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【奏】第1話:ゆーくん
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ゆーくんに初めて会ったのは、小学校4年生のときに地元にあるサッカークラブに入ったのがきっかけだった。
私は小さい頃からスポーツが大好きで、休日になるとパパとたくさん運動して遊んでいた。その中でもサッカーがとても好きだったので、小4になったタイミングでパパの勧めもあり、新しく出来たサッカークラブに入ってみたのだ。
-
「サッカー上手だね! 俺の名前は山岸優李って言うんだ。君はなんていう名前なの?」
「か、奏。美山奏です」
当時の私は人見知りが凄くて、自分の名前を言うのも一苦労だった。本当は話し掛けられても無視したかったんだけど、これから同じサッカークラブで一緒にサッカーするならここで頑張らないと思い、勇気を出して自分の名前を伝えた。
私は顔が真っ赤になっていると分かるくらい、火照ってしまい「れ、練習したいから」と言いながらグラウンドに逃げてしまった。
(うぅ……変な子だと思われちゃったかな……)
その後私はあまりにも恥ずかしくて、ゆーくんの姿が目に入る度に顔を背けるようになってしまった。
-
サッカークラブに入って、気付いたら二ヶ月が経過していた。
この頃になると私もだいぶ周りのみんなと慣れてきたのだが、なぜかゆーくんを見るとどうしても恥ずかしくなってしまう。なぜそうなってしまうのか、私には全然分からなかった。
私とゆーくんの関係がちょっと前進したのは、4年生チームのポジション決めで、ゆーくんが攻撃的ミッドフィールダー、そして私がフォワードになってから。
「美山さん! 俺たちこれからもっと話し合った方がいいと思うんだ。だって美山さんのことをもっと知らないと、最高のパスを送れなくなっちゃうもん」
ポジションを伝えられたゆーくんは、一目散に私の元へやって来て、目をキラキラさせながら私に話し掛けてきた。
私はちょっとだけその勢いに吃驚しながらも、なんか目の前で必死に話してる男の子がとても可愛く見えて、気付いたら少し笑ってしまった。
ゆーくんは一瞬不思議そうな顔をしたけど、私が嫌がっていないと思ったのかさっきよりも笑顔になって、「これから2人でコンビネーションの練習をしよう」と言うと、私の手を取ってセンターサークルまで走り出した。
私は男の子に初めて手を掴まれて、なんかとてもドキドキしてしまったが、全然嫌な気分はせずに、むしろちょっと嬉しいなんて思ってしまった。
-
気付いたらゆーくんは私のことを『奏』と呼び捨てするようになり、私も『ゆーくん』と呼ぶようになっていた。
私とゆーくんは小学校が違うので、会えるのはサッカークラブがある土日のどちらかだけだった。それがとても寂しくて、練習が終わるとすぐに、早く次の練習になるといいなってずっと考えていた。
あっ、そう言えば、ゆーくんと仲良くなったことで、私にちょっとした変化があった。それは、私の人見知りがちょっと改善されたのだ。太陽のようなゆーくんと一緒にサッカーをしていたことで、どうやら私の心がとても暖かくなり、ポジティブに物事を考えられるようになったからだと思う。
ゆーくんって、あんなに情けなかった私の心まで変えちゃうんだから凄いよね。
そして、夏休みに入ると、ついに4年生チームが初めて試合をする日がやって来た。私とゆーくんは、今までの練習の成果を見せようと試合に臨んだけど、結果は5対0でぼろ負けしてしまった。
私は悔しくて涙を流していると、ゆーくんが近付いてきて「またたくさん練習して次こそは勝とうな」って笑顔で励ましてくれた。私は俯いたままゆーくんの手を見たら、手のひらに指が食い込むくらい力を入れて拳を握りしめていた。
(そうだよね。あんなに頑張ってたゆーくんが悔しくないわけないよね)
私は一人で泣いているのがみっともなく思えたので、袖口で目を擦って「うん。次は勝とうね」って笑顔で返事をした。
そして、試合後に両親の元へ行った私は、ゆーくんはどこにいるのかと周りを見渡した。すると、ゆーくんの隣に見たことのない、とても綺麗な女の子がいた。その子は優しい笑顔を浮かべて、ゆーくんの頭を撫でていた。どうやらゆーくんは泣いているようだった。
私は胸がズキリと痛んだのを感じた。
私には涙を見せてくれないのに、あの子の前ではゆーくんは泣くことができるんだね……。
ゆーくんとあの子はどういう関係なんだろう?
私は翌週の練習で、ゆーくんに誰なのかを聞いてみた。
「うわぁ。ひょっとして俺が泣いてるのも見ちゃった?」
「うん。ごめんね、見ちゃった」
「そっかぁ。まぁ、いいや。それで、えっとぉ……あぁ、そう。俺と一緒にいたのは幼馴染みの羽月って言うんだ。家も隣同士で昔っから一緒にいる兄妹みたいなやつだよ」
「そ、そうなんだ。仲良さそうだったもんね……」
ゆーくんのちょっと照れながらも、嬉しそうに話す姿を見て、私はゆーくんが羽月と呼ばれた女の子に兄妹以上の感情があることがなんとなく分かってしまう。私はそれがとても悲しかった。
-
月日は流れて、私とゆーくんは同じ中学校へ進学した。
もちろん羽月ちゃんも一緒の中学校だ。
私は、小学生の時から羽月ちゃんとも気付いたら遊ぶようになっていて、いつの間にか親友って言えるくらい仲良しになっていた。あとよく遊ぶメンバーに、光輝くんっていう男の子がいる。
私たちは小学校の頃から変わらず仲良しだったけど、関係性が大きく崩れてしまうことがおきた。それは、中2になったときに、ゆーくんと羽月ちゃんが恋人同士になったのだ。
いつかこんな日が来ると覚悟していたけど、流石にショックが大きかった。分かってる。ゆーくんは出会ったときから羽月ちゃんのことしか目に入っていなかった。
例え私とどれだけサッカーのコンビネーションを高めても、ゆーくんの気持ちが私に向くことはなく、私が一方的にパスを出し続けていた気分になってしまう。実際のサッカーだったら、ゆーくんが私にパスをくれる役目だったのにね……。
あの2人のいつもと違う距離感を見ていると、胸が張り裂けそうになるくらい苦しかったので、距離を置こうと思った時期もあった。
だけど、ゆーくんの近くにいられない方が、もっと辛いことに気がついて、私は自分の気持ちにそっと蓋をして、ゆーくんのことを後ろから見守ることにした。
-
中学3年生になっても、あの2人はずっと仲良しだった。
どうやら高校も同じところを志望しているらしい。
以前どこの高校に行く予定なのかゆーくんに聞いてみたら、今の私の成績では絶対に入れないような進学校だった。
私は怖かった。
別々の高校に入ってしまうと、ゆーくんとの関係が完全に途切れてしまうのではないかと思った。
だって私は、幼馴染みとはいえ、ゆーくんにとっては数多くいる友人の中の一人でしかないのだから。
ゆーくんにとって私は特別ではないけど、私にとって特別なゆーくんと離れ離れになるのがどうしても嫌で、私は思い切ってゆーくんと同じ高校を志望することに決めた。
先生からは、今の成績では無謀だと言われてしまったが、受験まであと10ヶ月くらいある。今から諦めてやるものか。
それから私は寝る間も惜しんで勉強をした。
すると勉強すればしただけ成績は上がっていき、ついには学内順位で5位までに入れるようになったのだ。ちなみに1位は羽月ちゃんで、3位がゆーくんだった。
そして、私はゆーくんと羽月ちゃんと一緒に、受験に挑んでなんとか合格を掴み取ることが出来た。
私は受験に合格したことや、今までの苦労から解放されることよりも、ゆーくんとまた一緒に学校生活を送れることに安堵した。
(良かった。ゆーくんとまた3年間一緒に居られるよ)
私は小さい頃からスポーツが大好きで、休日になるとパパとたくさん運動して遊んでいた。その中でもサッカーがとても好きだったので、小4になったタイミングでパパの勧めもあり、新しく出来たサッカークラブに入ってみたのだ。
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「サッカー上手だね! 俺の名前は山岸優李って言うんだ。君はなんていう名前なの?」
「か、奏。美山奏です」
当時の私は人見知りが凄くて、自分の名前を言うのも一苦労だった。本当は話し掛けられても無視したかったんだけど、これから同じサッカークラブで一緒にサッカーするならここで頑張らないと思い、勇気を出して自分の名前を伝えた。
