最愛の幼馴染みと親友に裏切られた俺を救ってくれたのはもう一人の幼馴染みだった

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【優李】第2話:半同棲計画

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 大学に合格してから早くも約2年の月日が経ち、来年の4月には俺たちは大学3年生に進級することになる。そろそろ本気で将来に向けて、色々と考えなくてはいけない時期が迫ってきたが、その前に俺たちには重大なミッションがあった。

 実は、2ヶ月後の翌年2月頭から俺たち仲良し4人組は大学の最寄り駅で一人暮らしをすることが決まっているのだ。暮らすところもみんな同じマンションにして、いつでも行き来できるようにしようと計画している。



 -



 みんなで一人暮らし計画が議題に上がったのは、蝉が元気いっぱい鳴き始めた7月末のことだった。

 俺たち4人は、夏休みの計画を立てようとファミレスに集合したのだが、席につくなり悟が大きなため息をついたのだ。このパターンは、俺には今悩みがあるから、「どうしたの?」って聞いても良いんだよ、のため息である。
 俺は悟の思惑にまんまと乗っかるのが嫌だったが、このままだと話が先に進まないので、「どうした、悟?」と言ってやった。俺ってなんて優しいんだろうか。


「聞いてくれよ、優李。実はさ、どうしても1限に間に合う時間に起きることが出来なくてさ、このままだと卒業までに単位取り切れるか不安なんだよ」

「朝起きれない問題だったか……」

「山岸くんからも言ってあげてくれないかな。私が頑張って電話とかかけても全然起きてくれないんだよ」

「うーん。だからと言って、目覚ましつけろよ、くらいしか言えないよな。後は夜更かしするなよ、とか?」

「そうなんだよね。私が電話して出たとしても、切ったら二度寝しちゃうんだもん。……私嫌だよ、悟を残して卒業するなんて」

「うぅ……梢ぇ~。俺を見捨てないでくれぇ~」


 悟がそんな茶番を繰り広げているときに、奏はずっと何かを考えているようだった。そして答えがまとまったのか、全員に向かって提案をした。


「前々から考えてたんだけどさ、来年は3年生になるじゃない? そのタイミングの4月からみんなで一人暮らししない?」

「それが悟の起きれない問題と何の関係があるんだ?」

「もっと近くに住んだら、今だと遅刻する時間に起きても、距離が近くなった分遅刻しなくなるんじゃない?」

「いや、悟の場合は、『睡眠時間が増えたぞ、やったー』って思って同じことを繰り返すと思うぞ」

「あっ、なんか想像つくかも……」

「お前らもっと真剣に考えてくれよ!」


 悟が若干涙目になっていたが、その隣で田貫さんが「うん。それ良いかも」って一人で納得していた。驚いた俺たちは、田貫さんのその心を尋ねる。


「えっとね、普通の一人暮らしだったら多分山岸くんの言うように、結局寝る時間が増えただけになると思うんだ。だけど、同じマンションに一緒に住んだらすぐに起こせるなって思って。合鍵もらっちゃえば、寝てても乗り込んでいけるしね」

「あぁ、それなら確かに」

「しかも、女の子の一人暮らしはちょっと怖いけど、彼氏さんが近くにいてくれたら安心じゃない?」


 田貫さんは「ね?」と言いながら、悟に向けてウィンクをする。
 そんな田貫さんの提案に悟は興奮気味に話を続けた。


「それじゃあさ、優李たちも同じマンションで一人暮らししようぜ!」

「そうしたら、いつでも集まれるし最高じゃん!」

「うん、良いと思う! ゆーくんはどうかな?」


 いつか一人暮らしをしたいな、とは思っていたが、まだいつとは決めていなかったので俺は一瞬逡巡してしまう。なので、場が盛り下がるのを覚悟して思っていることを伝えることにした。


「俺もいつかは一人暮らしをしたいと思っていたが、まだ親にも何も伝えてないし金だってそんなにないからな、今すぐにOKはちょっと出せないな。なんか盛り下げるようなこと言って悪い」

「多分大丈夫じゃないかなって思うんだ。だって、この間ゆーくんのママに聞いたら、『別に良いわよ。大学3年生ならもう20歳にもなるし一人暮らしも良い経験よね』って言ってたもん」


 さ、さすが奏だ。俺に提案する前に、ちゃんと外堀を埋めてるところは昔から変わってない。って言うか、一人暮らし大丈夫なのかよ! 引っ越し費用のことや、生活していく上で必要なお金のことなど、調べないといけないことはあるけど、親が大丈夫っていうなら俺も一緒に一人暮らししたいな。


「改めて親に確認してみるけど、もし大丈夫って言うなら俺は問題ないよ。何だったら今すぐにでも一人暮らししたいくらいだわ」

「私も実際には親にちゃんと確認を取らないとだから、とりあえずは近日中にみんな確認をして改めて報告しましょ」


 俺たちは田貫さんの言葉に頷くと、その後は直近の夏休みをどうやって過ごすかという話題にシフトした。だが、一人暮らしをするとなるとお金が必要になってくるので、あまり遊びすぎずにバイトした方が良いのではないかという現実的な話でまとまってしまった。

 うーん、どうやら今年の夏はバイト三昧になりそうだな……。



 -



「あれからゆーくんバイトめちゃくちゃ頑張ったよね!」

「あぁ、せっかく親から大丈夫って言ってもらったんだから、お金がなくて出来ませんでした、ってことにはしたくなかったからな」


 あの日家に帰って親に一人暮らしのことを聞いてみたら、奏が言うように
「別に良いわよ」とあっさりと許可をもらってしまった。だが、「けど家賃込みの仕送りはするけど、それ以上のところに住むなら自分の稼がないとダメだからね」と言う釘も同時に刺されてしまう。

 なので、俺はバイトのシフトを増やして、学業とバイトを必死に両立していたのだ。そのお陰で奏と遊ぶ時間が減ってしまったが、学校ではほぼ毎日あっているので問題はなかった。


「けど、あの努力があったから、奏と同じマンションで一人暮らしできるようになるんだから全然大変じゃなかったよ」

「私もちゃんとお金貯めたし、もっと近くで一緒にいられるの嬉しいね」

「あぁ、本当に嬉しいよ」


 ちなみに俺たちは、駅前のロータリーの前に立っていた。
 これから物件をどうするか、みんなで話し合いをするために、これから駅近にあるイタリアン料理店に行こうとしているのだ。高校生の時はファミレスばかりだったのに、俺たちも小洒落たお店に行くようになったもんだな。


「よー! お待たせー!」


 俺の背後から忍び寄ってきた悟が、俺の背中に飛びついてきた。


「こんな街中でやめろって、恥ずかしいだろ」

「んだよ、照れるなって! これから同じマンションに住もうとしてる仲じゃないかよ」

「それとこれは関係ないだろ!」


 そんないつもの俺たちのやり取りを見て、奏はクスクスと笑い、田貫さんは呆れ顔をしている。


「山岸くんを困らせたらダメだよ、悟。そんなウザ絡みしてたらいつか本当に見捨てられちゃうんだから」

「うそぉ! 優李、お前がいなくなったら色々と困るから頼む、見捨てないでくれ!」

「いや、見捨てはしないけど、放置くらいはするかもな。って言うか早く降りろ!」


 俺がそう言うと、「勘弁してくれぇ」と言いながら、さっきよりも強く悟はしがみついてくる。全く、こいつはいつまで経っても悟のまんまだな。俺は若干呆れながらも、変わらない悟に安心感を覚えていた。

 そしてなんとか悟引き摺り落として奏の方を向くと、ボーッとどこか遠くを見ている。


「あっちの方に何かあるのか?」

「あっ、ううん。何もないよ。なんか見たことがある人たちがいるなぁって思ったんだけど、多分人違いだと思う」

「そっか。まぁ、取り敢えず寒い中ずっと外にいるのも微妙だし、そろそろお店に行こうぜ!」

「うん! 私お腹がペコペコになっちゃったよぉ」

「俺も腹へった! 今日は何を食おうかな、この間はハンバーグだったから今日はパスタにしようかな?」

「全く。お店に着いたら考えれば良いでしょ。ほら、置いていくわよ」


 俺たちは、来年からの新しい生活にワクワクしながら、イタリアン料理店へ向かって足早に歩き始めた。
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