葬送神器 ~クラスメイトから無能と呼ばれた俺が、母国を救う英雄になるまでの物語~

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第三章

033:コネクト

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 現代の天斬である夢見さんに刀を打ってもらえることになった俺たちは、そのまま晩御飯をご馳走になることになった。
 料理を作ってくれたのは夢見さんの奥さんで名前をまりさんと言う。
 この人は、俺たちが夢見さんの家に行ったときに対応してくれた女性だ。
 ちなみに夢見さんと呼ぶと2人が反応してしまうので、貞治さんと鞠さんって呼ばせてもらっている。


「ところでお前たちは当分こっちにいられるのか?」


 そう言われて、俺たちは民家を借りていることを思い出した。
 俺が慌てていると凛音が「大丈夫だよ。今日はチェックインが遅れるって伝えておいたから」と俺の顔を見ながらニコニコと笑っている。


「おう。聞いたらそんなに遠くない民家だったからよ、俺が車で送ってやるって凛音ちゃんと話してたんだ。だから安心しろな」


 り、凛音が出来る子すぎてヤバイ……。
 そして、貞治さん優しい……。

 っていうか、俺が出来なさすぎだよな、マジで。
 このままだと脳筋って言われる日も遠くなさそうだから、もうちょっと色々と気を回せるようにしないとな。


「ありがとうございます。あと俺たちは今春休みなので、取り敢えず民家を3日分は予約している感じです」

「そうか。じゃあ、その3日間が終わったらこの家に泊まるっていうのはどうだ?」

「え? いいんですか?」

「もちろんだ。なぁ、鞠もいいだろ?」

「うん。あなたをまたやる気にさせてくれた恩人たちだからね。いつまでもいてくれたっていいんだからね」


 鞠さんは、貞治さんが再び刀を打つと言ったとき、俺たちがいるにも関わらず涙を流して喜んでいた。
 鞠さんの気持ちを知ることはできないが、愛している人が諦めてしまった姿を見るのはキツかったんだと思う。
 この2人をぬか喜びさせないためにも、しっかりと無垢砂鉄を取ってこないとな。


「じゃあ、お言葉に甘えます。あと、日中は俺たちは無垢砂鉄を取るためにちょっと遠くに行ってくるので、連絡など取りにくくなるかも知れません」

「あっ、そのことで相談があるの。――さっき貞治さんが黒天や無垢砂鉄のことを知っていた感じでしたが、どこで目にしたのか思い出せましたか?」

「恐らくなんだが、納屋の中にある先祖代々伝わる文献の中に、そんなことが書いてあった気がするんだ」

「そうですか。もし貞治さんが良かったら、毎日その納屋で文献を読ませてもらえないでしょうか? ひょっとしたら黒天のこととか分かるかも知れないので」

「そう言うことか。俺たちは問題ないから、毎日好きなだけいてくれればいい」

「ありがとうございます。黒衣ちゃんの記憶もこれでちょっと戻るかも知れないしね。私頑張って調べるね」

「凛音さん。いつも本当にありがとうございます」


 凛音の気持ちが嬉しかったのだろう。
 黒衣は目をウルウルとさせて、凛音に頭を下げていた。



 ―



 翌日俺と黒衣は怪の国に再び足を踏み入れることになった。
 瀬那も一緒に来ているのだが、あまりにも不安定な魂の状態なので、基本的にはずっと俺の影の中にいてもらうことになっている。
 自分のために俺たちが動いているのに、何もできないことを悔しがっていたが、瀬那が神器になったらいつでも一緒に戦えるからと言ったら「うん。だね」とハニカミながら納得してくれた。

 ちなみに凛音は一人であの山道を進むのは無理なので、俺がまたおんぶして送ろうと思ったのだが、貞治さんが「俺が迎えに行ってやるから、お前たちは無垢砂鉄のことだけを考えていてくれ」と言ってくれたので、お言葉に甘えることにしたのだ。
 そんな貞治さんに俺たちは恐縮しきっていたのだが、鞠さんが「別に気にしなくていいのよ。だって昨日まで朝から晩までお酒飲んでただけなんだから」と言うと、「勘弁してくれよ。せっかく良いおっちゃんキャラ作ってたのによ」と弱々しく言うものだから、俺たちはついつい大爆笑してしまった。


