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第一章
007:大好きだよ
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この回の後半に少々エグイ表現があります。
苦手な方はご注意ください。
―
何もかもが上手く行かない。
学校生活も、あれだけ楽しみにしていた、ハンターとしての活動も。
今では考えられないことなのだが、中学卒業した時点では、俺と美湖が一緒にパーティを組んで、学校生活はもちろん、ハンターとしても活躍する未来を想像していた。
ところが蓋を開けてみたらこの通りだ。
美湖からは、ゴミを見るような目を向けられるくらいに嫌われて、仲間だと信じていた人たちには無能呼ばわり。
しかも、今まで関係なかったやつらにまで、嘲笑される始末だ。
まぁ、確かに元パーティメンバーの彼らが言うのは百歩譲ってまだ理解できる。
俺のせいで無駄な時間を取らせてしまったのは事実だから……。
だけど、何で今まで俺と接点もなかったやつらにまで無能呼ばわりされて、蔑まされなきゃならないんだ。
正直あいつらの顔面を、原型がなくなるくらいまで殴りたかった。
だけど、もう喧嘩はしないと美湖に誓ったので必死に我慢をしたのだ。
――つか、なんで俺の事を嫌ってる人との約束を必死になって守ってるんだろうな。
俺は真っ直ぐ家に帰る気になれずに、公園のベンチに座りながら今日一日を振り返っていた。
気付けば辺は暗くなっている。
「あぁ~あ。人生やり直してぇな」
俺はそう独りごちると、顔を上げて空を眺めてから、目を閉じて大きく息を吐く。
心が荒んでいるせいなのか、口調が昔に戻っている気もするが、誰に聞かれるわけでもないので別に気にしなくてもいいかと思い直す。
そんなことより、目を開けたら全て夢で、中学校の卒業式まで戻ったりしねぇかな。
――って、俺は本当の馬鹿かよ。そんなことあるわけないだろが。
俺は苦笑いしながら、ゆっくりと目を開ける。すると、今さっきまで見ていた公園の景色ではなく、森の中のような景色が目の前に広がっていた。
「――――は?」
さすがに思考が追いつかない。
俺は確かに公園のベンチにいたはずなのに、何故こんなところで座っているんだ?
周りを見渡すも鬱蒼とした木々が茂っているだけで、それ以外は何も無かった。
つか、ここの魔素量ヤバくないか?
ダンジョンよりも濃いってどういうことだよ。
余りにも濃い魔素に強い圧迫感を感じて、俺は激しい吐き気を催していた。
クソ、魔素酔いか……。
つか、ここはマジで一体どこなんだよ。
――あっ、チップアプリで現在地を調べればいいじゃん。
俺は急いでマップアプリを開くも、GPSが機能していないのか、現在地は先程までいた公園を指したままだった。
おいおい。マジかよ……。
最低の一日だと思ったら、まさかこんな怪奇現象まで起きるなんて、今日の俺の運勢どんだけヤバイんだ?
