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それぞれ
【光輝】第3話:奪って堕ちる
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「……あのね。今私のお腹の中に貴方の赤ちゃんがいるの」
羽月が話がというので、花咲公園に足を運ぶと羽月から妊娠した、結婚してくれと言われてしまった。
嘘だろ?
安全日しか生でやってないし、それ以外はゴムをつけてセックスをしていた。
それでなんで妊娠なんてすんだよ。
俺は無理だと伝えた。
当たり前だろ、高校生が結婚して子供産んで生活するなんてハードモードに決まってるじゃねぇか。それに俺は大学にも行って、もっと遊びたいんだよ。
「羽月、お腹にいる子は堕すんだ。これはお願いじゃない。絶対に堕すんだ」
俺は羽月に堕ろせと伝えて、足早に公園から出て家に戻った。
俺は部屋にあった雑誌を手に取ると、怒りに任せて投げつけてしまう。
(くそっ、なんでこんなことになってるんだよ)
それから30分くらいすると、徐々に冷静になることができた。
あそこまで産みたいと言った羽月が、俺が堕ろせと言ったからって、素直にすぐ堕すとは思えない。今日は冷静ではいられなくなってしまったが、今はもう大丈夫だ。次に会ったときにちゃんと説明すれば大丈夫だろう。
学生結婚の大変さは、俺の両親を見ていれば嫌でも良く分かってしまう。
俺が小さいの頃から2人は、汗水垂らして必死に働いていた。そんな両親を見て感謝はすれど、こんな風にはなりたくないと子供ながらに思っていたのだ。
-
羽月と公園で話してから2日後。
俺は、親父とお袋に呼ばれたのでリビングに向かい、ダイニングテーブルに腰を下ろした。
目の前で座っている2人の表情はとても硬く、これから始まる話の内容の深刻度が窺えた。そして、親父が重い口を開く。
「光輝……お前、羽月ちゃんのこと妊娠させたくせに、優しく接するどころか一方的に中絶しろなんて屑なことを口にしたらしいな」
俺は父親がそのことを知っていることに驚愕した。
お袋を見ると、親父と同様に厳しい顔をしているのでもちろん知っているのだろう。
何故?
何故だ?
あれからまだ全然時間が経ってないんだぞ?
「羽月ちゃんが、私のところに勇気を振り絞って相談しに来てくれたのよ」
羽月が?
あいつにそんな行動力があるとは思わなかった……。
「で? 本当にそんなことを言ったのか? お前は羽月ちゃんのことを愛していないのか? 愛していないのに羽月ちゃんのことを身篭らせたのか?」
「い、や……羽月のことは愛してる……」
「だったら何故羽月ちゃんに寄り添ってあげない? 羽月ちゃんは、苦労をする覚悟がある。それでもお前と結婚をして子供を産みたいって堂々と言ったらしいぞ」
俺は顔を上げることができず、俯いたまま親父の話を聞いていた。
「お前はどうなんだ? 愛していると言葉で言うのは簡単だが、お前の言動は羽月ちゃんを傷つけてるだけだ。そんなのは愛だなんて言わない」
「だ、だってよ……学生結婚なんてしたって、大変になるだけじゃないかよ」
「あぁ、大変だ。大変だよ。だけど、ちゃんと幸せになることはできる。結婚してからもお前が、羽月ちゃんと産まれてくる子供のことだけを考えて生きていれば絶対に幸せになれる」
「羽月ちゃんの想いは本物だったわよ。私に相談するのは本当に怖かったんだと思う。顔を青褪めながら、ずっと手を震わせて、それでも必死に私に想いを伝えてきてくれたわ」
今まで黙っていたお袋が、相談したときの羽月の様子を話しはじめた。羽月が頑張っている光景が俺の脳裏に描写されてしまう。
「学生が誰かに妊娠してしまったって相談するのはとても勇気がいることなの。私も経験しているから、羽月ちゃんの気持ちが痛いほど分かってしまうわ。だけど、羽月ちゃんと私が違うのは、男側に覚悟があったか、女のことをしっかり考えていたのか、っていうところかしら。はっきり言ってあなたが羽月ちゃんにしたことは最低のことよ」
一気に話して喉が渇いたのか、目の前にあるコップの中身を一気に飲み干すと、改めて俺の顔を真正面から見つめてくる。
「あなたの不安になる気持ちは分かるわ。あなたが羽月ちゃんのことを愛していない、もう別れたいというならあちらに対して家族全員で謝罪に行きましょう。もしそうではなく、羽月ちゃんのことを愛しているなら……そのときは羽月ちゃんと一緒に、あちらのお母さんのところへみんなで結婚のお願いに行きましょう」
「あと、言っておくが惚れた相手の心と身体を傷つけて、お前だけが特に罰がないなんてあちらさんに顔向けができないからな。中絶して別れるというなら、お前はもう俺たちの子供じゃない。高校卒業までは面倒みてやるが、その後はお前自身の力だけで生きていけ」
これは言葉は脅しではない。
俺の両親は、昔から義理を欠いた行動をすると、俺だけじゃなく他人の家の子供だろうと烈火の如く叱っていた。
羽月と別れると言ったら本気で俺のことを追い出すだろう。
「……俺も羽月を愛している。責任をしっかり取って、羽月と結婚させてもらうよ」
大学に行って遊べないのはキツイけど、この状況はどちらに転んでも大学なんて行かせてもらえそうもない……。それだったら大人しく結婚して、羽月を完全に手に入れるのが今の俺にとって最前だと俺は判断した。
-
その後改めて羽月に結婚をしたいという旨を伝えた。
そして、俺たち家族と羽月を交えて、改めて羽月の覚悟を聞いてから、羽月の母親に結婚のお願いをしに行った。
最初は反対していたが、俺と羽月が何度もお願いをするとついに折れてくれた。ただ、その顔は娘が結婚することを喜んでいる顔ではなかった。
出産と結婚が決まった俺たちは、今後のことを話し合った。
その結果、羽月は自主退学、俺は卒業までは高校に在籍をして、親父の会社に紹介で入社することになった。
そして、俺は結婚に向けてもう一つやらないといけないことがあった。
それは、セフレとの縁を切ること。
俺は夏休み前くらいに知り合ったセフレに連絡をして、別れることを告げた。この女は以前羽月と一緒にいるところを見かけて、衝動的にセックスをしたいと思い関係を持ってしまった。羽月も紗雪もお互いが俺と関係を持っていることを知らないし、バレなければ大丈夫だろうと思ったのだ。
それにしてもあいつらの文化祭に行ったときは、さすがにバレないかハラハラしたな。まぁ、スリルがあって楽しかった訳だが。
羽月と結婚することになったから、とりあえずもう関係は終わりってRINEで伝えた。すると電話が掛かって来て正直ウザいとしか思えなかった。しかも思ったよりもしつこくて、別れるのに一苦労したが、最終的に無事に縁を切ることができた。まさか、あいつが俺のことを恋人と思っていたとはな……。
-
高校を卒業すると同時に俺は親父と同じ会社に就職をして、昼夜問わず働きまくった。親父と同じ会社だし、実家に暮らしているのであまり遊ぶこともできずに俺はストレスをどんどんと溜め込んでいく。
あるとき羽月が隣町に新しくできたショッピングモールに行きたいと言ってきた。別に予定がなかったので、了承したがその帰りにまた優李と奏が知らない2人と楽しそうにしている姿を見てしまった。
実はこういうことが、かなり頻繁にあった。
俺の仕事が終わって疲れ切って駅から出ると、あいつらが能天気に遊んでいるのだ。洋服は今っぽくてオシャレだし、髪の毛も綺麗に整えられていて、見るからにリア充の勝ち組だった。ヨレヨレのスーツを来た俺とは比べ物にならない。
あいつらを見る度に、俺は今の境遇が理不尽に感じてしまう。
なんで俺ばかりこんな苦しい目に合わないとダメなんだ……。
そして、今日もまた楽しそうにしてるあいつらが俺の視線の先ではしゃいでいる。俺は優李を羽月に見せたくなかったので、「行きたいところがある」なんて嘯いて遠回りの道を選んだ。
何も知らない羽月は「どこに行くの?」と聞いてきた。だが、その問いに対する答えを持っていない俺は、その質問に答えることなく、ただこの場から離れたい一心で歩き続ける。
そして俺の中で何かが切れる音が聞こえた。
-
ある日仕事から俺が帰宅すると、親父とお袋、そして羽月がリビングにあるダイニングテーブルに座っている。テーブルの上には、何枚かの写真のような物が置いてあるのが見えた。
「光輝、そこに座れ」
親父が俺のことを見ずに、重く冷たい声を出した。
その言葉に従い椅子に腰を下ろした俺は、写真に目線を落とした。
「……なっ!?」
俺は驚愕した。
なんでこんな写真がここにあるんだ?
