14 / 59
裏切りと決別
エピローグ
しおりを挟む
「光輝……教えてほしいことがあるの。今日会うことできないかしら?」
電話越しから聞こえる光輝の声は、ちょっと機嫌が悪そうだった。光輝は電話を突然かけられることを極端に嫌っている。その理由を尋ねたら、RINEの場合はメッセージを確認するのは自分の自由意志になるけど、電話は強制的に時間を拘束されてしまうから、ということだった。言ってることは理解出来るけど、ここまで不機嫌そうな声を出さなくても良いのに、とは思ってしまう。
「光輝にどうしても聞きたいことがあるからさ、今からいつもの公園に来てくれないかしら? 私があなたの家まで行っても良いのだけれど。今回は私の都合だしあなたに合わせるわ」
光輝は渋々ながら花咲公園に来てくれることになった。
そう言えば光輝の家にまだ行ったことがなかったわね。以前塾の帰りに光輝に会いたくなって、家の前に着いてからRINEをしたら怒られたのよね。優李だったら両親も仲良しで、本物の家族同然だったからいつ行っても歓迎されたのに。
「待たせたな。教えてほしいことって何なんだ?」
私がベンチに座って考えに耽っていると、いつの間にか光輝が私の隣に座っていた。やっぱりイライラしてるかも。光輝の横顔を見て不安な気持ちが膨らんできた。
「あのね。ちょっと聞きにくいことなのだけれども、さっきまで奏と一緒にいてね、あなたの話題にちょっとなったのよ」
「は? 俺の話題に?」
「えぇ、奏が言うにはね、あなたには私以外にも2人の女の子がいるって。しかも、彼氏がいた人の彼女さんを奪ったって言ってたのよ」
光輝の顔が険しくなっていった。
「はぁ? 奏がそんなことを言ってたって? そんなことあるはずないだろ! 羽月は俺の言葉よりも奏のことを信じるのか? 優李になんか吹き込まれたんだろ。羽月と俺の関係に嫉妬して嫌がらせしてるだけだ」
「私は疑ってはないのよ。だけど、奏が言うものだからあなたの口から違うって言葉を聞きたかっただけなの。ごめんなさいね、嫌なことを聞いてしまって」
光輝は険しい顔から一転して、とても優しい笑顔になった。そして私の頭に手を乗せて、優しく撫でてくれる。
「俺の言葉を信じてくれて嬉しいよ。ひょっとしたらこれからも、あいつらが嫌がらせみたいなことをしてくるかも知れないけど真に受けたら駄目だからな。俺はお前のことだけを愛してるよ」
「ありがとう、光輝。あなたと私は共犯者。一緒に罪を重ねたのだから、これからも一緒に背負ってくれるかしら」
「あぁ、当たり前だろ。中学生のときに告白したその日から、俺の気持ちは変わってないよ」
私は光輝の言葉に安心をした。自分自身でも卑怯な人間だと思う。今までは優李の優しさに甘えて、次は共犯という言葉で光輝を繋ぎ止めようとしているのだ。
どうして。私はどうしてこんなにも醜い生き物なのだろうか。
-
優李は私とは何があっても離れないと疑っていなかった。
今までもたくさん迷惑をかけて来たけど、優しい優李はそんな私をいつも許してくれていたのだから。だけど、昨日の優李の顔を見た瞬間に、私はもう許されないと直感してしまった。
私は優李のことを本当に心から愛していた。いいえ、今でも愛している。だけど光輝とのエッチがあまりにも魅惑的で抗うことができなかった。
中学生の時は同情で、再会して初めてのエッチは、中学生に感じた感覚の確認だった。私は最初のうちは、こんなことをしてはいけない。優李のことを裏切る行為はこれ以上重ねてはいけないと思っていた。だけど、回数を重ねていくうちに、そんな罪悪感や背徳感はいつの間にか消えていた。
昨日優李の家から光輝と出てから、その足でまたラブホテルへ入った。そのときのエッチは、今までに比べたら驚くほど普通だったのだ。そして私は気付いてしまった。今までエッチで、私が昂り、乱れ、堕ちていったのは、優李への罪悪感があったからなのだ。
私は罪悪感や背徳感を感じなくなったのではなく、ただ快楽へと変換していただけだったということに気付いてしまった。
だからだろう。優李に私と光輝との関係がバレてしまった時点で、私を虜にしていた快楽が消えてしまったのだ。
(ふふっ。自業自得とは言え、余りにも滑稽すぎるわね)
今まで光輝と一緒にいて楽しいという感情になったことはあるが、身も心も満たされる幸福感を感じたことはなかった。それらは今まで優李から全てもらっていた。だから光輝には快楽だけを求めていたのだ。だけど優李はもういなくなってしまった。
私は、自ら手放してしまったのだ。
優李から与えられてた、親愛の全てを。
*** 後書き ***
第一章はこちらで完結です。
羽月視点の過去の振り返りと、断絶した直後のゆーくんのお話を幕間で挟んでから第二章となります。
第二章は三年生に進級した、ゆーくんと奏の学校生活がメインになります。
NTRや復讐からは外れてしまいますが、本筋的には必要だと感じている箇所なので引き続き応援して頂けたら嬉しいです。
また、羽月と光輝へのヘイトはまだ収まっていないかと思います。(特に光輝への)
ですが、第三章で動き出して第四章で私なりの決着がつけられるかな。と思っております。
