36 / 59
新しい日常
第13話:二学期
しおりを挟む
部活がなかった夏休みは、思った以上に長く感じたが、新学期がいざ始まると名残惜しくなって来る。
夏休みと言っても、悟たちと4人でプール行ったり、好ちゃんと一緒に映画館へ遊びに行ったくらいで、残りはほとんどを奏と勉強をしていた。
勉強しているときの奏の集中力は凄まじく、それに引っ張られるような形で俺も深く勉強に向き合うことが出来た。そして、夏の最後に奏と受けた全国統一模試では、お互いに成績を上げることに成功した。
そしてもうひとつ、夏休みが終わってちょっとした変化があった。
-
『ピンポーン』
インターホンを鳴らすと、扉の奥からドタバタと大きな音が近づいて来る。
「ゆーくん、お待たせ。じゃあ、学校に行こうか?」
実は一学期は一人で登校していた俺だったが、二学期からは奏と一緒に学校へ行くことになったのだ。誰かと通学するのは久しぶりで、何だか嬉しくなってしまい、奏の顔を見たらだらしなくニヤケてしまった。
「何ニヤニヤしてるの?」
「いや、こうやって誰かと一緒に学校に行くのが久しぶりでさ、なんか嬉しくなっちゃったんだよな」
「ゆーくん、一学期寂しかったんだね? 私がいつも学校ギリギリじゃなかったら一緒に行ったのに、ごめんね」
そう。奏は朝がとても苦手なのだ。
普段の学校にはいつもギリギリで登校するのに、行事やイベントごとがあるときだけは、なぜか早起きするのが不思議に思っていた。そのことを奏に聞いてみると、テンションが上がってしまい、寝ては起きてを繰り返していただけらしい。
「いや、いいよ。けど朝弱いのに、今日は大丈夫だったんだな? かなり待つのを覚悟してたんだが」
「もう、私のことをなんだと思ってるのよ! 私だって、やろうと思ったら出来るんだからね!」
プリプリとしながら横を向いてしまうが、すぐに「なんか楽しいね」と微笑んできた。そんな奏が可愛らしくて「そうだな」と言いながら、俺は自然と奏の頭を撫でてしまう。奏は気持ちよさそうに目を細めて、抵抗することなく撫でられている。そして耳元に手が触れてしまうと、「ん」と小さく声をあげた。
俺はその言葉で我に返って、自然に奏の頭を撫でていたことに、自分のことながら吃驚してしまった。
「あ、頭なんて撫でちまって悪かった」
「良いんだよ。なんか幸せな気持ちになれたから、これからはもっと頭撫でてくれたって良いんだからね?」
「ぜ、善処させてもらうな」
夏祭りが終わってから、自分のしたいことを遠慮なしに伝えて来るようになった。それからというもの、俺は奏に狼狽されることが多くなってしまったのだ。
だけど、それは決して嫌な気分になるものではなく、この先もずっと俺にだけ我儘を言って欲しいな、と心の底では願っている。
-
「おっ、おはよっす。この間の勉強会以来だな!」
期末テスト前に4人で集まった俺たちは、夏休みも定期的に集まって勉強会を開いていたのだ。その発起人は意外にも田貫さんだった。
「あれからもちゃんと勉強してたか?」
「一応な。だって俺だって大学に受かりたいもんよ!」
「だな。けど奏は本当に凄かったぞ? お前は受けなかったけど、全国模試の判定がかなり上がってたからな」
「ふふーん。そうだよ、悟くん。夏休みにたくさん勉強したから、志望校の判定がBに上がったんだから!」
腰に手を当てて、華麗なドヤ顔を見せつける奏がそこにいた。
「マジかよ! 美山さん凄いな……。俺も模試受けておけば良かったかなぁ」
「まぁ、次もあるしさ。そのときは悟くんも一緒に受けようよ!」
「あぁ、そのときは俺も絶対に受けることにするわ。だけど、俺の学力で大丈夫か不安だよ……」
「三島くんも本気見せないと一人で浪人しちゃうかもよ?」
「あっ、梢ちゃんだ! おはよー」
いつの間にか田貫さんが俺たちの隣に並んで、ナチュラルに会話に入って来た。田貫さんって、たまに気配を消すことあるよな……。
「うん、おはよ。奏ちゃんは夏休み本当に頑張ってたよね。私もたくさん刺激をもらったよ。だからさ、もし良かったら、二学期になってからもまた皆で勉強会をやりたいなって思うんだけど、どうかな?」
「良いね! やろうよ! 私みんなと勉強したから、モチベーションも結構上がったんだよね」
「あっ、俺も! 田貫さんと優李の教え方が上手かったからマジで助かるんだよ」
4人での勉強は俺もやって本当に良かったと思ってる。今まで苦手だった教科も田貫さんに教えてもらえて成績アップしたし。奏と一緒に勉強をしていると、あいつが分からないところを俺が教えることで、その教科の理解力が深まるんだけど、俺が分からないところは自分で調べるしかなかったから効率が悪かったんだよな。なので、4人の勉強会に俺が不満なんてあるわけがなかった。
「じゃあ、週1か2でまた図書館で勉強するか?」
「いつも図書館だとあまり話ができないから、2週に1回くらいはファミレスにまた行こうぜ!」
「そうね。勉強もいいけど、やっぱり勉強終わりの何気ない会話が楽しかったわよね」
「うんうん! そうしよう!」
勉強のことを話題にしているのに、さも遊びに行くくらいのテンションで楽しく話せているのが不思議だった。だけど、多分この4人ならどんな話題でも楽しく話せるんだろうな。
正直一学期が始まったときは、学校に行くのが億劫で仕方なかったけど、こんなにも楽しいって思わせてくれるこの3人には本当に感謝しかないよ。
「そういえば、文化祭の出し物とか決めるのそろそろだったよね?」
「あぁ、高校ラストの文化祭だし、最高の思い出を作りたいよな!」
「うん。最後だもんね。絶対に良い文化祭にしたいな」
「やっぱりベタだけど、メイド喫茶とかいいよなぁ。メイド服を着た女の子ってなんであんなに可愛くなるんだろうな?」
「えぇ、悟くんなんかちょっとエッチな顔してて嫌なんですけどぉ」
奏と田貫さんがジト目で悟のことを睨みつけている。その視線に動揺した悟は、ワタワタとしながら「優李だって分かるよな?」と必死に同意を求めて来たので、俺は「さぁな」とボカしてやった。
だけど、本音を言うと、奏と田貫さんのメイド服なら俺もめちゃくちゃ見たい! はっきり言って土下座して、お金も払って良いレベルだ。俺がそんなことを考えていると、「ゆーくんもちょっとエッチな顔してる」と奏に言われてしまった。くそ、完璧な俺のポーカーフェイスも奏の前だと意味をなさないのか……。
「まぁ、どうなるか分からないけど、絶対に最高の文化祭にしような!」
俺は誤魔化すようにみんなに向けて高らかに宣言するのだった。
夏休みと言っても、悟たちと4人でプール行ったり、好ちゃんと一緒に映画館へ遊びに行ったくらいで、残りはほとんどを奏と勉強をしていた。
勉強しているときの奏の集中力は凄まじく、それに引っ張られるような形で俺も深く勉強に向き合うことが出来た。そして、夏の最後に奏と受けた全国統一模試では、お互いに成績を上げることに成功した。
そしてもうひとつ、夏休みが終わってちょっとした変化があった。
-
『ピンポーン』
インターホンを鳴らすと、扉の奥からドタバタと大きな音が近づいて来る。
「ゆーくん、お待たせ。じゃあ、学校に行こうか?」
実は一学期は一人で登校していた俺だったが、二学期からは奏と一緒に学校へ行くことになったのだ。誰かと通学するのは久しぶりで、何だか嬉しくなってしまい、奏の顔を見たらだらしなくニヤケてしまった。
「何ニヤニヤしてるの?」
「いや、こうやって誰かと一緒に学校に行くのが久しぶりでさ、なんか嬉しくなっちゃったんだよな」
「ゆーくん、一学期寂しかったんだね? 私がいつも学校ギリギリじゃなかったら一緒に行ったのに、ごめんね」
そう。奏は朝がとても苦手なのだ。
普段の学校にはいつもギリギリで登校するのに、行事やイベントごとがあるときだけは、なぜか早起きするのが不思議に思っていた。そのことを奏に聞いてみると、テンションが上がってしまい、寝ては起きてを繰り返していただけらしい。
「いや、いいよ。けど朝弱いのに、今日は大丈夫だったんだな? かなり待つのを覚悟してたんだが」
「もう、私のことをなんだと思ってるのよ! 私だって、やろうと思ったら出来るんだからね!」
プリプリとしながら横を向いてしまうが、すぐに「なんか楽しいね」と微笑んできた。そんな奏が可愛らしくて「そうだな」と言いながら、俺は自然と奏の頭を撫でてしまう。奏は気持ちよさそうに目を細めて、抵抗することなく撫でられている。そして耳元に手が触れてしまうと、「ん」と小さく声をあげた。
俺はその言葉で我に返って、自然に奏の頭を撫でていたことに、自分のことながら吃驚してしまった。
「あ、頭なんて撫でちまって悪かった」
「良いんだよ。なんか幸せな気持ちになれたから、これからはもっと頭撫でてくれたって良いんだからね?」
「ぜ、善処させてもらうな」
