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新しい日常

第5話:体育祭①

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「宣誓、私たちは普段の練習の成果を発揮し、正々堂々と戦い、最後まで完全燃焼する事を誓います。赤組代表、三島悟」「白組代表、坂下羽月」


 体育祭の実行委員を務めた悟と羽月が選手宣誓を行い、俺たちの高校生活最後の体育祭が開催された。うちの学校では、選手宣誓は体育祭実行委員の委員長と副委員長が行うのが通例となっていた。悟は以前から、選手宣誓をやりたいって言ってたので納得だが、羽月が実行委員に立候補するとは思いもしなかった。

 羽月は基本的に、学校行事への参加は積極的ではない方だった。もちろん準備などの手伝いは率先して行っていたが、自分が矢面に立って何かをするというのは初めてなのではないだろうか。少なくとも俺はそんな羽月のことを知らなかった。

 体育祭開会式が終わって、自分の席に向かうと同じ赤組になった奏がやって来た。


「まさか羽月ちゃんが選手宣誓なんてやるとは思わなかったよ」

「まぁな、俺も意外だったよ」

「………ゆーくん大丈夫?」

「あぁ、多分もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとうな」


 大丈夫と言ったのは強がりでは決してなかった。羽月と別れてから、もうすでに3ヶ月が経とうとしている。春休みは結構ツラかったんだけど、学校が始まると俺の周りには奏や悟、田貫さんがいつも側にいてくれたし、好ちゃんや華花も遊びに来てくれてた。そして、部活動の集大成でもある総体予選が間近に迫っていることもあり、余計なことを考える余裕もないくらい忙しい日々を送っていたから、気付かないうちに傷が癒始めていたのだろうか。

 奏は本当に無理してないか心配そうな顔をしていたが、俺の自然体な笑顔を見ると安心したのか、「頑張って勝とうね」と言い残して自分の席へ戻っていった。



 -



「優李先輩とっっっってもかっこよかったです!!!」


 3年生による徒競走が終わったら、好ちゃんが俺に飛びついて来た。周りの目線が痛すぎる……。


「好ちゃん、汗臭いしちょっと離れようか?」

「いやです! 離れたくないです! クンクンクンクン」

「ちょっと! 恥ずかしいからそんなにクンクンしないで! お願いだから離れて!!!」


 俺がグイグイと押しても、梃子でも動かない。何この子? 地面と一体化でもしてるの? なんてくだらないことを考えていると、一年生の席から華花が走ってやってくるのが見えた。


「ちょっとちょっと! 好ちゃん急にいなくなったと思ったら何してるの!? さすがにここは人が多すぎるからダメだよ! あっ、だからと言って人が少ないところでもダメだよ!」

「だって優李先輩がかっこよすぎて我慢できなかったんだもん」

「ほら、好ちゃん。ゆーくんも華花ちゃんも困ってるでしょ」

「ウムムムム……。来ましたね奏先輩!」

「だってゆーくんも華花ちゃんも困ってるんだもん。そりゃあ幼馴染みとしては助けに来ちゃうよ」


 そう言って奏は、好ちゃんを華花と一緒に引きずって、一年生の席まで戻しにいった。



 ***



【奏の視点】

「奏先輩はズルイですよ! 私も幼馴染みという名の武器が欲しかったよー」

「うーん。幼馴染みって良いこともあるけど、悪いことだってあるんだよ。私としては、好ちゃんみたいに真っ正面から好意をぶつけられるのが羨ましいんだけどなぁ」


 私の目から見ても、好ちゃんは本当に可愛らしい女の子だ。こんな子に真っ正面から好意を示されて、好きにならない男子なんていないだろうな、って思っちゃう。私はゆーくんが好ちゃんのことが好きになって、付き合うことになったとしても良いと思っていた。そりゃ、私がゆーくんの彼女になって、幸せにしてあげることができたらそれが一番なんだけどね。

 だけど、全ての事情を知ってしまっている私が、ゆーくんに好きと伝えてしまうと、ひょっとしたらまた悩んで苦しんじゃうかもしれない。だから私は一歩を踏み込むのが怖くて仕方がないんだよね。


「確かに奏先輩のポジションはグイグイ行きにくそうですよね……。だけど、それでもあんなに優李先輩から、優しい目で見てもらえてる奏先輩のことが羨ましいです! 絶対に負けませんからね!」

「ちょっと、実の兄を取り合う2人の女子の戦いを見せられてる、私の身にもなってよぉ。かなちゃんもここまで付いて来てくれてありがと。お昼はゆー兄ちゃんたちと食べるんでしょ? 私たちも仲間に入れてね?」

「うん。もちろんだよ! お弁当たくさんあるから一緒に食べようね」


 2人と離れてから、好ちゃんに言われたことを思い出していた。
 私は周りの人から見たら羨ましいポジションにいるんだな。だけど考えてみたらそうかも。もし幼馴染みじゃなかったら、ゆーくんは多分私に悩みを打ち明けてないだろうし、一緒に行動することもしてくれなかったはずだもんね。だけど、やっぱり自分の気持ちを素直に伝えられる好ちゃんが羨ましくて仕方がない。


 ……そっかぁ、幼馴染みだけじゃもう満足できないんだ、私も。
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