我儘なお姫様ともっと我儘な騎士

未定

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プレゼント 前編

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 帝国歴43年3月。

「ディートハルト! お主に聞きたい事があるのじゃが……」

「何ですか?」

「余の母上とはどのような方じゃったのじゃ?」

 アグネスの母親であるヴィクトリアは、高齢出産による身体への負担が大きかったのか、アグネスを産むと同時に失血死している。
 アグネスは母親の事は肖像画で顔を知っているくらいであった。

「皇太子妃様ですか?
 そうですね、正直に言ってしまうとメガネはともかく、私とは面識があまりありません」
(俺が知ってるのは、暗い話ばかりだからな……
 最愛の人が亡くなって、泣き崩れる皇太子様の横で『後継ぎじゃ! 後継ぎじゃ!』って冠老が狂喜乱舞していたって噂もあるし……)

「ひとまず、知っている事を話すのじゃ」

「皇帝陛下に聞けばいいではないですか」

「爺上はあまり母上の事を話したがらんのじゃ……
 父上とは殆ど会えんしの……」

 アグネスは何処か寂しそうに答える。

「……わかりました。
 皇太子妃様は、元は帝国を支えた4騎士団の一つ、アーネット騎士団の騎士団長でした。
 この事は?」

「それは知っておる」

「では、騎士団長に就任した当時モテモテだった事は?」

「それは知らん! 詳しく話すのじゃ」

「えっと、エンケルス騎士団長のメガネとか、出奔したクーニッツ騎士団長のルードルフとか、後、皇太子様もそうなるのかな……
 皆の憧れだったらしいですよ。
 ちなみに皇太子様とは恋愛結婚だそうです」

「ほほう! 母上はそんなにも人気じゃったのか……」

「まあ、どこぞの気性の激しい我儘娘と違って、礼儀正しく誰に対しても笑顔だったとか……」

「どこぞの我儘娘じゃと? 誰の事じゃそれは?」

「……いえ。
 わからないなら別に……」

「しかし、母上がそこまで綺麗じゃったとなると余の将来が楽しみじゃのう。
 美人すぎる皇帝として世に君臨するわけじゃな余は……
 国民も大喜びじゃ! ふはははははっ!」

「ハハハ! これは世迷言を申されますな!
 姫が帝位を継ぐのはかなり先の話かと、その頃には、立派というか典型的なオバサンと化していることでしょう。
 美人過ぎて国民が喜ぶとかその様な事を気にされる必要は全くないかと」

「何でお主はいつもいつも余の神経を逆なでするのじゃあ~!」

「私は、姫の為を思っていわば諫言を!」

「嘘つくでないわ~っ! 同じ事を何弁も何弁も言わせおってぇ~!
 爺上が言っておったわ!
 同じ事を2度言わせる奴は厳罰に処し、3度同じ事を言わせる奴は死刑にしろと!
 余は寛大じゃから、3度までは許そう!
 しかし、お主は余の事を『ひまわり』だの、『うさぎ』だの、あげくに将来は『てんけいてきなおばさん』じゃと~!?
 次、余に対して無礼な発言をしたら、その命はないと思えぇ~~!!」

「何処が寛大なんですかっ!
 皇太子様だったら、無礼な発言くらいじゃ何度言っても、死刑にはなりませんよ!」

「じゃから父上は皇帝にはなれんのじゃ~!!」

「はい!?」

 一瞬にしてディートハルトの表情が険しくなる。
 急な表情の変化により、アグネスの勢いが止まった。

「じ…爺上が言っておったのじゃ!
 父上には才能がないから、次皇帝になるのは余じゃと……」

 気圧され、バツ悪そうに説明するアグネス。

「そうですか……」
(あのじじー、まさか皇太子様を反面教師にさせているのか?)

◇――

 宮殿のバルコニー。

「ふーん、アグネスがそんな事をね……」

 城下を眺めながら、ヴェルナーは答えた。

「……はい。
 皇帝陛下は、皇太子様を反面教師にさせているようで……」

「まっ! 父らしいというか、大体想像はつくけどね」

「……しかし。
 皇帝陛下は帝位を、皇太子様には譲らず姫に譲るおつもりでは?」

「それは、君が気にする事じゃないよ。
 君は今まで通り、アグネスと仲良くしてくれればそれでいい」

「…………」

「それにさ、父は長生きしたけど。
 流石にもう限界だろうね。この前、一度倒れたし……」

「倒れられた!?」

「まわりには悟られない様に気丈に振る舞っているけどね……
 だが、いくら娘に帝位を譲ろうとしたって、まだ成人もしていない娘に譲る事はできないというか私がさせないし……
 アグネスが成人するまで生き続けるのは流石に無理だろう。
 国中の光術師を掻き集めて、治療魔法をかけ続けさせたところで後5年が限界かな」

 現在アグネスは10歳、光魔法で最大限延命させたところでとても20歳には届かない。
 これがヴェルナーの見解だった。

「まあ、こんな暗い話はおいておいて、親バカと思われるのもなんだけど……
 アグネスは中々綺麗に育つと思うんだよね」

「……はあ?」

 ヴィクトリアの肖像画を思い起し、あながち間違いではないとディートハルトは思う。

「ディートハルトは付き合っている人はいるのかな?」

 ヴェルナーは何処か悪戯をする子供の様な笑みを浮かべている。

「……いえ、おりませんが。
 その質問の意図はまさか……」

「冗談だよ!
 まあ、くっつけとは言わないけど、何があってもアグネスの味方であって欲しいとは思っているけどね」

「はっ! それは勿論。
 何があっても味方でおります」

「うむっ!
 では、この話は聞かなかった事にしておくよ。
 君に何かあるといけないし、それに……」

「それに?」

「アグネスが皇帝になる事はないからね」

「……はい?
 確かに皇帝陛下がゲフンゲフン……すれば、帝位は皇太子様が受け継ぐ事になります。
 しかし、結局のところ、皇太子様がその……お歳を召されれば……」

 アグネスは、一人っ子である以上、皇帝となったヴェルナーが死ねば皇帝となるのは自明の理といえた。

「君だから言うけど……
 娘の幸せを考える事が父親のする事だと思っている。
 これ以上は流石に言わないけどね」

(……まさか)

「まあ、君は気にせずアグネスの騎士でも家臣でも友達でも恋人でも保護者でも父親代わりでも、つまるところ何でもいいから、ただ『味方』でいてやってくれ」
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