電話越しから聞こえる光輝の声は、ちょっと機嫌が悪そうだった。光輝は電話を突然かけられることを極端に嫌っている。その理由を尋ねたら、RINEの場合はメッセージを確認するのは自分の自由意志になるけど、電話は強制的に時間を拘束されてしまうから、ということだった。言ってることは理解出来るけど、ここまで不機嫌そうな声を出さなくても良いのに、とは思ってしまう。
「光輝にどうしても聞きたいことがあるからさ、今からいつもの公園に来てくれないかしら? 私があなたの家まで行っても良いのだけれど。今回は私の都合だしあなたに合わせるわ」
光輝は渋々ながら花咲公園に来てくれることになった。
そう言えば光輝の家にまだ行ったことがなかったわね。以前塾の帰りに光輝に会いたくなって、家の前に着いてからRINEをしたら怒られたのよね。優李だったら両親も仲良しで、本物の家族同然だったからいつ行っても歓迎されたのに。
「待たせたな。教えてほしいことって何なんだ?」
私がベンチに座って考えに耽っていると、いつの間にか光輝が私の隣に座っていた。やっぱりイライラしてるかも。光輝の横顔を見て不安な気持ちが膨らんできた。
「あのね。ちょっと聞きにくいことなのだけれども、さっきまで奏と一緒にいてね、あなたの話題にちょっとなったのよ」
「は? 俺の話題に?」
「えぇ、奏が言うにはね、あなたには私以外にも2人の女の子がいるって。しかも、彼氏がいた人の彼女さんを奪ったって言ってたのよ」
光輝の顔が険しくなっていった。
「はぁ? 奏がそんなことを言ってたって? そんなことあるはずないだろ! 羽月は俺の言葉よりも奏のことを信じるのか? 優李になんか吹き込まれたんだろ。羽月と俺の関係に嫉妬して嫌がらせしてるだけだ」
「私は疑ってはないのよ。だけど、奏が言うものだからあなたの口から違うって言葉を聞きたかっただけなの。ごめんなさいね、嫌なことを聞いてしまって」
光輝は険しい顔から一転して、とても優しい笑顔になった。そして私の頭に手を乗せて、優しく撫でてくれる。
「俺の言葉を信じてくれて嬉しいよ。ひょっとしたらこれからも、あいつらが嫌がらせみたいなことをしてくるかも知れないけど真に受けたら駄目だからな。俺はお前のことだけを愛してるよ」
「ありがとう、光輝。あなたと私は共犯者。一緒に罪を重ねたのだから、これからも一緒に背負ってくれるかしら」
「あぁ、当たり前だろ。中学生のときに告白したその日から、俺の気持ちは変わってないよ」
私は光輝の言葉に安心をした。自分自身でも卑怯な人間だと思う。今までは優李の優しさに甘えて、次は共犯という言葉で光輝を繋ぎ止めようとしているのだ。
どうして。私はどうしてこんなにも醜い生き物なのだろうか。
-
優李は私とは何があっても離れないと疑っていなかった。
今までもたくさん迷惑をかけて来たけど、優しい優李はそんな私をいつも許してくれていたのだから。だけど、昨日の優李の顔を見た瞬間に、私はもう許されないと直感してしまった。
私は優李のことを本当に心から愛していた。いいえ、今でも愛している。だけど光輝とのエッチがあまりにも魅惑的で抗うことができなかった。
中学生の時は同情で、再会して初めてのエッチは、中学生に感じた感覚の確認だった。私は最初のうちは、こんなことをしてはいけない。優李のことを裏切る行為はこれ以上重ねてはいけないと思っていた。だけど、回数を重ねていくうちに、そんな罪悪感や背徳感はいつの間にか消えていた。
昨日優李の家から光輝と出てから、その足でまたラブホテルへ入った。そのときのエッチは、今までに比べたら驚くほど普通だったのだ。そして私は気付いてしまった。今までエッチで、私が昂り、乱れ、堕ちていったのは、優李への罪悪感があったからなのだ。
私は罪悪感や背徳感を感じなくなったのではなく、ただ快楽へと変換していただけだったということに気付いてしまった。
だからだろう。優李に私と光輝との関係がバレてしまった時点で、私を虜にしていた快楽が消えてしまったのだ。
(ふふっ。自業自得とは言え、余りにも滑稽すぎるわね)
今まで光輝と一緒にいて楽しいという感情になったことはあるが、身も心も満たされる幸福感を感じたことはなかった。それらは今まで優李から全てもらっていた。だから光輝には快楽だけを求めていたのだ。だけど優李はもういなくなってしまった。
私は、自ら手放してしまったのだ。
優李から与えられてた、親愛の全てを。
*** 後書き ***
第一章はこちらで完結です。
羽月視点の過去の振り返りと、断絶した直後のゆーくんのお話を幕間で挟んでから第二章となります。
第二章は三年生に進級した、ゆーくんと奏の学校生活がメインになります。
NTRや復讐からは外れてしまいますが、本筋的には必要だと感じている箇所なので引き続き応援して頂けたら嬉しいです。
また、羽月と光輝へのヘイトはまだ収まっていないかと思います。(特に光輝への)
ですが、第三章で動き出して第四章で私なりの決着がつけられるかな。と思っております。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。


幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる