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第六章

079:この先

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 俺と凛音は現在ハンター協会の会議室に座っていた。そんな俺たちの前には、大量のお菓子を頬張っているハムハムさんとショウさん、そして『天上天下』の龍二さんが座っている。
 龍二さんは男が惚れる男って感じで、見た目はとても頼もしいお兄さんっぽいのだが、隣でお菓子を食べているハムハムさんのことをチラチラと横目で見てはニヤッと笑うので色々と台無しだ。龍二さんの逆隣には副リーダーのコウヤさんが、デレデレのリーダーを見て頭を抱えている。
 以前『悪食』と『天上天下』が合同パーティを組んでダイブした時の配信を見たのだが、魔獣と戦ってるとき以外はこんな感じだったのを思い出した。


「それでは私から紹介をさせて頂きます」


 ショウさんが代表して皆さんの簡単な紹介をしてくれた。

「お前たちの嚥獄配信見たぜ? つか、どうやったらあんな強くなれんだよ!」


 龍二さんは快活な笑顔を浮かべながら手を差し伸べてくれる。俺はその手を握り返しながら、「見てくださったんですね! ありがとうございます!」と喜びの声を上げた。


「本当にすげぇよな。あの配信のあと居ても立ってもいられずに、俺たちも久しぶりに嚥獄に潜ろうってことになったんだぜ?」

「そうなんだよ。来週からちょっと嚥獄ってくるわ」

「おぉー、そうなんだな! 忙しい時に来てくれてありがとな」


 龍二さんの肩をバンバンと叩きながら、ハッハッハと快活に笑うハムハムさん。結構痛そうなのだが龍二さんは「やめろよぉ」と言いながらもとても嬉しそうである。


 それにしても、嚥獄ダイブ前によく時間作ってくれたよな。俺も経験したのだが、準備するだけでもかなりの労力が必要になってくる。そんな忙しい間に俺たちに会ってくれるなんて本当にありがたいことだった。

 そう感謝した俺の目の前には「いや、お前にも会えるならいつでも、どこにでも行くから何かあったらすぐに連絡してくれよな!」と、ハムハムさんにデレデレの笑みを浮かべる龍二さんがそこにいた。

 ――うん。龍二さんは俺たちに会うというよりは、ハムハムさんに会いたかっただけのようだな。

 それにしても真正面から好意を伝えられてるのに、ハムハムさんの照れるどころか「おけ、分かった」と軽い感じで返事をしている。
 ハムハムさん。龍二さんが目をキラキラさせて見つめてるのだから、お菓子を食べる手を一瞬でもいいから止めてあげてください。
 俺は少しだけ龍二さんに同情してしまうが、副リーダーの二人は素知らぬ顔をしていたのでいつもの光景なのだろう。
 頑張れ、龍二さん!


「龍二のことは置いといて、ちょっと聞きたいことがあるんだが、嚥獄で途中からなんかガジェットを持ってただろ? あれを持ってから階段を探す速度が格段に上がったみたいだが、あれってまさかそういうガジェットなのか?」


 コウヤさんが聞くと、ショウさんが「そうそう。俺もこの間聞こうと思ったのだが、黒衣の料理がうますぎて忘れてたんだ」と話に乗ってきた。

 やっぱり『探るんだ君』のこと気になるよな。
 実は『探るんだ君』に関しては、ハンター協会から紹介されたメーカー3社とのやり取りを終えたので、来年には市場に出ることになると思う。しかし、それを待ってくれなんて言うつもりはない。そのために、各メーカーからは技術提供だけをして、こちらが製造することには何も問題ないという契約を結んでいるのだから。


「コウヤさんの想像通りです」


 そう言うと、俺は2つの『探るんだ君』をテーブルの上に置いた。


「実はこのガジェットは、俺の隣にいる凛音が発明したものです。詳しい理屈は説明できませんが、半径300m以内に下の階層に続く階段があるとそこに矢印が向いて場所を教えてくれるんです」俺がそう言うとハムハムさんが食べる手を止めて、『探るんだ君』を熱心に見つめてきた。そんなハムハムさんを見つめる龍二さんが何故か嬉しそうな表情を浮かべている。
 うん。取り敢えず龍二さんは放っておこう……。


「今回2つ持ってきたのは、折角我々と仲良くしてくれると言ってくださっている皆さんにプレゼントしようと思ったからなんです」

「え? 本当に貰ってもいいのか!?」


 キラキラした目をしながら『探るんだ君』を見つめていたハムハムさんが、身を乗り出して「いいの? いいの?」と聞いてくる。


「もちろんですよ。な、凛音?」

「はい。今日のために作ってきたんです。もし良かったら手に取って裏を見てください」


 凛音がそう言うと、龍二さんとハムハムさんが『探るんだ君』を手に取って裏返すと「え?」と声を出して固まってしまった。その後硬直から溶けた龍二さんが急に立ち上がったと思ったら、俺たちの方にやってきて「ありがとう!」と言いながら思いっきり頭を下げてきた。


「まさか、俺たちのパーティ名の彫ってくれてるとは……俺は感動した!!!」と両目から涙を流しながら俺のことを抱きしめてくる。

「き、気に入ってもらえて良かったです」


 俺は苦しいと思いながらもなんとかそう答えたが、内心では『これオーラ弱い人だったら背骨折れるんじゃ……』なんてことを考えていた。


「本当にありがとな、詩庵。なんか借りばかりが増えてしまう気がするぞ……」

「気にしないでください、ハムハムさん。多分来年には一般流通されると思うので、それまで使ってもらえたら嬉しいです」

「あぁ、当たり前だよ! ずっと大切にするな!」


 そう言いながら、ハムハムさんは『探るんだ君』を大切に抱き抱えている。その姿は小学生がぬいぐるみを抱えているように見えて、俺と凛音がホッコリしたのは言うまでもない。


 その後は凛音が『探るんだ君』の使い方を説明をしたり、ハムハムさんたちが他のSランククランについて教えてくれた。
 俺たち以外のSランクはハムハムさん率いるクランの『悪食』と、龍二さんのパーティ『天上天下』以外にも、『青龍』と『聖天の使者』という2つのクランが存在する。
 ハヤトさんがリーダーをいている『青龍』は、俺たちが更新するまで嚥獄の最高攻略階層を記録していた、日国で一番の規模を誇る最大クランである。
 そして、『聖天の使者』は秘密が多いクランとして有名だ。リーダーの島津香澄さんは聖女と言われているが、その姿を見た人は限られている。というのも、『聖天の使者』は配信やメディア露出を一切しないのだ。規模は『青龍』に次ぐ2番目の規模を誇っており、嚥獄も25階層目まで攻略しているので実力も折り紙付きだった。

 実は『青龍』は憧れのクランだったので、一度お会いしたいと思っているのだが、あまりにも規模が大きすぎて恐れ多いという気持ちが勝ってしまう。
 そもそも、ハムハムさんともし嚥獄で出会うことがなかったら、今このようにお話させてもらうことすら難しかっただろう。

 本当にこの出会いに感謝をしよう。そして、いつか『青龍』のハヤトさんにお会いしたいなと、ハムハムさんたちが『探るんだ君』を触りながら笑い合っているのを眺めながら、そんなことを考えていたのだった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆

次回更新から第六章のお話が本格的に始まる感じです。
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