我儘なお姫様ともっと我儘な騎士

未定

文字の大きさ
上 下
20 / 29

プレゼント 後編

しおりを挟む
 帝国歴43年4月。
 アグネスは十歳の誕生日を迎えた。
 毎年、誕生日には盛大な式典が開かれ、ライナルトを始め、重臣達から高価なプレゼントが送られるのだ。
 ディートハルトはこの派手なパーティーがあまり好きではなかった。
 まさに護衛が必要なので、欠席はありえない。

(ウエディングケーキかよ……)

 この式典の為だけに、帝国にいる腕を持ったパティシエ達が集められ、特大のケーキを作らせている。
 ライナルトは手に剣を持ち、アグネスがそこに手を添える。
 二人は一同が注目する中、ケーキに入刀した。盛大な拍手が巻き起こる。
 一体幾ら金をかけたのだろうか。十歳の子供にそこまでする必要があるのかとディートハルトは思った。

(しかし……何処までも自分本位だな冠老さんは……一体誰のパーティーなんだか……)

 完全に空気扱いされている皇太子の事を思うと、何ともいえない気持ちになるディートハルト。
 ライナルトは皇太子も立ち場上、出席だけはさせるものの、場を仕切らせたり、何かを喋らせたりする事はない。
 貴族や重臣達からアグネスに届いた様々なプレゼントの箱が開けられていく。
 どれも高価な美術品であり、貴族達は少しでもライナルトに取り入ろうととにかく金額を継ぎ込んでいた。
 ここで、安い子供向けの玩具などをプレゼントしようものなら、すぐさまライナルトに改易とされるだろう。

(全く、姫のプレゼントというよりもライナルトさんへの貢物だな……
 ふむっ、姫へのプレゼントか……何がいいかな……)

 ディートハルトはまだプレゼントは用意していなかった。
 というよりも、アグネスにプレゼントを送った事は一度もない。
 10歳だし、何かプレゼントを送るのも悪くないとは思ったが、一体何をプレゼントすれば喜ぶのだろうか。

(う~む……いっその事、びっくり箱でもプレゼントして、盛大に驚かして俺が楽しむのもアリだな……)

 無論、そんな事をこの式典の場でやろうものなら即死刑だろう。
 式典が終わって寝室に戻ったら適当に工作でもするかなどと思案していると――

「では、最後は余のプレゼントじゃ!」

 ライナルトがアグネスに一枚の封筒を渡す。
 会場がざわめく、今までライナルトは誕生日の時に、それはもう派手で高価な品を渡していたため、一枚の封筒というのは誰もが意外に思ったのだ。

「爺上? これは?」

(まさか、肩たたき券か!? それも叩いてやるのではなく自分を叩かせる。)

 ディートハルトは声に出してちゃちゃを入れたかったが、流石にここは空気を読んだ。

「開けてみるがよい」

 アグネスが封を開けると、一枚の書状が入っていた。
 アグネスは書状に目を通す。
 書状の内容は、門限や4人以上の護衛、必ずディートハルトを連れるなどの制約はあるものの、自分の意志による城外への外出を認めるというものであった。

「じ…爺上……」

 アグネスは喜びで震えている。
 今まで、自分の意志で城を出た事は、ディートハルトが連れだした一回きりだったからである。

「ほっほっほっ……もう10歳じゃからな!
 だが、必ず護衛は連れて行くのじゃぞ~?」

「うむっ! 約束するのじゃ~!」

 ライナルトにとって、アグネスは後継者である以上、危険にはさらせない。
 しかし、いつまでも城から出さずに世間知らずのまま成長されても困る。
 アグネスには皇帝して世界に覇を唱えて欲しいと願っている。
 自分が10歳の頃は家を飛び出し、乗馬と狩りを覚え、クリセ州の各地を巡り、旅などをして逞しく生きていた。
 ここのところ、体調は悪くなる一方であり、自分が連れだすという事はしたくない。
 無論、誘拐されたり襲われるリスクもあるが、以前、決闘の場で護衛のディートハルトとは直に剣を交えた事がある。
 自分の剣をあれだけ受け止められるのであれば、アグネス一人を守るくらいの事はやってのけるだろう。
 ヴェルナーが気にかけているだけあって、裏切るという事も考えにくい。
 ライナルトは、いつ裏切ってもおかしくない様な野心家共をいかにカリスマで抑えておけるかどうかが主君としての器という考えを持っているため、自分と関係の深い重臣に預ける気にはなれなかった。

◇――

 式典が終わり、アグネス及びプリンセスガード達は寝室へ戻ってきていた。

「むむ? ディートハルトは?」

 部屋へ戻る途中までは一緒だったのに、ふと気がつくといなくなっている。

「何か、姫様のプレゼントを用意するとかいって、途中で別行動となりました」

 イザークがアグネスの問いに答えた。

「プレゼント!? ディートハルトがか?」

 アグネスが目を輝かせて驚く。
 あの人の事ですから、期待しない方がいいですよと言いたくなるカミルであったが、そんな事を言えば、アグネスは怒りだすだろうから黙っている。
 カミルに限らずこの場にいる全員が嫌な予感しかしなかった。
 しばらくすると、リボンが巻かれた大きな箱を持ってディートハルトが寝室へ入ってくる。

「ひ~め!
 このディートハルト! 今日という日の為にプレゼントを用意してまいりましたぞ!」

(用意してたなら、何で別行動を取ったんですか? どうせ、即席で調達してきたんでしょう?)

 心の中で突っ込みを入れるカミルであったが、アグネスが目を輝かせているので、声に出しての突っ込みは死を招くと思い控えた。

「ほ~う! それは楽しみじゃのう!」

 アグネスはプレゼントが早く寄こせと言わんばかりに両手を広げる。

「どうぞ!」

 プレゼントをテーブルの上に置き、それを開けようとアグネスが駆けより、リボンに手をかける。

「姫様!」

 唐突にイザークがアグネスに声をかけた。まるで行動を静止させるかの様である。

「なんじゃイザーク!」

 水を差されたようで少し機嫌が悪くなる。

「い…いえ……その……
 よかったらそのプレゼントは私が開けましょうか?」

 十中八九、碌なものではないと確信し、最悪の事態を防ぐため、身を呈して爆弾から主君を守ろうとするが――

「何でお主が開けるのじゃ~っ!! これは余の物じゃ~!」

「おいイザーク! 空気読もうか?」

 プレゼントを横取りされると思ったアグネスは怒鳴り声を上げ、ディートハルトはジロッと睨み引き下がるように促した。

「……す…すみません……」
(胃が痛くなってきた。)

 イザークはすごすごと下がり。アグネスは気を取り直してプレゼントの箱をを開ける。
 それはいわゆるビックリ箱であり、ヒマワリの髪飾りをつけたうさぎのぬいぐるみにバネを仕込み飛び出すように作られていた。
 びょーんと勢いよく飛び出してきた兎に思わず身を仰け反らせ、尻もちをつくアグネス。

「サプラ~~イズ!! ハハハハハ!」

 ディートハルトは笑っていたが、他の面々は静まり返っていた。

(リーダーが空気読んでくださいよ~!)

 イザークは声にして叫びたかった。
 アグネスは自分の身に何が起きたのかを理解すると、みるみるうちに目は吊り上がっていった。

「きぃさぁまぁ~!! なんじゃこれは~!!」

「ハハハ! 姫! びっくり箱という奴ですよ~!」

「余をおちょくりおって~!」

 アグネスは起き上がるとディートハルトに掴みかかる。

「ハハハ!」

「笑うでないわ~!!」

 アグネスは怒っているものの何処か嬉しそうだった。
 翌日から、アグネスは城で働くメイドや衛兵を見つけては、プレゼントの箱を開けさせては驚かせて遊んだという。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

処理中です...