平凡なる側室は陛下の愛は求めていない

かぐや

文字の大きさ
上 下
1 / 3

側室です

しおりを挟む
側室。

それは正室にも第二夫人にもなれず、王族に名を刻むことが許されていない妃のことである。

ただし、御子を産めば名に刻まれることから、後宮に入内してからのし上がろう、としている令嬢も少なくはない。

用心せよ。

※王宮知識大辞典より。


(お父様から話が来た時、期待なんてしていなかったけれど)

実際、こうして無下にされるとなんというか…何とも言えない気分である。 というか、仮にも国と国との結婚だのにどうしてそのようなことが言えるのか……。

私は笑顔を保ちながらも、内心理解に苦しんでいた。

「俺はジゼルと夫婦という関係にはなったが、恋愛をする気もあなたとの間に子を作る気もない。 だから、愛を求めたり子を成そうと思ったり……そういう愚行はしないでほしい」

「愚行…」

権利や公務ではなく、愚行になるのか。
初めて知った。

「後宮は好きに使ってくれてかまわない」

皇帝の話はまだ続く。

「使用人の管理権、後宮統括権はジゼルに渡すよう手配しているから心配するな。 仮に別の妃が嫁いできても、あなたの後宮であることには変わりはない。 それに、毎月お小遣いをあげるから好きに使え。 愛人も子を産まないのなら作ってもかまわないし、何なら囲ってもいい」

(そんな権利いらないよ)

どや顔で言われたけど、そろそろ私の表情筋が死にそうだ。 勘弁してほしい。

てゆーか、新妻の前で浪漫の欠片もない愛人やら別の妃やらの話。 なんたる教育を受けてきたのだろうかこの皇帝は。

あなおそろし。

確かに恐怖を覚えるぐらい、感嘆するぐらい陛下の容姿は整っている。 すっとした鼻筋、きりっとした眉、長いまつげに縁どられた翡翠の瞳に、少し焼けた肌。

どのパーツも然るべき場所に整頓されて置かれているため、中性的な美貌も男らしく格好よく見える。

だから蜜滴る花に集る蜂の如くやってくる令嬢たちに、内心イラつき怯えがあるのも理解できよう。

(だけど!)

それとこれとは違うのではないか。

遠路遥々やってきた側室に投げかける言葉が「お疲れ」でも「大変だっただろう」でもなく、「愛を求めるな」だとは。

おまけに「愛人を囲ってもいい」だとは!

「……歴史に残る迷言」

「何か言ったか?」

「いや、別に何も。 陛下の仰る通りにいたしますのでお気になさらず。 それと、今夜の初夜も私のことなんて気にせず、ご自分のお部屋でお過ごしください」

「え、しかしそれは…」

夫に閨も共にされない妻がどれだけ惨めか、流石に分かるらしい。

しかし、私は妃としての矜持なんて要らないのである。 むしろ、疲れたから今はもう寝たい。

「今日は私も疲れているのです」

すぱっと言うと、彼も納得した。

「…そうか。 分かった。 もし、不明瞭な点があれば侍女総括長に聞いてくれ。 それじゃあお休み」

「お休みなさいませ」


私はその日、ぐっすりくうくう寝ることができた。 大変満足な夜の過ごし方であったと自負している。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

夫の母親に会いたくない私と子供。夫は母親を大切にして何が悪いと反論する。

window
恋愛
エマ夫人はため息をつき目を閉じて思い詰めた表情をしていた。誰もが羨む魅力的な男性の幼馴染アイザックと付き合い恋愛結婚したがとんでもない落とし穴が待っていたのです。 原因となっているのは夫のアイザックとその母親のマリアンヌ。何かと理由をつけて母親に会いに行きたがる夫にほとほと困り果てている。 夫の母親が人間的に思いやりがあり優しい性格なら問題ないのだが正反対で無神経で非常識な性格で聞くに堪えない暴言を平気で浴びせてくるのです。 それはエマだけでなく子供達も標的でした。ただマリアンヌは自分の息子アイザックとエマの長男レオだけは何をしてもいいほどの異常な溺愛ぶりで可愛がって、逆にエマ夫人と長女ミアと次女ルナには雑な対応をとって限りなく冷酷な視線を向けてくる。

【完結】潔く私を忘れてください旦那様

なか
恋愛
「子を産めないなんて思っていなかった        君を選んだ事が間違いだ」 子を産めない お医者様に診断され、嘆き泣いていた私に彼がかけた最初の言葉を今でも忘れない 私を「愛している」と言った口で 別れを告げた 私を抱きしめた両手で 突き放した彼を忘れるはずがない…… 1年の月日が経ち ローズベル子爵家の屋敷で過ごしていた私の元へとやって来た来客 私と離縁したベンジャミン公爵が訪れ、開口一番に言ったのは 謝罪の言葉でも、後悔の言葉でもなかった。 「君ともう一度、復縁をしたいと思っている…引き受けてくれるよね?」 そんな事を言われて……私は思う 貴方に返す返事はただ一つだと。

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた

宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……

愛してほしかった

こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。  心はすり減り、期待を持つことを止めた。  ──なのに、今更どういうおつもりですか? ※設定ふんわり ※何でも大丈夫な方向け ※合わない方は即ブラウザバックしてください ※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。 ※本編はマリエルの感情がメインだったこともあってマリエル一人称をベースにジュリウス視点を入れていましたが、番外部分は基本三人称でお送りしています。

処理中です...