葬送神器 ~クラスメイトから無能と呼ばれた俺が、母国を救う英雄になるまでの物語~

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第一章

016:有能な黒衣

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 霊獣との初対決を無事に勝利することができた俺は、そのままの勢いでその後三体の霊獣と戦っていずれも勝利を収めることができた。
 レベルアップをしたのは結局最初の一戦のみだったのだが、それでも俺のテンションが鰻登りだったのは仕方のないことだろう。

 そして、家に帰宅した俺たちは、今日の勝利を祝って豪勢にお寿司の出前を頼むことにした。


「「カンパーイ!」」


 完全に浮かれている俺に引っ張られるように、黒衣も終始ニコニコ笑顔でテンションを上げてくれる。


「それにしても、本当にレベルが上がったんだよな、俺。なんか未だに信じられないんだけど」

「確かにレベルが上がりましたよ。アプレイザルがオーラだけではなく、霊装も感知するかは定かではありませんでしたが、それも杞憂に終わって安心しました。実際に詩庵様の神魂の出力が上がって、霊装だけではなく体も強くなりましたしね」


 黒衣の言う通りだった。
 レベルが上がる前と後では、身体能力に物凄い差があったのだ。
 最初は自分の体じゃない気がして、ふわふわとした不思議な感覚になったけど、慣れると俺の体は本当に別物みたいになっていた。
 さらに、霊装も強くなったことで、以前よりも遥かに威力が上がっている。

 これ、ひょっとしたら、中ランクのハンターくらいなら倒せてしまうのでは……。
 俺は、今まで無能と言われてたにも関わらず、黒衣と出会って一ヶ月も経たないうちにこんな力を得ることができて、本当に幸運だったと思う。
 ただ、怪に一度殺されるという経験だけはトラウマものではあるのだが。


「それにしても、レベルが上がったときに何かが体の中に入った気がしたんだよな。そしてその後激しい吐き気に襲われたんだけど、黒衣は理由って分かったりする?」

「霊獣の魂を神魂に吸収した時の反動でございます。詩庵様に取っては初めての経験だったので、あのように体調に異変を来したのでしょう。ですが、これからレベルが上がることで、体も慣れてくるかと思われるので心配なさらなくても大丈夫ですよ」

「そっか、それなら安心だわ。だって、複数の敵と戦っている時に、いきなりレベルアップしてあの吐き気が襲ってきたら、普通に戦える気がしないからな……」


 その後俺たちは、お寿司をつまんでは会話をしてを繰り返して、とても楽しい夕食を過ごすことができた。
 あっという間にお寿司を平らげると、キッチンから暖かいお茶を持ってきてくれたので、まったりモードへ移行する。


「――明後日から学校が始まりますね」

「あぁ、そうだな。2学期の最後の週はサボっちゃったから、本当に久しぶりに学校に行く感じだわ」

「その学校での生活ですが、霊装制御で0%にして生活を続けてくださいませ。万が一の可能性ではございますが、神魂が発動して霊装を感じ取ることに長けている者がいるやも知れません。念の為注意しておいた方がよろしいでしょう」

「確かに。バレたら普通に面倒臭そうだしな」


 以前黒衣が、昔は怪と戦っている人間の組織があって、現在も残っている可能性があるって言ってたもんな。
 普通の人間には、神魂って発動しないみたいだし。
 それなのに俺が神魂が発動してるってもしバレたら、神魂が発動した理由とか説明させられるだろうし、ここは黒衣の言う通りにしておいた方が無難だろう。


「分かった。黒衣の言う通り霊装は0%に制御しておくな。ところで、神魂が発動した人って、霊装を見ることが出来るって言ってたけど、オーラも見えたりするのか?」

「いえ、オーラは見ることができません。オーラは魔素のようなものなので、神魂が生み出す霊装とは性質が全然別物なのです。今私たちが、魔素を視認できていないのと、同じ理屈でございます」

「そうなんだ。――いや、な。以前幼馴染から、俺にはハンターの才能がないって言われたことがあってさ、あいつは俺の中にあった神魂のことを見抜いてたのかな、って思ったんだよな」


 俺の言葉を聞いた黒衣は、拳を自分の顎に持っていって目を瞑り、少し俯きながら何かを考え込んでしまった。


「私もその時のことは覚えております。稀に人間の中でも魔素を敏感に感知する者がいるのですが、ひょっとしたら幼馴染の美湖さんも魔素に敏感な方なのかも知れません。オーラとは即ち魔素のことなので、以前までの詩庵様のオーラを感じ取り、そのような発言に繋がったのではないかと」


 魔素を感じる人もいるんだな。
 魔素は空気みたいなものって言ってたし、頭痛持ちの人が気圧の変化に敏感なのと一緒なのかな?
 だったらダンジョンとか行っちゃうと、かなりしんどいことになりそうだよな……。


「確かに美湖が魔素を感知できるなら納得かもな」

「もし美湖さんが本当に魔素を感知できるのであれば、という話なので確定ではございません。ですが、もしそれが事実ならば、神魂が発動する前の詩庵様のオーラは、お世辞にも人よりも多いとは言えなかったので、そう思われた可能性はあるかと思います」

「だけど、美湖がオーラを感知できるなら、俺のオーラが無くなったことに疑問を持つかも知れないな。だけど、怪我とかしたらオーラがなくなる人とかもいるみたいだし、そこまで疑問に思わないか……」

「パーティを脱退されてからの詩庵様は、いつもお一人で戦って常にいくつもの傷がございましたからね……」


 あの時はパーティを実質クビになったこと、レベルが上がらないことを認めたくなくて、必死になってダンジョンにこもって戦ってきたからな。
 黒衣が言うように、ソロで活動するレベルになっていなかった俺は、常に生傷をそこかしこに受けている状態だったのだ。


「じゃあ、感知出来てるなら元々俺のオーラが少なかったのも知ってたわけだし、ついにオーラが無くなったって思われるだけかもな。っていうか、今の美湖が俺にそんな関心があるとは思えないし何とも思わないだろ」

「詩庵様……」


 声のトーンで、俺が落ち込んでいるように思ったのだろう。
 黒衣は悲しそうな表情を浮かべて、不安げに俺の名前を口にする。
 俺は重たくなりそうだった空気を変えるために、黒衣の能力について聞いてみることにした。


「ところで黒衣ってさ、目に見えない場所にいる霊装を感じ取ることができるじゃん? 俺もいつか霊装の気配的なのを感じ取ることってできるのかね?」

「神魂が発動しているからといっても、全ての神魂持ちが霊装を察知できるとは限りません。戦うことに特化した者もいますし、私のように霊装の感知や調整などに秀でてる者もいるのです」

「そっか。そこら辺はちゃんと得手不得手っていうのがあるんだな。――なんとなくだけど、俺は戦いに特化してるのような気がするな……」

「私もそう思います」


 黒衣は着物の袖口で口を隠しながら、クスクスと笑みを零している。
 あぁ、ほっこりする。
 黒衣って本当に癒しだよなぁ。

 その姿をニヤニヤしてながら見ていた俺に気が付いた黒衣は、不思議そうな顔をして俺の顔を覗いている。
 あっ、気持ち悪がられるやつだ! と思った俺は、以前から考えていたことを、慌てながら黒衣に提案をした。


「じ、実はさ、怪の国でのレベル上げがそこそこ終わったら、日国に来る怪を倒したいって思ってるんだよな」

「もちろん賛成です。ですが、詩庵様のレベルが上がって、危なげなく怪を倒せると判断したタイミングでもよろしいでしょうか?」

「あぁ。俺の方はそれでいいよ。だけど、いつか日国で戦うとしても、怪が現れたことをいつ、どこに現れるのかが分からないって問題があるよな」

「いつかは分からないのですが、私には怪が日国に来る際に生じる、空間の歪みを感知することが出来ますので、その時に向かえばよろしいかと思います」

「黒衣ってそんなことまで分かるの? 本当に万能なんだな……」

「い、いえ。そんなことはございません。むしろ攻撃をする際に役立つ技がないので、戦闘になるとあまりお役に立つことが出来ないので、詩庵様に申し訳ないと常に思っているのです……」


 戦闘で役に立つ能力がないことに落ち込んでしまったのか、黒衣は俯いて肩をプルプルと震わせていた。


「気にするなよ。ぶっちゃけ今の黒衣の能力がなかった方が俺はゾッとするよ。それにさ、今は攻撃の能力がないかも知れないけど、俺と一緒に開発するっていうのは出来ないのかな? 俺なんて自分の力で技出すことできないし、俺も黒衣の役に立てるなら協力したいんだよね」


 思いもしなかったであろう、俺の言葉を聞いて黒衣は俺のことを仰天顔で見つめてきた。


「ほ、本当によろしいのでしょうか? 私が成長するために、詩庵様の大切なお時間を頂戴してしまっても……」

「良いに決まってるだろ? だって、黒衣がもっとたくさんの能力を覚えたら、それってつまり俺たちができることも増えるってことだぜ! それって、黒衣だけの成長じゃなくて、俺にも必要な成長ってことなんだよな」

「あ、ありがとうございます。詩庵様と一緒に技を習得できたら、これ以上の喜びはございません」

「よし、じゃあ決まりだ! 明日からは、俺の修行に追加して黒衣の必殺技開発もしような」

「はい! よろしくお願いいたします」


 黒衣はとても嬉しそうに、年相応に見える大きな笑顔を浮かべていた。



☆★☆★☆★☆★☆★

こちらで第一章が終わります。
楽しんで頂けるように頑張りたいと思います!
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