私は顔が真っ赤になっていると分かるくらい、火照ってしまい「れ、練習したいから」と言いながらグラウンドに逃げてしまった。
(うぅ……変な子だと思われちゃったかな……)
その後私はあまりにも恥ずかしくて、ゆーくんの姿が目に入る度に顔を背けるようになってしまった。
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サッカークラブに入って、気付いたら二ヶ月が経過していた。
この頃になると私もだいぶ周りのみんなと慣れてきたのだが、なぜかゆーくんを見るとどうしても恥ずかしくなってしまう。なぜそうなってしまうのか、私には全然分からなかった。
私とゆーくんの関係がちょっと前進したのは、4年生チームのポジション決めで、ゆーくんが攻撃的ミッドフィールダー、そして私がフォワードになってから。
「美山さん! 俺たちこれからもっと話し合った方がいいと思うんだ。だって美山さんのことをもっと知らないと、最高のパスを送れなくなっちゃうもん」
ポジションを伝えられたゆーくんは、一目散に私の元へやって来て、目をキラキラさせながら私に話し掛けてきた。
私はちょっとだけその勢いに吃驚しながらも、なんか目の前で必死に話してる男の子がとても可愛く見えて、気付いたら少し笑ってしまった。
ゆーくんは一瞬不思議そうな顔をしたけど、私が嫌がっていないと思ったのかさっきよりも笑顔になって、「これから2人でコンビネーションの練習をしよう」と言うと、私の手を取ってセンターサークルまで走り出した。
私は男の子に初めて手を掴まれて、なんかとてもドキドキしてしまったが、全然嫌な気分はせずに、むしろちょっと嬉しいなんて思ってしまった。
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気付いたらゆーくんは私のことを『奏』と呼び捨てするようになり、私も『ゆーくん』と呼ぶようになっていた。
私とゆーくんは小学校が違うので、会えるのはサッカークラブがある土日のどちらかだけだった。それがとても寂しくて、練習が終わるとすぐに、早く次の練習になるといいなってずっと考えていた。
あっ、そう言えば、ゆーくんと仲良くなったことで、私にちょっとした変化があった。それは、私の人見知りがちょっと改善されたのだ。太陽のようなゆーくんと一緒にサッカーをしていたことで、どうやら私の心がとても暖かくなり、ポジティブに物事を考えられるようになったからだと思う。
ゆーくんって、あんなに情けなかった私の心まで変えちゃうんだから凄いよね。
そして、夏休みに入ると、ついに4年生チームが初めて試合をする日がやって来た。私とゆーくんは、今までの練習の成果を見せようと試合に臨んだけど、結果は5対0でぼろ負けしてしまった。
私は悔しくて涙を流していると、ゆーくんが近付いてきて「またたくさん練習して次こそは勝とうな」って笑顔で励ましてくれた。私は俯いたままゆーくんの手を見たら、手のひらに指が食い込むくらい力を入れて拳を握りしめていた。
(そうだよね。あんなに頑張ってたゆーくんが悔しくないわけないよね)
私は一人で泣いているのがみっともなく思えたので、袖口で目を擦って「うん。次は勝とうね」って笑顔で返事をした。
そして、試合後に両親の元へ行った私は、ゆーくんはどこにいるのかと周りを見渡した。すると、ゆーくんの隣に見たことのない、とても綺麗な女の子がいた。その子は優しい笑顔を浮かべて、ゆーくんの頭を撫でていた。どうやらゆーくんは泣いているようだった。
私は胸がズキリと痛んだのを感じた。
私には涙を見せてくれないのに、あの子の前ではゆーくんは泣くことができるんだね……。
ゆーくんとあの子はどういう関係なんだろう?