夏祭りが終わってから、自分のしたいことを遠慮なしに伝えて来るようになった。それからというもの、俺は奏に狼狽されることが多くなってしまったのだ。
だけど、それは決して嫌な気分になるものではなく、この先もずっと俺にだけ我儘を言って欲しいな、と心の底では願っている。
-
「おっ、おはよっす。この間の勉強会以来だな!」
期末テスト前に4人で集まった俺たちは、夏休みも定期的に集まって勉強会を開いていたのだ。その発起人は意外にも田貫さんだった。
「あれからもちゃんと勉強してたか?」
「一応な。だって俺だって大学に受かりたいもんよ!」
「だな。けど奏は本当に凄かったぞ? お前は受けなかったけど、全国模試の判定がかなり上がってたからな」
「ふふーん。そうだよ、悟くん。夏休みにたくさん勉強したから、志望校の判定がBに上がったんだから!」
腰に手を当てて、華麗なドヤ顔を見せつける奏がそこにいた。
「マジかよ! 美山さん凄いな……。俺も模試受けておけば良かったかなぁ」
「まぁ、次もあるしさ。そのときは悟くんも一緒に受けようよ!」
「あぁ、そのときは俺も絶対に受けることにするわ。だけど、俺の学力で大丈夫か不安だよ……」
「三島くんも本気見せないと一人で浪人しちゃうかもよ?」
「あっ、梢ちゃんだ! おはよー」
いつの間にか田貫さんが俺たちの隣に並んで、ナチュラルに会話に入って来た。田貫さんって、たまに気配を消すことあるよな……。
「うん、おはよ。奏ちゃんは夏休み本当に頑張ってたよね。私もたくさん刺激をもらったよ。だからさ、もし良かったら、二学期になってからもまた皆で勉強会をやりたいなって思うんだけど、どうかな?」
「良いね! やろうよ! 私みんなと勉強したから、モチベーションも結構上がったんだよね」
「あっ、俺も! 田貫さんと優李の教え方が上手かったからマジで助かるんだよ」
4人での勉強は俺もやって本当に良かったと思ってる。今まで苦手だった教科も田貫さんに教えてもらえて成績アップしたし。奏と一緒に勉強をしていると、あいつが分からないところを俺が教えることで、その教科の理解力が深まるんだけど、俺が分からないところは自分で調べるしかなかったから効率が悪かったんだよな。なので、4人の勉強会に俺が不満なんてあるわけがなかった。
「じゃあ、週1か2でまた図書館で勉強するか?」
「いつも図書館だとあまり話ができないから、2週に1回くらいはファミレスにまた行こうぜ!」
「そうね。勉強もいいけど、やっぱり勉強終わりの何気ない会話が楽しかったわよね」
「うんうん! そうしよう!」
勉強のことを話題にしているのに、さも遊びに行くくらいのテンションで楽しく話せているのが不思議だった。だけど、多分この4人ならどんな話題でも楽しく話せるんだろうな。
正直一学期が始まったときは、学校に行くのが億劫で仕方なかったけど、こんなにも楽しいって思わせてくれるこの3人には本当に感謝しかないよ。
「そういえば、文化祭の出し物とか決めるのそろそろだったよね?」
「あぁ、高校ラストの文化祭だし、最高の思い出を作りたいよな!」
「うん。最後だもんね。絶対に良い文化祭にしたいな」
「やっぱりベタだけど、メイド喫茶とかいいよなぁ。メイド服を着た女の子ってなんであんなに可愛くなるんだろうな?」
「えぇ、悟くんなんかちょっとエッチな顔してて嫌なんですけどぉ」
奏と田貫さんがジト目で悟のことを睨みつけている。その視線に動揺した悟は、ワタワタとしながら「優李だって分かるよな?」と必死に同意を求めて来たので、俺は「さぁな」とボカしてやった。
だけど、本音を言うと、奏と田貫さんのメイド服なら俺もめちゃくちゃ見たい! はっきり言って土下座して、お金も払って良いレベルだ。俺がそんなことを考えていると、「ゆーくんもちょっとエッチな顔してる」と奏に言われてしまった。くそ、完璧な俺のポーカーフェイスも奏の前だと意味をなさないのか……。
「まぁ、どうなるか分からないけど、絶対に最高の文化祭にしような!」
俺は誤魔化すようにみんなに向けて高らかに宣言するのだった。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。


愛される日は来ないので
豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。
──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる