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第4話 俺の娘……じゃない!

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「ほわい?」

 志鋼英成は誰からも見放された不良。世間からも、教師からも、そして実の家族にもだ。
 だから、英成は家族に興味がない。
 多分、親が急に死んでも「ふーん」と思うぐらいだろう。
 英成も自分で、一生家庭を持つことはないと思っていた。
 だからこそ、不特定多数の女と体の関係を持つことに何のためらいもなかった。
 そんな自分が、どうしてこんなことになっている?

「おとーさん」

 いきなり見知らぬ幼女にそう言われた。
 白いブラウスワンピースを着て、腰まで伸ばした長い髪は英成と同じ赤みのある髪の色。
 特徴的なのはエメラルドグリーンの瞳。明らかに日本人とは違う色だ。

「これ、おかーさんからおとーさんに手紙」

 英成に子供は居ない。そもそもまだ高校生だ。
 人違いだと思うが、差し出された紙を手にとって、中に書いてある文字を読んだ。
 そこに書いてあるのは、とても汚い平仮名だった。

「っと、『えいせいしばらくそのことあそんであげてあいしてるわつまより』……はっ?」

 一度目を瞑って深呼吸し、もう一度読んでみた。

「英成、しばらくその子と遊んであげて。愛してるわ。妻より」

 平仮名だけの文章だが、恐らくこう書いてあるのだろう。

「どうやら、嫁が娘を俺に預かるように頼んでいる。そして嫁は俺を愛している」

 とりあえずそれだけがこの文面から読み取ることが出来た。

「って、できるかコラァ! なになにサギだコレは! いや、心当たりは多いけども、これはいきなりすぎるだろうが! それに、避妊はしてきたはず……だよな? いや、ナマ中出しする際もちゃんと安全日だとかアフピルしてるからから大丈夫と言質取って、それ以上確認はしなかったときもあったけども……」

 これまで不良として相当エグイことをしてきた自覚はあるし、女性関係で子供が出来そうなことは腐るほどしてきたが、こればっかりはいきなりすぎて受け入れられなかった。
 しかし周りはそうだと思わない。その証拠に、通りすがりの連中は変な目で見てくる。

「あれ『四王者』の一人、『皇帝』じゃねえ? 今日は登校するのかよ」
「四王者? 皇帝? なんなのそれ」
「知らねえの? 四王者って去年までこの街を騒がせていた四人の不良のことだよ」
「四人の不良?」
「そっ。奴はその一人の志鋼英成。名前が中華統一のアレに似ているから、皇帝だってさ」
「なにそれー、すっごいダサい!」
「バカ。あだ名はマヌケでも、あいつは相当のワルなんだから、ぶっ殺されるし、女は犯されるぞ!」
「えっ、そんなに怖いの?」
「ああ。とくに、ヤツの握力はハンパじゃなくて、その握力で相手の頭をジワジワと握り締めてくのが好きっていう、変人だよ。そして、女は手当たり次第にヤリまくるっていう性獣だって噂だし……」

 登校途中のカップルなのだろうか、英成の噂話を小声でしながら盛り上がる。
 その声はちゃんと英成の耳まで届いている。しかし、今はそれどころではなかった。
 今は目の前のこの問題をどう解決するかで、頭がいっぱいだった。
 すると、英成の気持ちも知らずに、幼女は英成に尋ねる。

「ねー、おとーさん、さっきからどーしたの? 頭痛い?」
「……ああ、いてーよ」

 確かに頭が痛い。だが、いつまでも考えていても仕方がない。
 そして、英成は改めてスマホをチェック。

「俺がヤッた女関係で……ふむふむ……ここら辺はこの間も会ったし、つーかこんな年齢のガキがいるってことは……4~5歳ぐらいか?」

 幼女は4~5歳には見える。
 つまり、自分が4~5年前に関係を持った女性と言うことになるが……

「って、そのころは俺はまだ小学生から中学一年生の間あたりじゃねえか! 俺が童貞卒業したのは一昨年だし……よし、俺じゃねえ!」

 状況を整理し、動揺した心を落ち着けた英成。

「あ~よかった。人違いか知らねえが、心当たりないんでな。ワリーが置いていくぜ」

 とにかく関わらないことにした。
 英成は幼女を置き去りにして、その場から立ち去ることにした。
 だが、その瞬間、

「えっ……おとーさん?」

 幼女が呆然として言葉を呟く。
 そして急に掛け出し、英成の背中に飛びついて来た。

「おとーさん、どこ行くの!」

 幼女の涙の入り混じった声が響いた。

「ええーい、放せ! 俺はお父さんじゃねえ!」
「なんで! おとーさんは、『オルタ』のおとーさん!」
「オルタ? 外人かよ! ならば、なおのこと心当たりはねえ!」

 どうやら、幼女の名前はオルタというらしい。
 見た目から何となく予想はしていたが、純粋な日本人では無さそうだ。
 赤みのある髪の色は自分と同じだが、それだけで娘だと認めるのは無理がありすぎた。
 しかし、そんな英成を無視して、周りは勝手に誤解していく。

「信じられねー、皇帝の奴、もう子供までいんのかよ。やっぱ、ワルだぜ」。
「最近の子は、高校生で子供が居るのか? これだから若者は後先考えない……」
「しかも、自分の子供じゃないなんて言ってるけど……認知してないってこと?」

 自分は無実だと英成は叫びたかった。

「ええーい、知らねえって言ってんだろうが! そんなに言うんだったら、テメエの母親連れて来い! 今すぐこの場に連れて来やがれ!」
「……おかーさん……やることあって忙しいから、おとーさんと一緒にいろって……」
「知ったことか! また俺を、おとーさんなんて呼んだら、容赦なくゲンコツかますぞ! ひっぱたかれたくなかったら、二度と俺の前にツラ見せんな!」

 オルタの瞳にはみるみると涙が溢れていく。

「なんで……おとーさ……」

 オルタが英成をお父さんともう一度呼ぼうとした瞬間、住宅街のコンクリートブロックが、グシャッと潰れた音がした。
 それは、英成がブロックの一部を素手で掴んで引きちぎった音。
 英成は、握った拳をオルタの前に差し出し、砂と化したブロックの残骸を見せた。

「クソガキ……優しいお兄ちゃんじゃなくて悪いけど、不良を困らせんなよ。ケーサツに行け。あんまガキだからって笑えない嘘をつくんじゃねえよ」

 これぐらいキツク言わないと、いつまでも時間を取られるだけだ。
 英成は、まったく心を痛めず、周りの目も気にせずにオルタに言う。
 しかし、オルタはそれでも英成に言う。

「おとーさん……オルタ……嫌いになった? オルタ……もう、ワガママ言わないよ」
「おい、だから俺はお前の……」
「だっこの数減らす……ちゃんということきく……だから……らがら……」

 ヤバイと英成は思った。
 さきほどまでギリギリで保っていた、オルタの涙腺ダムが決壊した。

「おどーさん! おど―さん! うわあああああああん」
「だから俺はお父さんじゃないってーの!」
「うわああああん、ごめんなさい、オルタちゃんとするから、オルタのこと捨てないで!」

 正直泣きたいのは英成のほうだった。ここまで泣かれると、殴る気も失せる。
 ならば置いていこう。どれだけ泣き叫ばれようと、自分には関係ないのだ。

「……とにかく、知らん!」
「おどーさん! おどーさん! うわあああああああん」
「おい、通行人! 誰でもいいから警察呼べぇ! 警察連れていけ! 迷子の迷子の外国人! 俺が連れてったら幼女連れ回しで逮捕される!」

 オルタの泣き声を無視し、英成は両耳を塞いで、目が合った通行人たち全員に向けて叫んで走る。

 途中後ろを振り返ると、幼女は通行人たちに囲まれてあやされているようなので、これなら大丈夫、後は誰かがどうにかしてくれるだろうと確認したうえで、そのまま英成は立ち去った。

 とはいえ、ケンカでは一度も逃げたことのない英成にとって、何だか逃げたような気分だった。
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