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側室です

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側室。

それは正室にも第二夫人にもなれず、王族に名を刻むことが許されていない妃のことである。

ただし、御子を産めば名に刻まれることから、後宮に入内してからのし上がろう、としている令嬢も少なくはない。

用心せよ。

※王宮知識大辞典より。


(お父様から話が来た時、期待なんてしていなかったけれど)

実際、こうして無下にされるとなんというか…何とも言えない気分である。 というか、仮にも国と国との結婚だのにどうしてそのようなことが言えるのか……。

私は笑顔を保ちながらも、内心理解に苦しんでいた。

「俺はジゼルと夫婦という関係にはなったが、恋愛をする気もあなたとの間に子を作る気もない。 だから、愛を求めたり子を成そうと思ったり……そういう愚行はしないでほしい」

「愚行…」

権利や公務ではなく、愚行になるのか。
初めて知った。

「後宮は好きに使ってくれてかまわない」

皇帝の話はまだ続く。

「使用人の管理権、後宮統括権はジゼルに渡すよう手配しているから心配するな。 仮に別の妃が嫁いできても、あなたの後宮であることには変わりはない。 それに、毎月お小遣いをあげるから好きに使え。 愛人も子を産まないのなら作ってもかまわないし、何なら囲ってもいい」

(そんな権利いらないよ)

どや顔で言われたけど、そろそろ私の表情筋が死にそうだ。 勘弁してほしい。

てゆーか、新妻の前で浪漫の欠片もない愛人やら別の妃やらの話。 なんたる教育を受けてきたのだろうかこの皇帝は。

あなおそろし。

確かに恐怖を覚えるぐらい、感嘆するぐらい陛下の容姿は整っている。 すっとした鼻筋、きりっとした眉、長いまつげに縁どられた翡翠の瞳に、少し焼けた肌。

どのパーツも然るべき場所に整頓されて置かれているため、中性的な美貌も男らしく格好よく見える。

だから蜜滴る花に集る蜂の如くやってくる令嬢たちに、内心イラつき怯えがあるのも理解できよう。

(だけど!)

それとこれとは違うのではないか。

遠路遥々やってきた側室に投げかける言葉が「お疲れ」でも「大変だっただろう」でもなく、「愛を求めるな」だとは。

おまけに「愛人を囲ってもいい」だとは!

「……歴史に残る迷言」

「何か言ったか?」

「いや、別に何も。 陛下の仰る通りにいたしますのでお気になさらず。 それと、今夜の初夜も私のことなんて気にせず、ご自分のお部屋でお過ごしください」

「え、しかしそれは…」

夫に閨も共にされない妻がどれだけ惨めか、流石に分かるらしい。

しかし、私は妃としての矜持なんて要らないのである。 むしろ、疲れたから今はもう寝たい。

「今日は私も疲れているのです」

すぱっと言うと、彼も納得した。

「…そうか。 分かった。 もし、不明瞭な点があれば侍女総括長に聞いてくれ。 それじゃあお休み」

「お休みなさいませ」


私はその日、ぐっすりくうくう寝ることができた。 大変満足な夜の過ごし方であったと自負している。
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