それは俺と不倫相手の女が腕を組みながら歩いている写真や、ラブホの中に入っていく写真だった。
「お前は一体何をしたか分かってるよな?」
「あっ……あ、あぁ……」
俺は掠れた声を出すのが精一杯だった。
隣に座っている羽月を見ると、ずっと俯いているが、洋服が濡れているので恐らく長い間泣いていたのだろう。
「光輝。この写真に写ってる女性だが、うちの会社で事務をしている佐久間さんじゃないのか?」
「そ、うです……」
「なんでお前は羽月ちゃんと羽美がいるのに、佐久間さんとこんなところに入ったんだ? いつから浮気をしていたんだ?」
「い、や……、時期……は、半年以上前くらい……から」
俺は親父からの追及に対して片言で答えていく。
その間羽月とお袋は一言も口を挟むことはなかった。
一通り質問が終わると、親父は羽月の方に体を向ける。
「羽月ちゃん。愚息が本当に申し訳ないことをした。今こんなことを聞くのは酷だと思うが、今後光輝と結婚生活を続けていけそうか?」
俺は羽月のことを縋るように見つめた。
「ごめんなさい。無理です。失礼します」
羽月はそう言うなり立ち上がって部屋へ戻っていった。
俺はその後を急いで追っていく。このままだと本当に羽月が俺からいなくなってしまうと思ったからだ。
俺が部屋のドアを開けると、スーツケース持って羽美を抱っこしていた羽月が部屋から出ようとするところだった。恐らく既に荷物をまとめていたのだろう。
「ま、待ってくれ、羽月」
羽月は俺を無視して部屋から出ようとする。
俺はそれを阻止するために、羽月の肩を掴んで俺の方に向かせた。
振り向いた羽月は、今まで見たことがない怒りの表情を浮かべている。
そして、怒気を含んだ声で「離して」と言った。
「いや、待ってくれ。頼むから話を聞いてくれ」
「うるさいのよ! あなたは私を裏切った。私だけじゃなく羽美のことだって! 今更あなたが何を言おうと意味がないの。謝っても意味がない。私のことを裏切ったあなたの謝罪なんて聞きたくもないのよ。私はもうあなたの顔も見たくないし、声も聞きたくない」
そう言うと俺の手を払い除けて、親父たちに挨拶をすると羽月は家から出て行ってしまう。待ってくれ。
俺は家から出て行った羽月の後を追った
「頼む。もう一度話をしよう」
パンッ!
通路の真ん中で大きく渇いた音が鳴り響いた。
俺の頬がジンジンと痛んでる。
放心状態で羽月のことを見ると、フゥーフゥーと息を荒げて俺のことを睨んでいる。
「私のことを裏切ったあなたの顔なんてもう一生見たくないの! もう二度と姿を見せないで」
俺はその場で座り込んでしまった。
そして気付いてしまったのだ。
俺が一番愛していたはずの羽月を手放してしまったことに。
-
俺と羽月は離婚をした。
会社はクビになり、親父には勘当をされて家から追い出されてしまう。
手切金として100万ほど渡されて、別の街で暮らせと言われた俺は、隣の県に移住して一人暮らしをしている。
仕事はなんとか見つけることが出来たが、以前と比べて労働環境は最悪だった。羽月と浮気相手の旦那への慰謝料は、俺の名義で振り込まれるのは、あちらも嫌だろうということで、親父経由で支払いが行われている。最悪俺のケツを拭く覚悟なのかも知れない。
-
独りになった俺は、また女遊びをするようになった。
以前のようにホームレスに金を渡して、彼氏がいる女のことを寝取っているのだ。だけど、上手くいったのは最初だけだった。
いつものように女を奪うと、俺はそいつと何度も俺の家やラブホテルでセックスをした。そいつはどことなく羽月に似ていて、俺はその面影を感じているとなんだか心が落ち着いてくるのが分かった。
そして、その時は突然来た。
俺とそいつは、いつものようにセックスをしてラブホから外に出ると、複数の警察官が俺たちのことを囲んできた。俺は興味がなかったので聞いてなかったのだが、どうやらそいつの年齢は17歳だったらしい。
俺を取り囲んでいた警察の奥に、女の元カレらしき男が俺の事を睨んでいたので、恐らくこいつが警察を呼んだんだろう。
俺は未成年とセックスをしたことで、青少年健全育成条例違反で逮捕されてしまった。
-
俺はパトカーに揺られながら、今までのことを振り返っていた。
どこから俺の人生は狂い始めた?
羽月と別れてから?
いや、違う。
おそらく羽月のことを諦めきれず、初めて抱いたときからだろう。
俺はあの快楽の虜になってしまい、狂ってしまったのだ。
今まで多くの男たちから女を奪ってきた。
だけど俺の元には誰も残ってはいない。
あのとき羽月のことを諦めることができていたら、こんな人生になってなかったのかな。
***後書き***
光輝編終了です。
ひょっとしたらこの小説で一番良い仕事をしたのは、羽月の面影がある女の子の元カレだったのかもしれません。
羽月が話がというので、花咲公園に足を運ぶと羽月から妊娠した、結婚してくれと言われてしまった。
嘘だろ?
安全日しか生でやってないし、それ以外はゴムをつけてセックスをしていた。
それでなんで妊娠なんてすんだよ。
俺は無理だと伝えた。
当たり前だろ、高校生が結婚して子供産んで生活するなんてハードモードに決まってるじゃねぇか。それに俺は大学にも行って、もっと遊びたいんだよ。
「羽月、お腹にいる子は堕すんだ。これはお願いじゃない。絶対に堕すんだ」
俺は羽月に堕ろせと伝えて、足早に公園から出て家に戻った。
俺は部屋にあった雑誌を手に取ると、怒りに任せて投げつけてしまう。
(くそっ、なんでこんなことになってるんだよ)
それから30分くらいすると、徐々に冷静になることができた。
あそこまで産みたいと言った羽月が、俺が堕ろせと言ったからって、素直にすぐ堕すとは思えない。今日は冷静ではいられなくなってしまったが、今はもう大丈夫だ。次に会ったときにちゃんと説明すれば大丈夫だろう。
学生結婚の大変さは、俺の両親を見ていれば嫌でも良く分かってしまう。
俺が小さいの頃から2人は、汗水垂らして必死に働いていた。そんな両親を見て感謝はすれど、こんな風にはなりたくないと子供ながらに思っていたのだ。
-
羽月と公園で話してから2日後。
俺は、親父とお袋に呼ばれたのでリビングに向かい、ダイニングテーブルに腰を下ろした。
目の前で座っている2人の表情はとても硬く、これから始まる話の内容の深刻度が窺えた。そして、親父が重い口を開く。
「光輝……お前、羽月ちゃんのこと妊娠させたくせに、優しく接するどころか一方的に中絶しろなんて屑なことを口にしたらしいな」
俺は父親がそのことを知っていることに驚愕した。
お袋を見ると、親父と同様に厳しい顔をしているのでもちろん知っているのだろう。
何故?
何故だ?
あれからまだ全然時間が経ってないんだぞ?
「羽月ちゃんが、私のところに勇気を振り絞って相談しに来てくれたのよ」
羽月が?
あいつにそんな行動力があるとは思わなかった……。
「で? 本当にそんなことを言ったのか? お前は羽月ちゃんのことを愛していないのか? 愛していないのに羽月ちゃんのことを身篭らせたのか?」
「い、や……羽月のことは愛してる……」
「だったら何故羽月ちゃんに寄り添ってあげない? 羽月ちゃんは、苦労をする覚悟がある。それでもお前と結婚をして子供を産みたいって堂々と言ったらしいぞ」
俺は顔を上げることができず、俯いたまま親父の話を聞いていた。
「お前はどうなんだ? 愛していると言葉で言うのは簡単だが、お前の言動は羽月ちゃんを傷つけてるだけだ。そんなのは愛だなんて言わない」
「だ、だってよ……学生結婚なんてしたって、大変になるだけじゃないかよ」
「あぁ、大変だ。大変だよ。だけど、ちゃんと幸せになることはできる。結婚してからもお前が、羽月ちゃんと産まれてくる子供のことだけを考えて生きていれば絶対に幸せになれる」
「羽月ちゃんの想いは本物だったわよ。私に相談するのは本当に怖かったんだと思う。顔を青褪めながら、ずっと手を震わせて、それでも必死に私に想いを伝えてきてくれたわ」
今まで黙っていたお袋が、相談したときの羽月の様子を話しはじめた。羽月が頑張っている光景が俺の脳裏に描写されてしまう。
「学生が誰かに妊娠してしまったって相談するのはとても勇気がいることなの。私も経験しているから、羽月ちゃんの気持ちが痛いほど分かってしまうわ。だけど、羽月ちゃんと私が違うのは、男側に覚悟があったか、女のことをしっかり考えていたのか、っていうところかしら。はっきり言ってあなたが羽月ちゃんにしたことは最低のことよ」
一気に話して喉が渇いたのか、目の前にあるコップの中身を一気に飲み干すと、改めて俺の顔を真正面から見つめてくる。
「あなたの不安になる気持ちは分かるわ。あなたが羽月ちゃんのことを愛していない、もう別れたいというならあちらに対して家族全員で謝罪に行きましょう。もしそうではなく、羽月ちゃんのことを愛しているなら……そのときは羽月ちゃんと一緒に、あちらのお母さんのところへみんなで結婚のお願いに行きましょう」
「あと、言っておくが惚れた相手の心と身体を傷つけて、お前だけが特に罰がないなんてあちらさんに顔向けができないからな。中絶して別れるというなら、お前はもう俺たちの子供じゃない。高校卒業までは面倒みてやるが、その後はお前自身の力だけで生きていけ」
これは言葉は脅しではない。
俺の両親は、昔から義理を欠いた行動をすると、俺だけじゃなく他人の家の子供だろうと烈火の如く叱っていた。
羽月と別れると言ったら本気で俺のことを追い出すだろう。
「……俺も羽月を愛している。責任をしっかり取って、羽月と結婚させてもらうよ」
大学に行って遊べないのはキツイけど、この状況はどちらに転んでも大学なんて行かせてもらえそうもない……。それだったら大人しく結婚して、羽月を完全に手に入れるのが今の俺にとって最前だと俺は判断した。
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その後改めて羽月に結婚をしたいという旨を伝えた。
そして、俺たち家族と羽月を交えて、改めて羽月の覚悟を聞いてから、羽月の母親に結婚のお願いをしに行った。
最初は反対していたが、俺と羽月が何度もお願いをするとついに折れてくれた。ただ、その顔は娘が結婚することを喜んでいる顔ではなかった。
出産と結婚が決まった俺たちは、今後のことを話し合った。
その結果、羽月は自主退学、俺は卒業までは高校に在籍をして、親父の会社に紹介で入社することになった。
そして、俺は結婚に向けてもう一つやらないといけないことがあった。
それは、セフレとの縁を切ること。
俺は夏休み前くらいに知り合ったセフレに連絡をして、別れることを告げた。この女は以前羽月と一緒にいるところを見かけて、衝動的にセックスをしたいと思い関係を持ってしまった。羽月も紗雪もお互いが俺と関係を持っていることを知らないし、バレなければ大丈夫だろうと思ったのだ。
それにしてもあいつらの文化祭に行ったときは、さすがにバレないかハラハラしたな。まぁ、スリルがあって楽しかった訳だが。
羽月と結婚することになったから、とりあえずもう関係は終わりってRINEで伝えた。すると電話が掛かって来て正直ウザいとしか思えなかった。しかも思ったよりもしつこくて、別れるのに一苦労したが、最終的に無事に縁を切ることができた。まさか、あいつが俺のことを恋人と思っていたとはな……。
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高校を卒業すると同時に俺は親父と同じ会社に就職をして、昼夜問わず働きまくった。親父と同じ会社だし、実家に暮らしているのであまり遊ぶこともできずに俺はストレスをどんどんと溜め込んでいく。
あるとき羽月が隣町に新しくできたショッピングモールに行きたいと言ってきた。別に予定がなかったので、了承したがその帰りにまた優李と奏が知らない2人と楽しそうにしている姿を見てしまった。
実はこういうことが、かなり頻繁にあった。
俺の仕事が終わって疲れ切って駅から出ると、あいつらが能天気に遊んでいるのだ。洋服は今っぽくてオシャレだし、髪の毛も綺麗に整えられていて、見るからにリア充の勝ち組だった。ヨレヨレのスーツを来た俺とは比べ物にならない。
あいつらを見る度に、俺は今の境遇が理不尽に感じてしまう。
なんで俺ばかりこんな苦しい目に合わないとダメなんだ……。
そして、今日もまた楽しそうにしてるあいつらが俺の視線の先ではしゃいでいる。俺は優李を羽月に見せたくなかったので、「行きたいところがある」なんて嘯いて遠回りの道を選んだ。
何も知らない羽月は「どこに行くの?」と聞いてきた。だが、その問いに対する答えを持っていない俺は、その質問に答えることなく、ただこの場から離れたい一心で歩き続ける。
そして俺の中で何かが切れる音が聞こえた。
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ある日仕事から俺が帰宅すると、親父とお袋、そして羽月がリビングにあるダイニングテーブルに座っている。テーブルの上には、何枚かの写真のような物が置いてあるのが見えた。
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親父が俺のことを見ずに、重く冷たい声を出した。
その言葉に従い椅子に腰を下ろした俺は、写真に目線を落とした。
「……なっ!?」
俺は驚愕した。
なんでこんな写真がここにあるんだ?
それは俺と不倫相手の女が腕を組みながら歩いている写真や、ラブホの中に入っていく写真だった。
「お前は一体何をしたか分かってるよな?」
「あっ……あ、あぁ……」
俺は掠れた声を出すのが精一杯だった。
隣に座っている羽月を見ると、ずっと俯いているが、洋服が濡れているので恐らく長い間泣いていたのだろう。
「光輝。この写真に写ってる女性だが、うちの会社で事務をしている佐久間さんじゃないのか?」
「そ、うです……」
「なんでお前は羽月ちゃんと羽美がいるのに、佐久間さんとこんなところに入ったんだ? いつから浮気をしていたんだ?」
「い、や……、時期……は、半年以上前くらい……から」
俺は親父からの追及に対して片言で答えていく。
その間羽月とお袋は一言も口を挟むことはなかった。
一通り質問が終わると、親父は羽月の方に体を向ける。
「羽月ちゃん。愚息が本当に申し訳ないことをした。今こんなことを聞くのは酷だと思うが、今後光輝と結婚生活を続けていけそうか?」
俺は羽月のことを縋るように見つめた。
「ごめんなさい。無理です。失礼します」
羽月はそう言うなり立ち上がって部屋へ戻っていった。
俺はその後を急いで追っていく。このままだと本当に羽月が俺からいなくなってしまうと思ったからだ。
俺が部屋のドアを開けると、スーツケース持って羽美を抱っこしていた羽月が部屋から出ようとするところだった。恐らく既に荷物をまとめていたのだろう。
「ま、待ってくれ、羽月」
羽月は俺を無視して部屋から出ようとする。
俺はそれを阻止するために、羽月の肩を掴んで俺の方に向かせた。
振り向いた羽月は、今まで見たことがない怒りの表情を浮かべている。
そして、怒気を含んだ声で「離して」と言った。
「いや、待ってくれ。頼むから話を聞いてくれ」
「うるさいのよ! あなたは私を裏切った。私だけじゃなく羽美のことだって! 今更あなたが何を言おうと意味がないの。謝っても意味がない。私のことを裏切ったあなたの謝罪なんて聞きたくもないのよ。私はもうあなたの顔も見たくないし、声も聞きたくない」
そう言うと俺の手を払い除けて、親父たちに挨拶をすると羽月は家から出て行ってしまう。待ってくれ。
俺は家から出て行った羽月の後を追った
「頼む。もう一度話をしよう」
パンッ!
通路の真ん中で大きく渇いた音が鳴り響いた。
俺の頬がジンジンと痛んでる。
放心状態で羽月のことを見ると、フゥーフゥーと息を荒げて俺のことを睨んでいる。
「私のことを裏切ったあなたの顔なんてもう一生見たくないの! もう二度と姿を見せないで」
俺はその場で座り込んでしまった。
そして気付いてしまったのだ。
俺が一番愛していたはずの羽月を手放してしまったことに。
-
俺と羽月は離婚をした。
会社はクビになり、親父には勘当をされて家から追い出されてしまう。
手切金として100万ほど渡されて、別の街で暮らせと言われた俺は、隣の県に移住して一人暮らしをしている。
仕事はなんとか見つけることが出来たが、以前と比べて労働環境は最悪だった。羽月と浮気相手の旦那への慰謝料は、俺の名義で振り込まれるのは、あちらも嫌だろうということで、親父経由で支払いが行われている。最悪俺のケツを拭く覚悟なのかも知れない。
-
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いつものように女を奪うと、俺はそいつと何度も俺の家やラブホテルでセックスをした。そいつはどことなく羽月に似ていて、俺はその面影を感じているとなんだか心が落ち着いてくるのが分かった。
そして、その時は突然来た。
俺とそいつは、いつものようにセックスをしてラブホから外に出ると、複数の警察官が俺たちのことを囲んできた。俺は興味がなかったので聞いてなかったのだが、どうやらそいつの年齢は17歳だったらしい。
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俺は未成年とセックスをしたことで、青少年健全育成条例違反で逮捕されてしまった。
-
俺はパトカーに揺られながら、今までのことを振り返っていた。
どこから俺の人生は狂い始めた?
羽月と別れてから?
いや、違う。
おそらく羽月のことを諦めきれず、初めて抱いたときからだろう。
俺はあの快楽の虜になってしまい、狂ってしまったのだ。
今まで多くの男たちから女を奪ってきた。
だけど俺の元には誰も残ってはいない。
あのとき羽月のことを諦めることができていたら、こんな人生になってなかったのかな。
***後書き***
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