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裏切りと決別
第9話:試合
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「さて、行くかな」
家から出て空を見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。サッカーの試合をするには最高のコンディションと言えるだろう。だが、空の澄み渡る青さと裏腹に、俺の心は泥のように濁っている。
それはもちろんスマホ越しであんな行為を見せつけられてしまったからだ。あれから俺は羽月を憎んでると言っても過言じゃない。羽月の顔も見たくないし、声も聞きたくない。あいつの顔を見るだけで俺は苛々して、罵詈雑言を打ち撒けたい欲望を抑えるのに苦労をした。
しかも、夜に一人で部屋に篭っていると、どうしても羽月との楽しかった記憶や、幸せだった記憶、嬉しかった記憶が頭の中を過ってしまい、腹の底から吐き気のようなズクズクとした何かが込み上げてきて、俺は気付いたら涙を流していた。
さっさと寝てしまおうとしても、目を瞑るとあの光景がフラッシュバックするので眠ることも出来なかった。
(地獄だったな、この一週間は……)
俺は足取り重く集合場所へ向かって歩き始めた。
-
「ゆーくん、おはよー」
声がした方を振り向くと、いつもの明るい笑顔を浮かべながら、小走りで近寄ってくる奏がいた。俺は奏の顔を見た途端に、ホッしてしまう。
「おはよ。今日の試合頑張るな」
「うん! 今日の相手はうちよりも強豪校だけど、ゆーくんなら大丈夫って思ってるよ」
「奏にそこまで言われたら頑張るしかないよな」
「そうだよ! みんなもたくさん頑張って来たんだもん! 絶対に勝てるよ!」
俺が通っている高校は進学校だが、サッカー部は県内で比較的強い方だとされている。実は奏がマネージャーになって、練習方法を大改革してくれた成果だった。
「それにしても、昨年度のインハイ出場校に良く練習試合を承諾してもらえたよな」
「私たちも前回大会では比較的良い結果を残したしね。あちらも意識してくれてるのかな? それとも強すぎず弱すぎないチームに勝つことで、自分たちに勢いをつけるためだったりね」
「どっちもありそうだよな。だったら尚更負けるわけには行かねぇよな!」
「その意気だよ! あちらをブチのめしてこっちが勢いに乗っちゃおうね!」
俺と奏はたくさん話をして、たくさん笑い合った。試合が終わってからのことで頭がいっぱいのはずなのに、お互いがそれに一切触れようとしない。俺も奏も不安なのだ。だって、今までの俺たちの人生で大きな割合を占めていた人間関係を、自らの手で断絶しようとしているのだから。
-
「絶対に勝つぞ! 気合い入れろぉ!!!」
「「「「「おぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」
新チームになって最初の試合が、いよいよ始まろうとしている。相手校のグラウンドで試合をすることもあり、ギャラリーは相手チームの応援に来た人たちでほとんどだ。
観客席を見渡すと、羽月と光輝が並んで立っているのが見えた。俺が見ていることに気付いたのか、羽月は手を振ってジェスチャーで頑張れと応援をしてくれている。俺は軽く手を上げて、すぐに後ろを振り向きチームメイトの元へ向かった。
試合は大方の予想に反して、ウチが圧倒的に攻勢だった。その要因になったのは何を隠そう、この俺だ。
最悪なコンディションのときにベストパフォーマンスなんて皮肉なものだよな。多分俺がこの試合にかける意気込みは、正直みんなよりも低い。モチベがゼロってことはないのだが、どうしてもこれからのことを考えると完全に集中することなんて出来なかった。
結局試合は3対1でうちの勝利で終わった。俺は1ゴール2アシストという結果となり、今回のヒーローと言ってもいいだろう。
試合終了の挨拶が終わると、チームメイトが俺を囲んでベチベチと背中を叩いてくる。痛ぇよって笑いながらベンチを見ると、奏は他のマネージャーと抱き合って喜びを分かち合っていた。
チームメイトたちからの手荒い祝福からなんとか逃れた俺は、ベンチに座って身体を休めながら観客席に目線を送った。そこには羽月と光輝がハイタッチしながら喜んでいる姿が目に入る。
(やめてくれ……そんな姿を俺に見せつけないでくれ……)
羽月と光輝の姿を見てしまうと、心が壊れてしまう感覚になる。あいつらは彼女が寝取られてることにも気付かずに、部活でちょっとヒーローになったくらいで浮かれてやがるって笑い合ってるんだろうか。ハイタッチまでしてそんなに俺がピエロになるのが嬉しいのかよ。
