4 / 59
裏切りと決別
第4話:望まぬ買い物
しおりを挟む
「そのことなんだけどさ。ゆーくん、今度一緒に監視カメラを買いに行かないかな?」
奏は部活帰りに寄ったカフェで、監視カメラを買って俺の部屋に設置しないかと提案して来たのだ。もし俺たちが考えていることがお門違いで、あの2人に疾しいことが一切無かったら、彼女と親友が一緒にいるところを盗撮するクソ野郎ってことになってしまう。
「それは流石にやりすぎじゃないか?」
「ゆーくんの言いたいことは私にも分かるよ。だって私だってあの日からずっとどうしたら良いか考えてたんだもん」
奏はちょっと涙目になっていた。
それもそうか、あいつらは俺にとって彼女と親友だけど、奏にとっても羽月は親友だし、光輝も小さな頃から一緒にいる友達だもんな。苦しいのは俺だけじゃないということに今更気付いた。
俺はどんだけ悲劇のヒロインを気取ってんだよ。あまりの不甲斐なさに、苛々としてしまった。
「それにさ、あの2人に何もなければそのまま家の防犯カメラとして使えば良いし、言わなければバレないと思うのよね。モヤモヤが晴れて、今まで通り仲良し四人組になれるなら安いもんじゃない?」
「そうだな。奏の言う通りだよ。よし、じゃあ監視カメラを今度買いに行くか!」
「ゆーくん……、あの2人を騙すような真似をさせちゃってごめんね」
「良いんだよ。奏がそうやって提案してくれなかったら、俺なんてずっと一人でモヤモヤしてただけだからな。助かったよ」
そう言って、さっきのように奏の頭をワシワシと撫でたが、今回の奏は「えへへ」と笑うだけで抵抗は一切しなかった。
-
監視カメラを買いに行くのは、部活がない今週の金曜日になった。
事前に色々と調べてくれていたようで、スマホで候補を見せてくれた。
奏のお勧めは、映像をリアルタイムに閲覧して、音声まで聞くことができる監視カメラだ。奏が見せてくれた監視カメラの金額は、数千円から高くても2万円程度だった。
思ったよりも高くないんだな。
確かに思わぬ出費ではあるが、俺はあまりお金を使い込むタイプではないので、今まで貯めていたお年玉貯金を使えば全然余裕で購入することができる。
奏は「提案したのは私だし、半額支払うよ」と言ってくれたが、これは俺と羽月、そして光輝の問題なので丁重に断らせてもらった。
「再来週にまた私たち4人で遊ぶじゃない? その日までにちゃんと映るかテストしないとね!」
「あぁ、そうだな。色々と助けてもらうかもしれないけど、そのときは頼むな」
「うん。私なら全然大丈夫だよ。ゆーくん、頑張ろうね」
奏の優しさい笑顔を見て、俺には本当に良い友達がいるんだなと思って嬉しくなってしまった。
-
金曜日の放課後に、俺と奏は部活がないのに、部室で待ち合わせをした。
すぐに帰宅してしまうと、羽月と鉢合わせしてしまう可能性があったため、部室で時間を潰してから監視カメラを購入しに行くことになったのだ。
そして、都内有数の電気街に到着した俺たちは、大量のメイドさんのプレッシャーを躱して目的地のビルに到着した。
「お、おい。本当にここで良いのか?」
「う、うん。間違ってないはずよ……」
俺たちの目の前にあるビルは、大通りのキラキラした建物と違い、薄暗くてちょっと怖かった。いや、かなり怖かった。
「よ、よし。じゃあ俺が先に入るから、奏は後を付いてくるんだぞ」
「わ、分かった。ゆーくんがこんなに頼もしく見えるなんて……」
「俺はいつでも頼りがいのある漢だろうが!」
俺と奏はビルの怪しげな雰囲気に負けないように、馬鹿話をしながら恐る恐る中に入っていく。
そして、今にもワイヤーが切れて落ちてしまうのではないかと疑ってしまうくらい、年季の入ったエレベーターに2人でドキドキしながら乗り込むと、奏が「冒険みたいでちょっと楽しいね」と悪戯顔で笑いかけて来た。
-
「うわぁ、めちゃくちゃ多いな」
「こんなにも商品数があるんだね……。目当ての監視カメラがあると良いんだけど」
俺たちは落ち着きなくキョロキョロと店内を見渡しながら、商品を物色し始めた。しかし、今まで監視カメラとは縁遠い生活を送っていた俺たちには、説明を見てもさっぱり分からなかったので、店員さんに色々と教えてもらってなんとか候補を3つまで絞ることができた。
「さて、どれにしようか……」
「どれも良さそうだよね。ポイントはどこまでキレイな映像を求めるかなんだけど、どうしようか?」
「うーん。良く分からないけど、普通のと高解像度の金額差が1万程度なんだし、この際だから良いやつでも買っておくか。マイクも高性能みたいだしな」
「映像が荒れたり、音声もノイズばかりだったら台無しになるかもだもんね」
「だな。じゃあレジに行って買ってくるわ!」
奏との買い物はちょっと楽しいな、と思いながらも、手に持った監視カメラを見て俺は大きな溜め息をついてしまう。
俺は何が悲しくて監視カメラなんて買わないといけないんだ。
決して安くはない監視カメラを買うために、諭吉さんを財布から数枚出しながら俺は自嘲気味に笑った。
ー
「今日はありがとうな」
俺たちは、帰る前にファミレスに寄って、これからの作戦を練ることにした。
「とりあえず再来週の土曜日に照準を合わせて行動しないとだよね!」
「そうだな。それまでに俺は監視カメラを設置して、ちゃんと映ってるかテストとかしないとな」
「うん、そうだね! 本番になって映像が映ってませんでしたとかシャレにならないよね」
「さすがにそれだけは回避したいよな……」
そう言って、俺は奏が俺の後にレジに並んだことを思い出した。
「そう言えば、さっきのお店で何か買ってたよな? あそこで奏が買いそうなの無かったんだけど、一体何を買ったんだ?」
「へへっ。それは内緒だよ!」
「なんだよケチ臭ぇな。それくらい教えてくれよ」
「絶対にだめぇ!」
奏はアハハと元気に笑っていたが、徐々にその表情に影が差してくる。
「……こんな風に笑っちゃうなんて最低だよね。だって、友達2人のことを騙して盗撮しようとしてるんだから」
「奏が責任に感じることはないよ。あの2人のことを監視カメラで撮影しようと決断したのは俺なんだから。提案したのは確かに奏かも知れないけど、俺はそれを蹴ることだってできたんだし、そんなに気にするなって」
「そうなんだけどさ、そんな簡単に割り切ることはできないよ」
「もしさ、あいつらに何もなかったら2人で全力土下座で謝罪しような。多分許してくれるよ」
奏は伏し目がちに「うん」と小さく頷いた。
「それよりも本番の土曜日はどういうスケジュールにしようか?」
俺がわざとらしく元気な声を出すと、奏は「ふふっ」と笑ってくれた。
そして、俺と奏は彼女と親友を騙す計画を練るのであった。
奏は部活帰りに寄ったカフェで、監視カメラを買って俺の部屋に設置しないかと提案して来たのだ。もし俺たちが考えていることがお門違いで、あの2人に疾しいことが一切無かったら、彼女と親友が一緒にいるところを盗撮するクソ野郎ってことになってしまう。
「それは流石にやりすぎじゃないか?」
「ゆーくんの言いたいことは私にも分かるよ。だって私だってあの日からずっとどうしたら良いか考えてたんだもん」
奏はちょっと涙目になっていた。
それもそうか、あいつらは俺にとって彼女と親友だけど、奏にとっても羽月は親友だし、光輝も小さな頃から一緒にいる友達だもんな。苦しいのは俺だけじゃないということに今更気付いた。
俺はどんだけ悲劇のヒロインを気取ってんだよ。あまりの不甲斐なさに、苛々としてしまった。
「それにさ、あの2人に何もなければそのまま家の防犯カメラとして使えば良いし、言わなければバレないと思うのよね。モヤモヤが晴れて、今まで通り仲良し四人組になれるなら安いもんじゃない?」
「そうだな。奏の言う通りだよ。よし、じゃあ監視カメラを今度買いに行くか!」
「ゆーくん……、あの2人を騙すような真似をさせちゃってごめんね」
「良いんだよ。奏がそうやって提案してくれなかったら、俺なんてずっと一人でモヤモヤしてただけだからな。助かったよ」
そう言って、さっきのように奏の頭をワシワシと撫でたが、今回の奏は「えへへ」と笑うだけで抵抗は一切しなかった。
-
監視カメラを買いに行くのは、部活がない今週の金曜日になった。
事前に色々と調べてくれていたようで、スマホで候補を見せてくれた。
奏のお勧めは、映像をリアルタイムに閲覧して、音声まで聞くことができる監視カメラだ。奏が見せてくれた監視カメラの金額は、数千円から高くても2万円程度だった。
思ったよりも高くないんだな。
確かに思わぬ出費ではあるが、俺はあまりお金を使い込むタイプではないので、今まで貯めていたお年玉貯金を使えば全然余裕で購入することができる。
奏は「提案したのは私だし、半額支払うよ」と言ってくれたが、これは俺と羽月、そして光輝の問題なので丁重に断らせてもらった。
「再来週にまた私たち4人で遊ぶじゃない? その日までにちゃんと映るかテストしないとね!」
「あぁ、そうだな。色々と助けてもらうかもしれないけど、そのときは頼むな」
「うん。私なら全然大丈夫だよ。ゆーくん、頑張ろうね」
奏の優しさい笑顔を見て、俺には本当に良い友達がいるんだなと思って嬉しくなってしまった。
-
金曜日の放課後に、俺と奏は部活がないのに、部室で待ち合わせをした。
すぐに帰宅してしまうと、羽月と鉢合わせしてしまう可能性があったため、部室で時間を潰してから監視カメラを購入しに行くことになったのだ。
そして、都内有数の電気街に到着した俺たちは、大量のメイドさんのプレッシャーを躱して目的地のビルに到着した。
「お、おい。本当にここで良いのか?」
「う、うん。間違ってないはずよ……」
俺たちの目の前にあるビルは、大通りのキラキラした建物と違い、薄暗くてちょっと怖かった。いや、かなり怖かった。
「よ、よし。じゃあ俺が先に入るから、奏は後を付いてくるんだぞ」
「わ、分かった。ゆーくんがこんなに頼もしく見えるなんて……」
「俺はいつでも頼りがいのある漢だろうが!」
俺と奏はビルの怪しげな雰囲気に負けないように、馬鹿話をしながら恐る恐る中に入っていく。
そして、今にもワイヤーが切れて落ちてしまうのではないかと疑ってしまうくらい、年季の入ったエレベーターに2人でドキドキしながら乗り込むと、奏が「冒険みたいでちょっと楽しいね」と悪戯顔で笑いかけて来た。
-
「うわぁ、めちゃくちゃ多いな」
「こんなにも商品数があるんだね……。目当ての監視カメラがあると良いんだけど」
俺たちは落ち着きなくキョロキョロと店内を見渡しながら、商品を物色し始めた。しかし、今まで監視カメラとは縁遠い生活を送っていた俺たちには、説明を見てもさっぱり分からなかったので、店員さんに色々と教えてもらってなんとか候補を3つまで絞ることができた。
「さて、どれにしようか……」
「どれも良さそうだよね。ポイントはどこまでキレイな映像を求めるかなんだけど、どうしようか?」
「うーん。良く分からないけど、普通のと高解像度の金額差が1万程度なんだし、この際だから良いやつでも買っておくか。マイクも高性能みたいだしな」
「映像が荒れたり、音声もノイズばかりだったら台無しになるかもだもんね」
「だな。じゃあレジに行って買ってくるわ!」
奏との買い物はちょっと楽しいな、と思いながらも、手に持った監視カメラを見て俺は大きな溜め息をついてしまう。
俺は何が悲しくて監視カメラなんて買わないといけないんだ。
決して安くはない監視カメラを買うために、諭吉さんを財布から数枚出しながら俺は自嘲気味に笑った。
ー
「今日はありがとうな」
俺たちは、帰る前にファミレスに寄って、これからの作戦を練ることにした。
「とりあえず再来週の土曜日に照準を合わせて行動しないとだよね!」
「そうだな。それまでに俺は監視カメラを設置して、ちゃんと映ってるかテストとかしないとな」
「うん、そうだね! 本番になって映像が映ってませんでしたとかシャレにならないよね」
「さすがにそれだけは回避したいよな……」
そう言って、俺は奏が俺の後にレジに並んだことを思い出した。
「そう言えば、さっきのお店で何か買ってたよな? あそこで奏が買いそうなの無かったんだけど、一体何を買ったんだ?」
「へへっ。それは内緒だよ!」
「なんだよケチ臭ぇな。それくらい教えてくれよ」
「絶対にだめぇ!」
奏はアハハと元気に笑っていたが、徐々にその表情に影が差してくる。
「……こんな風に笑っちゃうなんて最低だよね。だって、友達2人のことを騙して盗撮しようとしてるんだから」
「奏が責任に感じることはないよ。あの2人のことを監視カメラで撮影しようと決断したのは俺なんだから。提案したのは確かに奏かも知れないけど、俺はそれを蹴ることだってできたんだし、そんなに気にするなって」
「そうなんだけどさ、そんな簡単に割り切ることはできないよ」
「もしさ、あいつらに何もなかったら2人で全力土下座で謝罪しような。多分許してくれるよ」
奏は伏し目がちに「うん」と小さく頷いた。
「それよりも本番の土曜日はどういうスケジュールにしようか?」
俺がわざとらしく元気な声を出すと、奏は「ふふっ」と笑ってくれた。
そして、俺と奏は彼女と親友を騙す計画を練るのであった。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。


愛される日は来ないので
豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。
──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる