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新しい日常

第15話:文化祭前夜の密談

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 激動の文化祭準備が終わり、ついに明日は文化祭を迎える。俺たちは3年間のキャリアがあったため、なんとか前日の夕方には全ての準備を終わらせることができたが、校庭から校舎を見ると明かりが点いているクラスはまだまだ多い。


「ふぃ~。やっと準備も終わったね」

「毎年のことだけど、本当に疲れたな。それにしても、衣装のクオリティがガチでヤバかったな!」

「俺も思った! 美山さんがあんなに服作りが出来るって知らなかったよ」

「でしょ? って言っても、私はパターン通り縫ったりするのがメインで、デザインとかは紗雪ちゃんがしてくれたんだけどね。けど、そのお陰で紗雪ちゃんとも仲良くなれたし、私的にはとても楽しかったよ」


 三谷紗雪。
 この子は羽月と仲が良かった3人のうちの1人だ。
 俺たちの別れた理由など詳細までは聞いていないだろうから、俺や奏に対して思うことがあっただろう。だけど文化祭の準備がきっかけで奏と仲良くなったのは嬉しい。奏にはいつも笑顔でいて欲しいから。


「それよりも『悟くん文化祭で告白大作戦』の作戦を早く練らないとだよ!」

「あぁ、そうだな。田貫さんがいないこのタイミングでしっかりと決めような」

「うぅ……。持つべきものは親友たちよ……」


 田貫さんは、ここ最近の文化祭準備で帰宅が遅くなっていたので、一足先に家に帰宅してしいた。俺たちはこの隙を狙って、悟の告白の成功確率を上げるための作戦を練ろうとファミレスに行くことにしたのだ。
 っていうのは建前で、俺と奏は十中八九告白が成功すると思っているので、今日は悟の恋バナをおかずにしてワイワイしようとしているのだった。



 -



「やっぱり告白するならさ、後夜祭のキャンプファイヤーのタイミングじゃないかな?」

「確かにそのタイミングが、一番雰囲気が良いよな」

「けど、問題なのは、その時間を見計って告白する人が多そうだから、場所が大切になってくるよね」


 ファミレスに到着した俺たちは、席に着くなり告白をどうするか話し合った。と言っても、主に俺と奏の2人で会話している。


「なぁ、俺のことを放って2人で楽しんでないか?」


 ドリンクバーで、俺たちの分の飲み物を取ってきてくれた悟が非難めいた目をしてきた。ちなみに、ドリンクバーについては、悟をパシリにしたのではなく自分から「今日はお願いした立場だから、俺が取ってくるぜ!」と言ってくれたので、お願いしたまでだ。


「そんなことないよ。ねっ、ゆーくん」

「あぁ、そうだぞ? やっと重い腰を上げたお前の告白が楽しみ……いや、成功するために俺たちは真剣に話し合っているんだよ」

「優李……楽しみってもう言っちゃってるじゃん……」

「ん? そうだったかな? そんなことよりどうするか決めようぜ!」


 悟からジト目で睨まれているが、俺は男のジト目には全然興味がないので本気でやめてもらいたい。そんな俺たちのやり取りを見て、奏は「仲良しさんだね」と言い微笑んでいた。



 -



 悟の告白大作戦は、後夜祭のキャンプファイヤーに火が灯ったタイミングで、教室に田貫さんを呼び出し、悟が告白するというものになった。教室からならキャンプファイヤーも見ることが出来るし、誰もいない可能性が高いためそうしたのだ。


「文化祭が楽しみだね。あの2人が恋人同士になったら最高だよね!」


 俺たちは、悟と別れたあと花咲公園にやってきた。
 この公園に来たのは、好ちゃんの告白以来だった。


「あぁ、最高以外ないな。2人ともお似合いだし大丈夫だろ。ちなみに田貫さんは悟に対してどんな感じか知ってる? 俺的にはかなり脈ありだと思ってるんだけどな」

「うん。はっきりと好きとは言ってないけど、悟くんのことを意識しているのは間違いないと思うよ。梢ちゃん自身気付いてるか分からないけど、いつも悟くんのことを目で追ってるからね。けど、気がかりなのは、受験まであともうちょっとってところかな。だけど、普段から4人で勉強会とかしてるし、志望大学もみんな一緒だからね。多分大丈夫だと思うんだ」


 そう。奏が言ったように、俺たち4人は同じ大学への進学を目指して頑張って勉強しているのだ。きっかけは、夏休みに4人で勉強していたときに、「高校時代ずっと同じクラスだった4人が、大学まで一緒だったら凄いよね」という奏の発言からだった。それからの4人は、ただの友達ではなく、同じ大学を志す同志になったのだ。


「なんかさ。今の私たち4人ってとても良い関係だよね」


 奏が真っ暗な宙を見上げながら呟いた。
 額面通り今の関係性だけを言っているのではなく、恐らくかつての4人組のことも思い浮かべているのだろう。


「あぁ、まさか大学まで同じところを目指すなんて思わなかったもんな。それどころか、このまま新卒まで一緒だったら本当に凄いよな」

「あはは、そうなったら本当に凄いよ! だけど、さすがに社会人まで同じところっていうのはなかなか厳しいかもね。けど、大人になってもずっと変わらず今の関係でいられたら良いよね」


 大学に進学して、交友関係が増えて、嘗ての友人とは疎遠になるなんてことは良くあることだ。だけど、奏はそれを知りながらも敢えて、今と変わらない4人で居続けたいと言った。ひょっとしたら、奏は俺以上に関係性が壊れてしまうことを恐れているのかも知れない。

 奏はいつまで俺と変わらない関係で居続けてくれるんだろうか。
 俺はいつまで奏の好意に甘えながら縋って生きていくのだろうか。

 俺も変わらないといけない。
 いつまでも奏に甘えてばかりいる訳にはいかないんだ。
 ずっと曖昧な態度を取っていたら、奏に愛想をつかれてしまい、今度は奏の心が俺から離れて行ってしまうだろう。
 それだけは嫌だ。

 俺は奏のことを手放したくない。
 これは完全に俺のエゴだ。エゴ以外何者でもない。だけど、これが俺の本心なんだ。


 俺は美山奏のことを愛している。
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