俺は苛々を抑えることができなかった。しかし今俺が考えていることは全て被害妄想なのだ。分かってる。分かってるけどそんなの関係ないだろ。俺にはどうすることもできないだろ。クソ……。
「ゆーくん……」
ベンチに座りながら、下を向き頭を抱えている俺の肩に奏が手を置いた。
「大丈夫? ううん。大丈夫な訳ないよね。だけど一人で抱え込まないで。私がいるから。ゆーくんが辛い気持ちを私も背負うから」
「奏……」
俺が顔を上げると、いつもの笑顔を浮かべた奏がいた。
「だってさ、私たち幼馴染みじゃない」
「あぁ。うん、そうだよな。本当にありがとな、奏。いつも俺のことを助けてくれて」
「小学生のときなんて、もっとたくさんゆーくんのこと助けてたもんね。これくらい余裕だよ! 元気出たみたいだし、次の勝負も頑張ろうね」
「奏のお陰でなんとかなりそうだ。頼りにしてるよ」
-
「悪い! 今日の対戦校からさ、試合だけじゃなくてこれから一緒に練習しませんか? って言われちゃってさ。急遽合同練習をすることになったんだよ。だからさ、羽月と光輝だけで先に帰ってくれないか? せっかく応援に来てくれたのに本当にすまん! 今度埋め合わせするからさ」
手を合わせて下を向き、極力2人の顔を見ないように説明をする。今この2人と正面から顔を突き合わせられるほど俺の心は強くない。
「別に気にしなくても良いわよ。それにしても今日の優李は本当にかっこよかったわよ。優李って勉強もできるし、サッカーでも中心選手だなんてちょっとしたチートよね」
「いや、マジで凄かったぞ! 次の試合も応援に来るからな! 別に今日のことは気にするなよ! 羽月はちゃんと送り届けるから安心しろな」
(送り届けるってどこにだよ?)
2人の関係がバレていないと思っている光輝が、クズな発言をしたことでブチ切れそうになってしまったが、なんとか理性を手放さないことができた。
「あぁ、ありがとな、二人とも……。じゃあ、俺はそろそろ行くな」
「頑張ってねー」「奏にもよろしくな」と俺の背中に声を送ってくれるが、振り向きもせずにチームメイトの元までダッシュで駆け抜けた。
家から出て空を見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。サッカーの試合をするには最高のコンディションと言えるだろう。だが、空の澄み渡る青さと裏腹に、俺の心は泥のように濁っている。
それはもちろんスマホ越しであんな行為を見せつけられてしまったからだ。あれから俺は羽月を憎んでると言っても過言じゃない。羽月の顔も見たくないし、声も聞きたくない。あいつの顔を見るだけで俺は苛々して、罵詈雑言を打ち撒けたい欲望を抑えるのに苦労をした。
しかも、夜に一人で部屋に篭っていると、どうしても羽月との楽しかった記憶や、幸せだった記憶、嬉しかった記憶が頭の中を過ってしまい、腹の底から吐き気のようなズクズクとした何かが込み上げてきて、俺は気付いたら涙を流していた。
さっさと寝てしまおうとしても、目を瞑るとあの光景がフラッシュバックするので眠ることも出来なかった。
(地獄だったな、この一週間は……)
俺は足取り重く集合場所へ向かって歩き始めた。
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「ゆーくん、おはよー」
声がした方を振り向くと、いつもの明るい笑顔を浮かべながら、小走りで近寄ってくる奏がいた。俺は奏の顔を見た途端に、ホッしてしまう。
「おはよ。今日の試合頑張るな」
「うん! 今日の相手はうちよりも強豪校だけど、ゆーくんなら大丈夫って思ってるよ」
「奏にそこまで言われたら頑張るしかないよな」
「そうだよ! みんなもたくさん頑張って来たんだもん! 絶対に勝てるよ!」
俺が通っている高校は進学校だが、サッカー部は県内で比較的強い方だとされている。実は奏がマネージャーになって、練習方法を大改革してくれた成果だった。
「それにしても、昨年度のインハイ出場校に良く練習試合を承諾してもらえたよな」
「私たちも前回大会では比較的良い結果を残したしね。あちらも意識してくれてるのかな? それとも強すぎず弱すぎないチームに勝つことで、自分たちに勢いをつけるためだったりね」
「どっちもありそうだよな。だったら尚更負けるわけには行かねぇよな!」
「その意気だよ! あちらをブチのめしてこっちが勢いに乗っちゃおうね!」
俺と奏はたくさん話をして、たくさん笑い合った。試合が終わってからのことで頭がいっぱいのはずなのに、お互いがそれに一切触れようとしない。俺も奏も不安なのだ。だって、今までの俺たちの人生で大きな割合を占めていた人間関係を、自らの手で断絶しようとしているのだから。
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「絶対に勝つぞ! 気合い入れろぉ!!!」
「「「「「おぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」
新チームになって最初の試合が、いよいよ始まろうとしている。相手校のグラウンドで試合をすることもあり、ギャラリーは相手チームの応援に来た人たちでほとんどだ。
観客席を見渡すと、羽月と光輝が並んで立っているのが見えた。俺が見ていることに気付いたのか、羽月は手を振ってジェスチャーで頑張れと応援をしてくれている。俺は軽く手を上げて、すぐに後ろを振り向きチームメイトの元へ向かった。
試合は大方の予想に反して、ウチが圧倒的に攻勢だった。その要因になったのは何を隠そう、この俺だ。
最悪なコンディションのときにベストパフォーマンスなんて皮肉なものだよな。多分俺がこの試合にかける意気込みは、正直みんなよりも低い。モチベがゼロってことはないのだが、どうしてもこれからのことを考えると完全に集中することなんて出来なかった。
結局試合は3対1でうちの勝利で終わった。俺は1ゴール2アシストという結果となり、今回のヒーローと言ってもいいだろう。
試合終了の挨拶が終わると、チームメイトが俺を囲んでベチベチと背中を叩いてくる。痛ぇよって笑いながらベンチを見ると、奏は他のマネージャーと抱き合って喜びを分かち合っていた。
チームメイトたちからの手荒い祝福からなんとか逃れた俺は、ベンチに座って身体を休めながら観客席に目線を送った。そこには羽月と光輝がハイタッチしながら喜んでいる姿が目に入る。
(やめてくれ……そんな姿を俺に見せつけないでくれ……)
羽月と光輝の姿を見てしまうと、心が壊れてしまう感覚になる。あいつらは彼女が寝取られてることにも気付かずに、部活でちょっとヒーローになったくらいで浮かれてやがるって笑い合ってるんだろうか。ハイタッチまでしてそんなに俺がピエロになるのが嬉しいのかよ。
俺は苛々を抑えることができなかった。しかし今俺が考えていることは全て被害妄想なのだ。分かってる。分かってるけどそんなの関係ないだろ。俺にはどうすることもできないだろ。クソ……。
「ゆーくん……」
ベンチに座りながら、下を向き頭を抱えている俺の肩に奏が手を置いた。
「大丈夫? ううん。大丈夫な訳ないよね。だけど一人で抱え込まないで。私がいるから。ゆーくんが辛い気持ちを私も背負うから」
「奏……」
俺が顔を上げると、いつもの笑顔を浮かべた奏がいた。
「だってさ、私たち幼馴染みじゃない」
「あぁ。うん、そうだよな。本当にありがとな、奏。いつも俺のことを助けてくれて」
「小学生のときなんて、もっとたくさんゆーくんのこと助けてたもんね。これくらい余裕だよ! 元気出たみたいだし、次の勝負も頑張ろうね」
「奏のお陰でなんとかなりそうだ。頼りにしてるよ」
-
「悪い! 今日の対戦校からさ、試合だけじゃなくてこれから一緒に練習しませんか? って言われちゃってさ。急遽合同練習をすることになったんだよ。だからさ、羽月と光輝だけで先に帰ってくれないか? せっかく応援に来てくれたのに本当にすまん! 今度埋め合わせするからさ」
手を合わせて下を向き、極力2人の顔を見ないように説明をする。今この2人と正面から顔を突き合わせられるほど俺の心は強くない。
「別に気にしなくても良いわよ。それにしても今日の優李は本当にかっこよかったわよ。優李って勉強もできるし、サッカーでも中心選手だなんてちょっとしたチートよね」
「いや、マジで凄かったぞ! 次の試合も応援に来るからな! 別に今日のことは気にするなよ! 羽月はちゃんと送り届けるから安心しろな」
(送り届けるってどこにだよ?)
2人の関係がバレていないと思っている光輝が、クズな発言をしたことでブチ切れそうになってしまったが、なんとか理性を手放さないことができた。
「あぁ、ありがとな、二人とも……。じゃあ、俺はそろそろ行くな」
「頑張ってねー」「奏にもよろしくな」と俺の背中に声を送ってくれるが、振り向きもせずにチームメイトの元までダッシュで駆け抜けた。
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