俺はベンチに寝転がると、自然と両手で頭を抱えてしまった。
このまま下手に動かずに体力を温存させて置おくべきか、それとも積極的に動いてワンチャンにかけるべきなのか。
とりあえず今は夜だから、下手に動くのは止めておいた方がいいよな。それにここにはベンチもあるし、生存確率を上げるためにも、動かないのが得策だろう。
あとは朝まで魔獣が出ないことを祈るばかりだな。
―
あれから何日が経過したんだろうか。
この森は何故か夜が明けずに、ずっと暗いままなのだ。ここに来てまだ大して時間が経過していないことも考えたが、何度も眠りについてるしそれはないだろう。
俺はベンチを拠点にして、周囲の探索を始めているのだが、近くに川があったのは助かった。飲んでも問題がないか不安ではあったが、背に腹は変えられないので意を決して飲んだのだが、今のところ身体に異変は感じられない。
だが、お腹は空くし、ぶっちゃけ心も限界に近い。
意識をしっかり持たないと、『なぜ俺が』『何が悪かったんだ』『俺の事を馬鹿にしやがって』『絶対に見返してやる』『俺を憐れむな』『死ね、全員死んでしまえ』などと考えている自分がいた。
そんな醜い俺の心を自覚してしまい、それで更に落ち込んでしまい、また恨み言をツラツラと言ってしまう無限ループに陥ってしまったのだ。
そして更に時は経過して、無気力になった俺はベンチの上で横たわることしか出来なくなっていた。
もう恨み言すら吐く気力がない。
このまま俺は、誰にも気付かれずに死んでいくのだろう。
すると、この森に来て初めてナニカの気配を背後で感じた。
しかし振り向くことはできない。
俺はナニカの気配を感じてからというもの、身体中の毛穴から汗が吹き出て、震えが止まらなくなったのだ。
ダメだ。
振り向いたらダメだ。
死ぬ。このままだと殺される。
ナニカに殺される。
俺は残りカスになった気力を振り絞って、全力で走り始めた。
足を止めるな。
止めたら終わるぞ。
死にたくない。
俺はまだ死にたくない。
脇目も振らず、我武者羅に前へ前へと走り続けた。そして走り続けた俺の前に、絶望と言う名の崖が立ちはかだる。
ダメだ。
これ以上逃げられない。
こうなったら――戦うしかない。
こんな体たらくでSランクハンターになりたいなんて、何言ってんだ!
俺は意を決して振り向くと、そこには人のようなナニカが立っていた。
目は黒目しかなく、鼻は潰れて口は耳まで裂けている。全体的に細長いのだが、その中でも腕が特に長かった。
確実に人間ではない。
だけど、魔獣とも違うナニカは、絶望の表情を浮かべた俺の顔を見ると、口を大きく開いた。
「アギャギュギャギャギュギャギャ」
笑い、なのだろうか。
ナニカは奇声を上げながら、ゆっくりと嬲るように近付いてくる。
――このまま易々と殺されてたまるかよ。
俺は投無の意地を振り絞って、ナニカを睨みつける。
「上等だよ。黙って殺されると思ったら間違いだかんな。最後までやってやんよ。来いや、こら」
俺は昔の頃のような口調に戻して、自分自身を鼓舞する。
――絶対に生き残ってやる。
俺は震える足を、ナニカに向かって必死に一歩を踏み出す。
すると不思議なことに、震えが止まったので、俺はそのままナニカに向かって走り出す。
ナニカの急所なんてどこだか分からないけど、取り敢えず鼻っ面を殴っとけば仰け反るだろうと思い、そこを目掛けて拳を振り抜く。
――入る。
そう思ったが、現実はそんなに甘くはなかった。
結果を言うと俺の拳はナニカまで届かなかったのだ。
その代わりに、俺の腹に違和感を感じる。
腹の内側がとてつもなく熱かったのだ。
俺は恐る恐る自分の腹を見ると、ナニカの杭のような腕が突き刺さっていた。
刺された……。
刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。
俺は叫び声を上げようとしたが、口から込み上げてくる真っ赤な液体がそれを許さなかった。
「ゴボガボゴボゲブ」
俺の叫び声は、まるで水の中で声を出したような、間抜けな音しか出すことが出来ない。
ナニカは、腕を引き抜くと、何度も何度も何度も何度も、繰り返し俺の腹を腕を突き刺してきた。
俺はもう痛みを感じていなかった。
目の前も真っ白になってきて、何も考えることができない。
遠くで、ナニカが笑っている声だけが薄らと聞こえてくる。
俺は死ぬのか……。
すると、目の前に美湖が立っていることに気付いた。
俺を見る美湖の目は中学の頃のように、とても優しかった。
最期に大好きな美湖の顔を見ることが出来て本当によかった。
『勇気がなくてずっと言えなかったけど――俺は、美湖のことが大好きだよ』
そして、俺の意識は完全に途絶えた。
苦手な方はご注意ください。
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何もかもが上手く行かない。
学校生活も、あれだけ楽しみにしていた、ハンターとしての活動も。
今では考えられないことなのだが、中学卒業した時点では、俺と美湖が一緒にパーティを組んで、学校生活はもちろん、ハンターとしても活躍する未来を想像していた。
ところが蓋を開けてみたらこの通りだ。
美湖からは、ゴミを見るような目を向けられるくらいに嫌われて、仲間だと信じていた人たちには無能呼ばわり。
しかも、今まで関係なかったやつらにまで、嘲笑される始末だ。
まぁ、確かに元パーティメンバーの彼らが言うのは百歩譲ってまだ理解できる。
俺のせいで無駄な時間を取らせてしまったのは事実だから……。
だけど、何で今まで俺と接点もなかったやつらにまで無能呼ばわりされて、蔑まされなきゃならないんだ。
正直あいつらの顔面を、原型がなくなるくらいまで殴りたかった。
だけど、もう喧嘩はしないと美湖に誓ったので必死に我慢をしたのだ。
――つか、なんで俺の事を嫌ってる人との約束を必死になって守ってるんだろうな。
俺は真っ直ぐ家に帰る気になれずに、公園のベンチに座りながら今日一日を振り返っていた。
気付けば辺は暗くなっている。
「あぁ~あ。人生やり直してぇな」
俺はそう独りごちると、顔を上げて空を眺めてから、目を閉じて大きく息を吐く。
心が荒んでいるせいなのか、口調が昔に戻っている気もするが、誰に聞かれるわけでもないので別に気にしなくてもいいかと思い直す。
そんなことより、目を開けたら全て夢で、中学校の卒業式まで戻ったりしねぇかな。
――って、俺は本当の馬鹿かよ。そんなことあるわけないだろが。
俺は苦笑いしながら、ゆっくりと目を開ける。すると、今さっきまで見ていた公園の景色ではなく、森の中のような景色が目の前に広がっていた。
「――――は?」
さすがに思考が追いつかない。
俺は確かに公園のベンチにいたはずなのに、何故こんなところで座っているんだ?
周りを見渡すも鬱蒼とした木々が茂っているだけで、それ以外は何も無かった。
つか、ここの魔素量ヤバくないか?
ダンジョンよりも濃いってどういうことだよ。
余りにも濃い魔素に強い圧迫感を感じて、俺は激しい吐き気を催していた。
クソ、魔素酔いか……。
つか、ここはマジで一体どこなんだよ。
――あっ、チップアプリで現在地を調べればいいじゃん。
俺は急いでマップアプリを開くも、GPSが機能していないのか、現在地は先程までいた公園を指したままだった。
おいおい。マジかよ……。
最低の一日だと思ったら、まさかこんな怪奇現象まで起きるなんて、今日の俺の運勢どんだけヤバイんだ?
俺はベンチに寝転がると、自然と両手で頭を抱えてしまった。
このまま下手に動かずに体力を温存させて置おくべきか、それとも積極的に動いてワンチャンにかけるべきなのか。
とりあえず今は夜だから、下手に動くのは止めておいた方がいいよな。それにここにはベンチもあるし、生存確率を上げるためにも、動かないのが得策だろう。
あとは朝まで魔獣が出ないことを祈るばかりだな。
―
あれから何日が経過したんだろうか。
この森は何故か夜が明けずに、ずっと暗いままなのだ。ここに来てまだ大して時間が経過していないことも考えたが、何度も眠りについてるしそれはないだろう。
俺はベンチを拠点にして、周囲の探索を始めているのだが、近くに川があったのは助かった。飲んでも問題がないか不安ではあったが、背に腹は変えられないので意を決して飲んだのだが、今のところ身体に異変は感じられない。
だが、お腹は空くし、ぶっちゃけ心も限界に近い。
意識をしっかり持たないと、『なぜ俺が』『何が悪かったんだ』『俺の事を馬鹿にしやがって』『絶対に見返してやる』『俺を憐れむな』『死ね、全員死んでしまえ』などと考えている自分がいた。
そんな醜い俺の心を自覚してしまい、それで更に落ち込んでしまい、また恨み言をツラツラと言ってしまう無限ループに陥ってしまったのだ。
そして更に時は経過して、無気力になった俺はベンチの上で横たわることしか出来なくなっていた。
もう恨み言すら吐く気力がない。
このまま俺は、誰にも気付かれずに死んでいくのだろう。
すると、この森に来て初めてナニカの気配を背後で感じた。
しかし振り向くことはできない。
俺はナニカの気配を感じてからというもの、身体中の毛穴から汗が吹き出て、震えが止まらなくなったのだ。
ダメだ。
振り向いたらダメだ。
死ぬ。このままだと殺される。
ナニカに殺される。
俺は残りカスになった気力を振り絞って、全力で走り始めた。
足を止めるな。
止めたら終わるぞ。
死にたくない。
俺はまだ死にたくない。
脇目も振らず、我武者羅に前へ前へと走り続けた。そして走り続けた俺の前に、絶望と言う名の崖が立ちはかだる。
ダメだ。
これ以上逃げられない。
こうなったら――戦うしかない。
こんな体たらくでSランクハンターになりたいなんて、何言ってんだ!
俺は意を決して振り向くと、そこには人のようなナニカが立っていた。
目は黒目しかなく、鼻は潰れて口は耳まで裂けている。全体的に細長いのだが、その中でも腕が特に長かった。
確実に人間ではない。
だけど、魔獣とも違うナニカは、絶望の表情を浮かべた俺の顔を見ると、口を大きく開いた。
「アギャギュギャギャギュギャギャ」
笑い、なのだろうか。
ナニカは奇声を上げながら、ゆっくりと嬲るように近付いてくる。
――このまま易々と殺されてたまるかよ。
俺は投無の意地を振り絞って、ナニカを睨みつける。
「上等だよ。黙って殺されると思ったら間違いだかんな。最後までやってやんよ。来いや、こら」
俺は昔の頃のような口調に戻して、自分自身を鼓舞する。
――絶対に生き残ってやる。
俺は震える足を、ナニカに向かって必死に一歩を踏み出す。
すると不思議なことに、震えが止まったので、俺はそのままナニカに向かって走り出す。
ナニカの急所なんてどこだか分からないけど、取り敢えず鼻っ面を殴っとけば仰け反るだろうと思い、そこを目掛けて拳を振り抜く。
――入る。
そう思ったが、現実はそんなに甘くはなかった。
結果を言うと俺の拳はナニカまで届かなかったのだ。
その代わりに、俺の腹に違和感を感じる。
腹の内側がとてつもなく熱かったのだ。
俺は恐る恐る自分の腹を見ると、ナニカの杭のような腕が突き刺さっていた。
刺された……。
刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。刺された。
俺は叫び声を上げようとしたが、口から込み上げてくる真っ赤な液体がそれを許さなかった。
「ゴボガボゴボゲブ」
俺の叫び声は、まるで水の中で声を出したような、間抜けな音しか出すことが出来ない。
ナニカは、腕を引き抜くと、何度も何度も何度も何度も、繰り返し俺の腹を腕を突き刺してきた。
俺はもう痛みを感じていなかった。
目の前も真っ白になってきて、何も考えることができない。
遠くで、ナニカが笑っている声だけが薄らと聞こえてくる。
俺は死ぬのか……。
すると、目の前に美湖が立っていることに気付いた。
俺を見る美湖の目は中学の頃のように、とても優しかった。
最期に大好きな美湖の顔を見ることが出来て本当によかった。
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