「さて、久しぶりの怪の国だな」

「はい。私たちがいる場所から、無垢砂鉄の採取場は少し遠くにございます。私は場所だけは知っているのですが、行ったことがなくてマッピングをしていないのです」

「気にするなって。だけど、極力怪には出会わないようにしないとな」


 俺たちは以前捕まえた、地竜に跨って採取場へ向かっている。
 このままのスピードで走っていたら、あと2日くらいで到着することができるだろうということだ。

 この地竜は霊獣の森に生息しているのだが、自分より強い者に懐くという性質を持っていた。
 霊獣の森は広いので、俺と黒衣は移動手段として地竜を確保していたのだ。

 名前は俺が乗ってる地竜が『シュウ』で、黒衣が乗っている地竜を『トウ』と呼んでいる。
 ちなみに俺たちが日国に帰ってるときは、俺の影の中で伸び伸びと暮らしているらしい。
 マジで俺の影の中ってどうなってるの?

 あと、無垢砂鉄の採取場に向かう道すがらにある、怪の村を様子見したのだが未だに厳戒態勢らしく、奴隷が収容されているだろう建物の前に見張りの怪が立っていた。
 あれからだいぶ時間が経ってるんだから、そろそろ気を緩めたっていいものなのだが、怪のやつら意外と真面目だな……。



 ―



 この日は特に何事もなく予定通りの距離を走ることができた俺たちは、黒衣に現在の位置をマッピングしてもらい、シュウとトウには影の中に戻ってもらう。
 そして、凛音のいる場所に戻ろうと思うのだが、その前に凛音にチップアプリの『コネクト』でメッセージを送る。

 ――まさか怪の国から日国にいる凛音とやり取りができるようになるとはな。

 実は今メッセージを送ったこのコネクトは、凛音が開発をしたオリジナルのチップアプリなのだ。
 コネクトは全体公開はされておらず、プライベートモードでの公開になっているので、アクセス権限がない人がインストールできない仕様になっている。

 それにしても、凛音って本当の天才だな。
 まさか、ネット環境のない怪の国と日国の間でNINEみたいなやりとりができるアプリを作るとは思いもしなかった。
 俺がコネクトのことを聞いたのは、春休みに入る数日前のことだった。


「ちょっとインストールしてほしいアプリがあるんだけどいいかな?」

「別にいいけど、どんなアプリなんだ?」

「ネット環境がない場所でも、NINEと同じようにメッセージや通話のやりとりができるアプリだよ」

「ネット環境がなくても? そんなことが出来るものなのか?」

「うん。私の設計だと、出来るようになってるはずなんだよね」

「私が設計したって、まさか凛音が自分で開発したのか?」

「そうだよ。私のことをハッキングだけの女とでも思ってたのかな?」


 俺が衝撃を受けていると、凛音が「ふっふっふ」とドヤ顔をしながらニヤニヤしている。
 常日頃から凛音の凄さはテストとかそういうのでは測れないと思っていたけど、まさかここまで凄いとは思ってもみなかった。
 それにしても、ネット環境がなくてもメッセージとかのやり取りが出来るってどういう仕組みなんだろな?


「インストールしたぞ」

「ありがと。それじゃあ、黒衣ちゃん。しぃくんと一緒に怪の国に行ってもらってもいいかな?」

「それは大丈夫ですが、なぜ怪の国に行く必要があるのでしょうか?」

「それはね、このアプリを使えば日国にいる私が、怪の国にいる2人とやり取りが出来るはずだからなのですよ」

「マ、マジで? どうやったらそんなことが出来るんだよ?」

「それは無事に成功したら教えてあげるね。そういうことで、テストをしたいから2人で怪の国に行ってみて」


 凛音にお願いされたので、俺と黒衣は久しぶりに霊獣の森の中にある結界の中に来てみた。


(さっきインストールしたアプリはっと……あったあった。このコネクトってアプリだな。早速開いてメッセージ送ってみるか)


 正直日国と怪の国でやり取りができるっていうのは半信半疑ではあったが、これがもし成功したら俺たちにとっての情報革命になることは間違いがなかった。


『どうもどうも。今怪の国にいますよー』


 さて、本当に返信が来るのかな?
 そう思っていると、俺が送ったメッセージに『既読』が付いたのだ。
 うぉ! これ本当にやり取りできちゃうのか?


