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第11話

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 その日は生憎の雨で、ピクニックに出掛けようとしていたブラン達は気を落とし、家の中でズーンとしていた。

「また今度ピクニックしようね」
「お、俺は別に……」

 ユリアスはジャックの頭を撫でた。
 今回のピクニックを提案してくれたのはジャックで、食べ物の準備から場所の指示までジャックがローラさんと二人で行ってくれたもので、ソニアとユニアも大好きなお人形さん遊びはする気になれないようだった。

「あら、皆まだしょんぼりしてるの?あーあ、どこかに私の作ったカボチャのパイ食べてくれる人いないかな~」

 ローラさんの手には大きなカボチャで作られたカボチャのパイがいい匂いを充満させると、いつの間にか「俺食う!」「あ、ずるいティトも!」「ぶら、も、たべう!!」という男の子の声に連れて、「あ!私たちの分もとっといてよね」というソニアとユニアの声が響く。
 小さい子供の扱い方をよく分かっているローラは、どんな場面でも臨機応変に対応し、その場に合わせて子供達を楽しませる。

(すごいなぁ……)

 ユリアスは尊敬するばかりだった。
 すると、カボチャのパイを頬張る子供達を見ながらローラがユリアスを呼んだ。椅子に座ると、カボチャのパイを頬張りながらもどこか神妙な顔つきのシュワルツとローラが居た。

「どうかしたんですか?」
「実はね、ブランについてなんだけどひとつ気になる事があって」
「ブランですか?」
「ええ、ディートフリー公爵家が四、五歳の青髪に黒い瞳の幼い少年を探しているというの」

——————ディートフリー公爵家。
 ユリアスはその単語を耳にして、思わずドキッとした。

「しかも、獣人の子だというの」
「昔からディートフリー公爵家は獣人家紋と言われていたんだが、もしかしたらブランがその可能性もない訳ではなくてな」

(ブランが、ディートフリー公爵家の息子?)

「で、でも慰労祭の日の公爵様は確か……」
「家紋の中でも獣人の血が強いと、自分で耳や尻尾を隠す事ができるんだ。ディートフリー公爵家はそのことをあまり公にしていないから知らない人がいるのも無理はない。ただ、公爵様はユキヒョウの獣人だ。この事は限られた人しかしらないから公にはなっていないがな」
「それって、」

 ユリアスはその先の言葉を聞きたくなかった。

「ああ、ブランは間違いなくディートフリー公爵家の子だ」

 受け入れ難かった。

 出会ってまだ一ヶ月と少ししか経っていないが、ユリアスの心は確かにブランにあって、親愛とも呼べる愛を与えていた。
 いくら一国の貴族だとはいえ、伯爵家の身分では格上の身分、それも大国であるルーヴァニア帝国の筆頭公爵家。彼らがブランを返して欲しいと願ったのならば、逆らうことなどできない。加えて、今のユリアスはユリアス・ディオニスではなく、ただのユリアスだ。
 そして、一目惚れとも憧れとも言えるディートフリー公爵家を突然遠くに感じた。

「ゆーり?たいたい?」

 下向きの気持ちが積もり自責の念に駆られているユリアスを励ましたのは、ブランだった。
 椅子に座るユリアスの足に手を置いて、撫で撫でするブランの目には確かに膜が張られ、そこには涙が溜まっている。

「ゆ、り、な、ないで」
「ふふ、なんでブランが泣くの?」
「ゆ、り、たいたい、ぶら、ん、やぁ」

 遠回しの愛情表現ではなく直接的な愛情表現は、確かにユリアスの心に刺さる何かがあった。
 
—————————


「ゆーり、もう、ないない?」
「ん、もう大丈夫だよ」

 夜になり、月明かりがまたベッドを照らす頃二人はベッドに向かい合うようにして寝そべっていた。
 
「た、ぁる?」

 ブランは舌足らずな言葉遣いで、ユリアスの前に自分の尻尾を持ってくるとユリアスに押し付けた。
 まるで、触ってもいいよ、と言っているかのように感じ取り、ユリアスが手を伸ばすとふわふわで暖かい温もりに包まれた。

「ぶら、ゆり、すち!だいすち!」

 そう言うと、少し照れたような顔で、えへへと笑うからユリアスはどうしようもなく嬉しくなる。

「俺もブランのこと大好きだよ」

 ないないね、と言ってユリアスを抱き締めるかのようにして頭を両手で包み込むブランだが、ブランのお腹がちょうどユリアスの顔の位置にあり息がしづらい。
 けれど、ユリアスにとってその息のしづらさが心地よかった。


 そうして一夜明ければ、いつの間にかブランはユリアスのお腹の所に縮こまるようにして寝ていた。
 「ま、かぁろ、」と夢の中でも甘いものを食べているのか心底幸せそうな顔をするブラン。

「可愛いやつめ」

 すると、ユリアスのお腹がぐぅぅと鳴り響く。
 地響きまではいかないが、一番近くで聞いていたブランはその音にびっくりしたのか、毛を逆立てながら目を覚ます。けど、目の前にいるのがユリアスだということに気がつくと、すぐにおはようのチューをユリアスの頬にする。

「ゆーり、あーよ!」
「うん、おはようブラン」

 朝から元気よくきゃっきゃと笑うブランだが、その反面ユリアスは寂しい気持ちを胸に抱えていた。
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