現実逃避をするかのようにアニメやライトノベルにのめり込む様になった隠れオタク。
 子女の嗜みとして剣道や弓道や護身術などあらゆる武術を修めており、全てが全国クラス。
 だが、実はそれは全て「いつか異世界に行っても困らないために」ということを家族も知らないのである。
 すると、そんな二人のやり取りに構わず、オルタは……


「もとのばしょ? ムリだよー、フォリスを二回使ったら、しばらく使えないもん」

「「ぇ……」」


 別に魔法とか信じているわけではないが、英成と刹華は気づいたら手が震えていた。

「んと、おかーさん言ってたのは、フォリスでおとーさんが住んでいる世界と繋ぐにはすごい力を使うから、二回使うと魔力のじゅーでんがひつよーだって」
「……よく分からんが、つまり……」
「オルタちきゅー行くとき一回使ったから、すぐに使えないよ?」
「そういうのは最初に言わんかい! 何サラッと、魔法とか世界とか言ってやがる!」

 英成は頭を抱えて膝を突いた。悪い夢であってくれと願った。
 四歳児の言葉なのだから、冗談だと笑って済ませられればいいのだが、それならば自宅からこんな森まで一瞬で移動したことの説明が出来ない。

「ち、地球ではない!? うそ、え、本当に異世界なのですか? こ、この木は? この石は? この葉っぱも異世界のモノですか!? 魔力!? 魔法!? え、オルタ、あなたは魔法使いなのですか!? どんな魔法を使えるのですか!」
「ま、待てよ……仮にオルタが魔法だかなんだかを使えたとしても、それだけでここが地球じゃねえと言い切るには……、っていうか魔法って本当にあるものなのか?」

 英成が普段使わぬ頭で専門外の分野について悩んでも、決して答えは出なかった。
 それは冷静さを失っている刹華もそうなはずなのだが、実は辻褄が合っていた。

「いやいや、そもそもオルタが魔法使いとかそういう時点でズレてんだ」

 色々なことがありすぎて、もう頭がこんがらがる英成と、ひたすら興奮で落ち着かない刹華だった。
 するとその時だった。

「ふわ~あ」

 オルタが急に欠伸をした。

「オルタ?」
「ん~……フォリス二回も使ったから、眠くなっちゃった……オルタねる~」
「ちょ、おま、こんなときに!?」

 マイペースなオルタが目がウトウトしだした。
 だが、うつらうつらとしながらも、何かを思い出したかのように手を叩いた。

「そうだ……わすれてた……おかーさんから、セツカママにもお手紙もらってた」
「……え!?」

 しかも、こんな状況下で「あるなら最初に渡せよ」と言いたくなるようなことを口にするオルタ。
 そしてオルタはポケットを漁って刹華に封筒を渡す。

「こ、これが私に? な、なんでしょう……ん? 手紙だけでなく、何やら小瓶まで……えっと中は……ず、随分と汚い平仮名ですね」
「お、それは俺にもあったな……」

 刹華宛の手紙。英成の時同様の汚い平仮名オンリーの手紙。そして英成の時にはなかった、紫色の妙な液体の入った小瓶。

「えっと……『せつかおるたがねむったらひとけのないばしょでそのくすりをえいせいにのませてむねのあざをかくにんじゅういじょうにするように』……ん? えっと、句読点もないですが……セツカ……おるたが……ねむったら……ひとけのないばしょ……ふむふむ……」

 二人で真剣に手紙の中身を凝視し、そしてそこに書いてあるのは……


「……『刹華、オルタが眠ったら人気のない場所でその薬を英成に飲ませて、胸の痣を確認。10以上にするように』……?」


 そう書いてあるのだろうと互いに認識。だが、だから何だ? と二人は首を傾げる。

「どういうことでしょう……胸の痣を確認? って、あ、あれ? な、なんです? これは!」
「うお、なんだこりゃ?! え? いつの間に? え、入れ墨か?」

 手紙の意味が分からず、気になってシャツのボタンを外して胸元を二人が確認すると、そこには見たことのない痣? いや、紋様が刻まれていた。
 そして二人の胸元の紋様は形が少し違っている。

「私と英成くんの痣の形が少し違いますね……どういう意味でしょう?」

 一体何の意味が? そう思った二人に、今にも寝そうなオルタが……


「おとーさんは、8だよ? セツカママは7だよ?」

「「え??」」

「おやすみ~……ん」

 
 その言葉を最後に、オルタは夢の世界へと行ってしまった。
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