『やったー! 無事メッセージ来てたよ。じゃあ次は通話してみるね』


 凛音からのメッセージを読んで数秒後に、凛音から通話が来たので出てみると、『おぉ、これも成功だー』と喜びの声を上げる凛音の声が聞こえてきた。


『マジで凄いな! 今から戻るから仕組み教えてくれな!』

『うん、分かったよ。じゃあ気を付けて帰ってきてね。って言っても扉潜るだけだと思うけど』


 通話を切ると黒衣に霊扉を出してもらい、日国にある俺の家に戻った。
 すると俺たちの帰りを待ち構えていた凛音が、「いえーい」と言いながら両手を上げていたので、俺は凛音の掌をパシーンと叩いてハイタッチをした。


「いや、本当に凄いな! まさか本当に日国と怪の国でやり取りできるとは思わなかったわ」

「でしょ? 私も無事に成功して嬉しいよ」

「このアプリどんな仕組みになってるんだ?」

「えっとね、簡単に言うと糸電話と同じなんだ。アプレイザルってあるじゃない、あのレベルを測るアプリ。アプリでオーラや霊装を探知できるなら、それを応用してオーラや霊装の個体識別をすることができるんじゃないかなって。それで、繋がった人のオーラや霊装に経路を繋いで通信ができるのではってなった感じだよ」


 うん。
 何も分かりませんでした。
 いや、言ってることは分かるよ。
 それは分かるんだけど、何がどうやったら繋がった人のオーラと霊装の経路を繋ぐことができるの?
 このお方規格外すぎて怖いよ……。



 ―



 コネクトで連絡したら、凛音はまだ貞治さんの家で過去の文献を読み漁っているとのことだった。
 なので、レンタルしている民家ではなく、貞治さんの家に霊扉を繋いで日国に帰ることにする。


「何か分かったことあるか?」


 納屋に篭っている凛音に声を掛けると、「まだ黒天のことは分からないんだ」と口にするが、その目はキラキラとしていてとても楽しそうだった。


「その文献そんなに読んでて面白いのか?」

「うん。天斬の人たちは本当に凄かったんだなって分かったよ。元々滅怪とも関わりがあったみたいで、彼ら用の刀とかも作ってたんだってさ」

「そうなのか! 多分代々受け継がれてるだろうから、今も天斬で戦っている滅怪もいるかもな」

「ここからは私の予想なんだけどさ、天斬って昔は怪との繋がりが結構強かったのかもね。貞治さんに聞いてみたけど、全然知らないみたいだったから、どこかで縁は切れちゃったみたいなんだけどさ」

「確かにな。黒天以外にも、滅怪にも刀を打ってたんだから、当時の刀工も怪の存在を知っていてもおかしくはないかもな」

「とりあえず、まだまだたーっくさん文献があるからさ、頑張って黒天のことを探すから期待しててね」


 文献をパタンと閉じて、凛音は黒衣に向かって小さくガッツポーズをする。
 それを見た黒衣は凛音の方に駆け寄ると、「私も頑張りますね」と言いながらギュッとハグをした。


『とても仲良しな2人ね』


 俺の隣でそう言うのは、影の中から出てきた瀬那である。
 その表情は笑顔だが、どこか寂しそうな雰囲気を醸し出していた。


「あぁ。瀬那も神器になったら、凛音にもちゃんと見えるようになるからな。そうしたらお前もすぐに仲良くなれるさ」

『うん。そうだよね。そうなれると嬉しいな』

「大丈夫だよ。凛音はお前のこともちゃんと仲間だと思っているんだから」


 俺の方を見ていた瀬那は『ありがとう』と小さく呟くと、再びハグをする2人に視線を移すのだった。
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