葬送神器 ~クラスメイトから無能と呼ばれた俺が、母国を救う英雄になるまでの物語~

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第五章

058:キャンプ

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 嚥獄にダイブして、改めてダンジョンの厄介さを思い知らされた。
 というのも、階層が広大すぎて下の階層に行ける階段を探すのに手子摺ってしまうのだ。
 そして、ダンジョンの厄介なところは、一度下の階層に続く階段を通ると位置が変わってしまうことだった。
 上の階層に続く階段は位置が変わらないのだが、下に関しては常に変化しているためマップを作ることができないのだ。
 今まで潜ったダンジョンは、そこまで広くなかったのでそこまで苦だとは思わなかったが、嚥獄は今までとは比にならないレベルで大変だった。

 さらには嚥獄の魔獣はいずれも強いのだ。
 俺たちはまだ苦戦するレベルではないが、他のクランはかなりキツイだろう。
 最強と言われていた『覇道』ですら一日の攻略階層が少ないのも納得だった。

 それでもなんとか無事に10階層目に降りる階段を見つけた俺たちは、その付近でキャンプをすることにした。
 地面があまりデコボコしていない場所を見つけると、結界石を設置してこの日のために凛音と一緒に準備したキャンプグッズを、瀬那と一緒にせっせと設置していく。
 2人で準備を進めていると「こ、ここがダンジョン!!!」という声が背後から聞こえてきた。
 そちらに目を向けると、物珍しそうに辺りをキョロキョロしている凛音がそこにいた。


「ダンジョンに初めて来た感想は?」

「なんだかすっごいね! ダンプレでは見てたけど、実際に来ると全然違うや」

「だろ? 結界石の中は空気が綺麗だけど、一歩外に出たら魔素が充満しててレベルが低いとかなりキツイから注意してな?」

「うん。流石に嚥獄のダンジョンに足を踏み入れる勇気は私にはないよ」


 怯えるような演技をした凛音は、いつも以上にテンションが高そうだった。
 その姿を俺たちは微笑ましく眺めている。


「みんな私のわがまま聞いてくれてありがとうね!」


 凛音がなぜ嚥獄の中にいるのか。
 戦う力がない凛音は嚥獄は疎か、Jランクのダンジョンでも突破するのは難しいだろう。
 だが、我々には黒衣先生がついている。
 彼女の霊扉を使用して、一度怪の国を経由して凛音を迎えに行ったというわけだ。
 今まではキャンプするほどのダンジョンに挑んでいなかったので、凛音を連れてくることができなかったのだ。


「いいんですよ。いつも凛音さんだけお留守番で申し訳なかったですし」

「ダンジョンの中で『清澄の波紋』が揃うってなんか嬉しいわね」


 その言葉を聞いた凛音は目をウルウルさせながら「ありがとう」って2人に抱き付いた。
 俺たちはいつも凛音に感謝してるし、言葉でも伝えている。
 それでも自分だけ安全地帯にいるというのは心苦しいものなのだろう。


「よし! みんな今日は凛音が初めてダンジョンにダイブした日だし、パーっとパーティーやろうぜ!」

「そうね。みんなで凛音ちゃんを歓迎しましょ」

「はい。凛音さんのために腕によりをかけて料理を作りますね!」

「わ、私も手伝うからね! だって私もみんなの仲間なんだもん」

「そうだな。俺たちだってクランメンバーだけのキャンプは初めてなんだし、全員で手分けして最高のキャンプにしような」

「「おーーー!!!」」「はい」


 俺たちはそれぞれ作業をすること20分ほどで、前回の合同パーティのキャンプよりも豪勢な拠点を作ることができた。
 テントも最新式の大きいやつにしたり、簡易キッチンも導入しているので黒衣の料理にも期待ができる。
 また、人間をダメにするふわふわのクッションなども人数分あるので、一人暮らししている苦学生の部屋よりも居心地が良いだろう。
 ただ、ダンジョンの深い階層になると回線が繋がらないので、チップで動画などを見ることができないのはネックではある。
 電波の申し子である凛音に禁断症状が出なければ良いのだが、と思いながら眺めていると「しぃくん。ちょっと失礼なことを考えてるでしょ」なんて突っ込まれてしまった。
 さすが凛音さん!
 俺の考えていることなんて簡単に読まれてしまうな。


「皆さんご飯が出来ましたよ」


 そう言って黒衣がテーブルに料理を並べ始めた。
 テーブルにはローストチキンやパスタ、生ハムのサラダにスープと色とりどりの美味しそうな料理が並んでいる。
 黒衣が現世に顕現してきたときは、和食ばかりだったのだが最近では洋食の料理もお手のものになっていたのだ。
 もう俺は黒衣のいない生活が考えられないよ……。


