女子高校生は不良（バカ）が悶絶するまで肝臓を殴るのをやめない

授業初日

　登校二日目、初日は入学式だけだったから授業は初日。
　授業の内容は、まあ、普通だったとは思う。算数は殆ど聞いてなかったけど……
　世間の常識から見て大きく外れた授業は特になかった……と思う。

　あ～でも、一時限目が始まる前、担任の先生から15分程の科学講座みたいなのがありました。
　何か、効率的なダイエットの仕方を科学の視点で解説？　みたいな奴。
　担任の先生が、脂肪はどうしたら燃焼するか？　とか炭水化物ダイエットはよくないとか、なんかそういう事をペラペラ説明したんだけど……

　この説明が、軽くふりっ子しているっていうのかなあ……
　まあ、男子は喜ぶ人が多そうだけど、女子から見れば結構ムカつく人もいると思う。
　あ、担任の先生を紹介するね。
　あたしのクラス１年Ａ組の担任は『天木あまぎ 美玲みれい』先生という。一瞬、芸名かと思ったけど……

　白のブラウスにスカートといったフォーマルな格好で入ってきて、第一印象はとても品の良い先生だった。年齢は20代後半くらいかな。
　立ち振る舞いとか凄く落ち着いててさ、偏見かもしんないけど底辺高校の先生とはとても思えないよね。
　普通に美人だしさ、あたしは女子だけど、なんか少しドキドキしちゃったもん。憧れの人を見ている感覚というか。
　教室の内装も小奇麗というか品があるから、制服効果と相まって――

――ヤダっ！　あたし、お嬢様高校に迷いこんじゃったの？　これからは『ごきげんよう』って挨拶しなきゃいけないのかしら？

　とか妄想が頭に過ったのも束の間。
　黒板に自分の名前を書いてからの挨拶と出席を取り終えると、先生は豹変した。
　いきなり、ちゃちゃっと化粧を直したかと思えば、ブラウスのボタンを二つ三つ外して少しだけはだけて、谷間を見せたんだよね。

――えっ？　先生頭大丈夫？

　ざわつく教室を気にもとめず『は～いみんな～っ！　あまぎチャンネルゥ、始まるよ～っ！』とか言いだしてさ。
　大人びた落ち着いた口調は凄くぶりっ子した感じに変わり『科学に基づいた効率の良いダイエット３選』について語りだした。

　口調どころか声まで変わってて、元声優かなんかですか？　と問いたくなったよ。
　一瞬、一体何が起こった！？　ってマジで思って、頭の理解が追いつかなかったんだけど。
　皆があっけに取られ、反応に困っている事にも臆することなく、天木先生の科学講座は進む進む進んでいく……
　この講座には既視感があった、ネットで動画を配信している人達に似ているっていうかさ。
　15分程で終わり、最後に『みんな～、聞いてくれてありがとうっ♪　じゃあね～っ！』て言って可愛く手を振ると。

　外したボタンをかけ、ちゃちゃっと化粧を直し、最初の品の良い女性の姿に戻ったよ。
　優雅に一礼すると、再びあっけに取られるあたし達をおいて、何事もなかったかのように教室を出て行った。

――この人は、プロだっ！

　これが、あたしの先生に対する第二印象だった。教師としてプロフェッショナルかどうかは凄く不安を感じるけど。

　後で聞いた話によると、椿ちゃんや牡丹ちゃんのクラスでもやっぱり、担任の先生による『科学に基づいた効率の良いダイエット３選』があったらしい。
　演出は先生によって違うみたいだけどね。ちなみに椿ちゃんがＤ組で牡丹ちゃんがＥ組。
　でもさ、やっぱりこの学校の異常さというか狂気を感じたよね。

　何でも、この朝の動画配信をイメージした講座は毎日やるらしい、内容はその日によって変わるけど、一貫しているのが『美しさ』に関わる事。
　美容、健康、ダイエット、ファッション、喋り方、振る舞い、etc……
　講座をする時は、見せ方というか動画配信を意識して行われる。

　少しはだけてみせたのは、胸を強調したサムネは武器になるからだとか。まあ、否定はしないけど。
　ただし、この学校、こんな講座を毎日やる癖には校則で生徒のＳＮＳは禁止されている。
　だから、生徒が同じような内容をYouTubeで上げようものなら、一回目は厳重注意、二回目は一週間の停学、３回目で退学となる。

　禁止といっても、自分をプロモーションするような内容でなければＯＫだけどね。
　学校側から言わせれば、未熟なお前らが、ＳＮＳで自分を売り込むには３年早い、卒業してからにしろって事らしい。
　在学中から下手にフォロワー数が増えると、天狗になって学校の授業が頭に入らなくなり、結果的にあまり伸びないんだとか。

　だから、在学３年間は基礎をみっちりやれみたいな。
　いやいやいや……５教科とか大学受験に向けてとかそういうところに力入れるのが普通じゃないの？　底辺高校に期待しちゃいけないのかもしれないけど。
　んで、帰る前にやるホームルームで、天木先生が今朝の講座について解説したんだけど。

　まあ、なんというか最初にスイッチの切り替えを実践して見せるのが、この学校の習わしなんだとか。
　天木先生には、いくつものスイッチというか心のチャンネルがあって、教師としての自分、動画配信者としての自分、プライベートの自分などがあるらしい。
　多重人格者じゃなきゃいいけど。

　その時に『胸は武器』について解説したんだけど、先生というか学校としては、色気はＯＫだけど、下品なのは駄目らしい。
　『はだけてもいいけれど、ブラを見せてはダメ』ボタン二つ三つ外しても、露骨にやっちゃ駄目らしく、さりげなくが重要なんだとか。

　なんか拘り？　理念？　みたいなのがあるみたい。
　いや、知らんけど……
　だけどさ、あたし達、高校一年生だよ？　まだこれからって子もいるし、そんなに大きくならない子もいるわけじゃん。

　あたしだって大きくなるかわからないし、やりたいスポーツの都合上、期待はできないよね、体脂肪率、低くなるわけだから。
　だから、俯いてしまう子もいるわけだけど。

　先生は優しく笑って『ふふっ……私だってそこまで大きいワケじゃないの』と、着こなしで大きく見せているだけで、重要なのは『演出』なんだとか……
　『ふふっ……語ると長くなってしまうから、朝の講座で少しずつ解説していくわね。だから楽しみにしていなさい……』と言って先生は去っていった。

　それを聞いて普通にわくわくしている女子もいたね。あたしも別に興味ないわけじゃないけど……
　微笑を浮かべて、美しさについて語る先生は、何処か妖艶で色香を感じたよね大人の女性っていうかさ……
　それでいて『朝の講座』の時は見た目じゃなくて精神年齢が10歳ばかし、下がったようにも見えるし……
　ていうか、先生の歳はいくつなんだろう？　何年たとうとも、28歳って答えるタイプじゃなきゃいいけど……

――くそうっ！　なんか、この学校に対する不安が拭えないっ！