私は翌週の練習で、ゆーくんに誰なのかを聞いてみた。
「うわぁ。ひょっとして俺が泣いてるのも見ちゃった?」
「うん。ごめんね、見ちゃった」
「そっかぁ。まぁ、いいや。それで、えっとぉ……あぁ、そう。俺と一緒にいたのは幼馴染みの羽月って言うんだ。家も隣同士で昔っから一緒にいる兄妹みたいなやつだよ」
「そ、そうなんだ。仲良さそうだったもんね……」
ゆーくんのちょっと照れながらも、嬉しそうに話す姿を見て、私はゆーくんが羽月と呼ばれた女の子に兄妹以上の感情があることがなんとなく分かってしまう。私はそれがとても悲しかった。
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月日は流れて、私とゆーくんは同じ中学校へ進学した。
もちろん羽月ちゃんも一緒の中学校だ。
私は、小学生の時から羽月ちゃんとも気付いたら遊ぶようになっていて、いつの間にか親友って言えるくらい仲良しになっていた。あとよく遊ぶメンバーに、光輝くんっていう男の子がいる。
私たちは小学校の頃から変わらず仲良しだったけど、関係性が大きく崩れてしまうことがおきた。それは、中2になったときに、ゆーくんと羽月ちゃんが恋人同士になったのだ。
いつかこんな日が来ると覚悟していたけど、流石にショックが大きかった。分かってる。ゆーくんは出会ったときから羽月ちゃんのことしか目に入っていなかった。
例え私とどれだけサッカーのコンビネーションを高めても、ゆーくんの気持ちが私に向くことはなく、私が一方的にパスを出し続けていた気分になってしまう。実際のサッカーだったら、ゆーくんが私にパスをくれる役目だったのにね……。
あの2人のいつもと違う距離感を見ていると、胸が張り裂けそうになるくらい苦しかったので、距離を置こうと思った時期もあった。
だけど、ゆーくんの近くにいられない方が、もっと辛いことに気がついて、私は自分の気持ちにそっと蓋をして、ゆーくんのことを後ろから見守ることにした。
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中学3年生になっても、あの2人はずっと仲良しだった。
どうやら高校も同じところを志望しているらしい。
以前どこの高校に行く予定なのかゆーくんに聞いてみたら、今の私の成績では絶対に入れないような進学校だった。
私は怖かった。
別々の高校に入ってしまうと、ゆーくんとの関係が完全に途切れてしまうのではないかと思った。
だって私は、幼馴染みとはいえ、ゆーくんにとっては数多くいる友人の中の一人でしかないのだから。
ゆーくんにとって私は特別ではないけど、私にとって特別なゆーくんと離れ離れになるのがどうしても嫌で、私は思い切ってゆーくんと同じ高校を志望することに決めた。
先生からは、今の成績では無謀だと言われてしまったが、受験まであと10ヶ月くらいある。今から諦めてやるものか。
それから私は寝る間も惜しんで勉強をした。
すると勉強すればしただけ成績は上がっていき、ついには学内順位で5位までに入れるようになったのだ。ちなみに1位は羽月ちゃんで、3位がゆーくんだった。
そして、私はゆーくんと羽月ちゃんと一緒に、受験に挑んでなんとか合格を掴み取ることが出来た。
私は受験に合格したことや、今までの苦労から解放されることよりも、ゆーくんとまた一緒に学校生活を送れることに安堵した。
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