「うわぁ! 凄いね! ダンジョンでこんな料理が食べれるなんて夢みたいだよ!」

「この間の合同パーティのときも黒衣ちゃんの料理が凄くて評判だったけど、今日のは段違いに凄いね!」


 俺は照れてる黒衣の頭を撫でながら「ありがとな」と伝えると、目を細めて体をすり寄せてくる。
 そんな黒衣を見て、『猫みたいだな』と思ったのは内緒だ。
 凛音と瀬那はというと、気持ち良さそうに撫でられている黒衣を眺めながら「う~羨ましい」と呟いている。
 そんな2人を見てどうするか悩んだが、ちょっと勇気を出して2人の元へ行って「今日は魔獣との戦いお疲れ様」「いつもバックアップありがと」とそれぞれに伝えてから頭を撫でると、「えへへぇ~」と嬉しそうに笑うのでこれが正解だったかと安心した。


「皆さん冷めないうちに食べてください」


 黒衣の声を合図に俺たちは席に座って、ご馳走をみんなで食べ始めた。
 はっきり言っていずれの料理も美味すぎる。
 グルメ系ハンターの頂点に立つ、Sランクの『悪食』というクランがある。
 噂によるとキャンプの料理がかなり美味しいと有名なのだが、黒衣の料理は『悪食』にも負けないんじゃないだろうか。
 俺たちは美味しい料理を食べながら楽しく会話をしていると、今日のダンプレのコメントについて話題が移った。


「そういえばかなりチャット盛り上がってたよ! だって最終的には15万人くらいの人が観てくれたからね!」

「マジかよ……。そんな大人数がどんな内容で盛り上がってたんだ?」

「えっと、話題の大半は黒衣ちゃんと瀬那ちゃんが可愛いのに強すぎるって感じだったかな」

「えっ? そんなこと言われてたの?」


 まさか自分の容姿のことを言われているとは思っても見なかった瀬那は、顔を真っ赤にして「明日はもっとメイクしようかしら」と呟いている。
 黒衣に関しては「ふーん」って感じで、あまり気にしてなさそうだった。
 ハートが強い――っていうより、周りに興味がないんだろうな。


「テレビでも今日のダンプレの映像が使われったよ」

「は? テレビに流れたの? こういうのって許可とか必要なんじゃないのか?」

「テレビ局から使用許可の連絡がきたから「いいですよー」って答えておいたの。ダメだったかな?」

「いや、別に悪くないよ。どうせダンプレで流してる映像だしな」

「あと、芸能プロダクションからも連絡がきたよ。2人を専属契約したいって」

「え? 嘘でしょ? それは流石に許可してないわよね?」

「うん。流石にOKしてないから安心して!」


 瀬那は心から安堵したのかホッと胸を撫で下ろしていた。
 それにしても予想以上に反響があったな。
 話題性あるかな、と思って今日は黒衣と瀬那をメインにしてみたんだが、まさか配信当日に芸能プロダクションからのスカウトまで来るとは思わなかった。


「けど瀬那ちゃんみたいな美人さんが、刀を振って魔獣を倒す姿や、着物を着た可愛らしい黒衣ちゃんが舞うように鉄扇を振ってる姿なんて本当に絵になったもん。それにめちゃくちゃ強いじゃん、2人とも。本当にかっこよかったんだから話題になるのは当然だよ!」


 凛音が言う通り、2人の戦っている姿は本当に絵になるからな。
 しかし、ちょっと浮かない顔をした凛音が「だけど……」と何か言いにくそうにしている。


「どうした?」

「いや、2人は人気になったんだけど、その分しぃくんがパラサイトって声も多くなっちゃって。――炎夏さんがコメントしてくれて、フォローしてくれたんだけどネガティブな意見の方がやっぱり多かったかな」

「まぁ、それは想定内だから別にいいよ。明日のボス戦が終わったら次からは俺もメインで戦うし、それを見たらパラサイトじゃないって分かるだろ、多分」

「そうですよ、凛音さん。本質を見ないような輩の言葉で一喜一憂していても仕方がないですから。私たちの今回の目的が達成されたら、詩庵様への評価は180度変わるでしょうしね」

「うん。そうだよね! だって、あのバジリスクをしぃくんが一人で倒しちゃったら流石に誰も何も口出せないよね!」

「その代わり、詩庵には頑張ってもらわないとなんだけどね。前回のバジリスク戦のときみたいに油断したらダメよ?」

「あぁ、あんなヘマはもうしないようにするよ。もう油断せずに最初から全力で戦うからさ」


 それから俺たちは人をダメにするクッションに座りながら、今後のことや拠点をどこら辺に購入するかなどの話をした。
 雰囲気を出すために、焚き火なんてやってみたりして完全に気分はキャンプだった。
 たまに結界石の外側では魔獣が現れるのだが、それを見た凛音が「こ、これが魔獣……」と生唾を飲みながら凝視しているのが面白くみんなで笑い合ったりしていた。
 やっぱり凛音がいるだけで場が明るくなるんだよな。

 こうしてダンジョンの中とは思えないくらいリラックスした俺たちは、明日に備えて早めに寝ることにした。
 嚥獄の中なので大丈夫だとは思うけど、念のために見張りをすることも忘れない。
 凛音も見張りくらいは参加したいと言うので、凛音が最初に見張りをして瀬那、俺、最後に黒衣という順番で見張ることになった。
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