12 / 14
第11話
しおりを挟む
その日は生憎の雨で、ピクニックに出掛けようとしていたブラン達は気を落とし、家の中でズーンとしていた。
「また今度ピクニックしようね」
「お、俺は別に……」
ユリアスはジャックの頭を撫でた。
今回のピクニックを提案してくれたのはジャックで、食べ物の準備から場所の指示までジャックがローラさんと二人で行ってくれたもので、ソニアとユニアも大好きなお人形さん遊びはする気になれないようだった。
「あら、皆まだしょんぼりしてるの?あーあ、どこかに私の作ったカボチャのパイ食べてくれる人いないかな~」
ローラさんの手には大きなカボチャで作られたカボチャのパイがいい匂いを充満させると、いつの間にか「俺食う!」「あ、ずるいティトも!」「ぶら、も、たべう!!」という男の子の声に連れて、「あ!私たちの分もとっといてよね」というソニアとユニアの声が響く。
小さい子供の扱い方をよく分かっているローラは、どんな場面でも臨機応変に対応し、その場に合わせて子供達を楽しませる。
(すごいなぁ……)
ユリアスは尊敬するばかりだった。
すると、カボチャのパイを頬張る子供達を見ながらローラがユリアスを呼んだ。椅子に座ると、カボチャのパイを頬張りながらもどこか神妙な顔つきのシュワルツとローラが居た。
「どうかしたんですか?」
「実はね、ブランについてなんだけどひとつ気になる事があって」
「ブランですか?」
「ええ、ディートフリー公爵家が四、五歳の青髪に黒い瞳の幼い少年を探しているというの」
——————ディートフリー公爵家。
ユリアスはその単語を耳にして、思わずドキッとした。
「しかも、獣人の子だというの」
「昔からディートフリー公爵家は獣人家紋と言われていたんだが、もしかしたらブランがその可能性もない訳ではなくてな」
(ブランが、ディートフリー公爵家の息子?)
「で、でも慰労祭の日の公爵様は確か……」
「家紋の中でも獣人の血が強いと、自分で耳や尻尾を隠す事ができるんだ。ディートフリー公爵家はそのことをあまり公にしていないから知らない人がいるのも無理はない。ただ、公爵様はユキヒョウの獣人だ。この事は限られた人しかしらないから公にはなっていないがな」
「それって、」
ユリアスはその先の言葉を聞きたくなかった。
「ああ、ブランは間違いなくディートフリー公爵家の子だ」
受け入れ難かった。
出会ってまだ一ヶ月と少ししか経っていないが、ユリアスの心は確かにブランにあって、親愛とも呼べる愛を与えていた。
いくら一国の貴族だとはいえ、伯爵家の身分では格上の身分、それも大国であるルーヴァニア帝国の筆頭公爵家。彼らがブランを返して欲しいと願ったのならば、逆らうことなどできない。加えて、今のユリアスはユリアス・ディオニスではなく、ただのユリアスだ。
そして、一目惚れとも憧れとも言えるディートフリー公爵家を突然遠くに感じた。
「ゆーり?たいたい?」
下向きの気持ちが積もり自責の念に駆られているユリアスを励ましたのは、ブランだった。
椅子に座るユリアスの足に手を置いて、撫で撫でするブランの目には確かに膜が張られ、そこには涙が溜まっている。
「ゆ、り、な、ないで」
「ふふ、なんでブランが泣くの?」
「ゆ、り、たいたい、ぶら、ん、やぁ」
遠回しの愛情表現ではなく直接的な愛情表現は、確かにユリアスの心に刺さる何かがあった。
—————————
「ゆーり、もう、ないない?」
「ん、もう大丈夫だよ」
夜になり、月明かりがまたベッドを照らす頃二人はベッドに向かい合うようにして寝そべっていた。
「た、ぁる?」
ブランは舌足らずな言葉遣いで、ユリアスの前に自分の尻尾を持ってくるとユリアスに押し付けた。
まるで、触ってもいいよ、と言っているかのように感じ取り、ユリアスが手を伸ばすとふわふわで暖かい温もりに包まれた。
「ぶら、ゆり、すち!だいすち!」
そう言うと、少し照れたような顔で、えへへと笑うからユリアスはどうしようもなく嬉しくなる。
「俺もブランのこと大好きだよ」
ないないね、と言ってユリアスを抱き締めるかのようにして頭を両手で包み込むブランだが、ブランのお腹がちょうどユリアスの顔の位置にあり息がしづらい。
けれど、ユリアスにとってその息のしづらさが心地よかった。
そうして一夜明ければ、いつの間にかブランはユリアスのお腹の所に縮こまるようにして寝ていた。
「ま、かぁろ、」と夢の中でも甘いものを食べているのか心底幸せそうな顔をするブラン。
「可愛いやつめ」
すると、ユリアスのお腹がぐぅぅと鳴り響く。
地響きまではいかないが、一番近くで聞いていたブランはその音にびっくりしたのか、毛を逆立てながら目を覚ます。けど、目の前にいるのがユリアスだということに気がつくと、すぐにおはようのチューをユリアスの頬にする。
「ゆーり、あーよ!」
「うん、おはようブラン」
朝から元気よくきゃっきゃと笑うブランだが、その反面ユリアスは寂しい気持ちを胸に抱えていた。
「また今度ピクニックしようね」
「お、俺は別に……」
ユリアスはジャックの頭を撫でた。
今回のピクニックを提案してくれたのはジャックで、食べ物の準備から場所の指示までジャックがローラさんと二人で行ってくれたもので、ソニアとユニアも大好きなお人形さん遊びはする気になれないようだった。
「あら、皆まだしょんぼりしてるの?あーあ、どこかに私の作ったカボチャのパイ食べてくれる人いないかな~」
ローラさんの手には大きなカボチャで作られたカボチャのパイがいい匂いを充満させると、いつの間にか「俺食う!」「あ、ずるいティトも!」「ぶら、も、たべう!!」という男の子の声に連れて、「あ!私たちの分もとっといてよね」というソニアとユニアの声が響く。
小さい子供の扱い方をよく分かっているローラは、どんな場面でも臨機応変に対応し、その場に合わせて子供達を楽しませる。
(すごいなぁ……)
ユリアスは尊敬するばかりだった。
すると、カボチャのパイを頬張る子供達を見ながらローラがユリアスを呼んだ。椅子に座ると、カボチャのパイを頬張りながらもどこか神妙な顔つきのシュワルツとローラが居た。
「どうかしたんですか?」
「実はね、ブランについてなんだけどひとつ気になる事があって」
「ブランですか?」
「ええ、ディートフリー公爵家が四、五歳の青髪に黒い瞳の幼い少年を探しているというの」
——————ディートフリー公爵家。
ユリアスはその単語を耳にして、思わずドキッとした。
「しかも、獣人の子だというの」
「昔からディートフリー公爵家は獣人家紋と言われていたんだが、もしかしたらブランがその可能性もない訳ではなくてな」
(ブランが、ディートフリー公爵家の息子?)
「で、でも慰労祭の日の公爵様は確か……」
「家紋の中でも獣人の血が強いと、自分で耳や尻尾を隠す事ができるんだ。ディートフリー公爵家はそのことをあまり公にしていないから知らない人がいるのも無理はない。ただ、公爵様はユキヒョウの獣人だ。この事は限られた人しかしらないから公にはなっていないがな」
「それって、」
ユリアスはその先の言葉を聞きたくなかった。
「ああ、ブランは間違いなくディートフリー公爵家の子だ」
受け入れ難かった。
出会ってまだ一ヶ月と少ししか経っていないが、ユリアスの心は確かにブランにあって、親愛とも呼べる愛を与えていた。
いくら一国の貴族だとはいえ、伯爵家の身分では格上の身分、それも大国であるルーヴァニア帝国の筆頭公爵家。彼らがブランを返して欲しいと願ったのならば、逆らうことなどできない。加えて、今のユリアスはユリアス・ディオニスではなく、ただのユリアスだ。
そして、一目惚れとも憧れとも言えるディートフリー公爵家を突然遠くに感じた。
「ゆーり?たいたい?」
下向きの気持ちが積もり自責の念に駆られているユリアスを励ましたのは、ブランだった。
椅子に座るユリアスの足に手を置いて、撫で撫でするブランの目には確かに膜が張られ、そこには涙が溜まっている。
「ゆ、り、な、ないで」
「ふふ、なんでブランが泣くの?」
「ゆ、り、たいたい、ぶら、ん、やぁ」
遠回しの愛情表現ではなく直接的な愛情表現は、確かにユリアスの心に刺さる何かがあった。
—————————
「ゆーり、もう、ないない?」
「ん、もう大丈夫だよ」
夜になり、月明かりがまたベッドを照らす頃二人はベッドに向かい合うようにして寝そべっていた。
「た、ぁる?」
ブランは舌足らずな言葉遣いで、ユリアスの前に自分の尻尾を持ってくるとユリアスに押し付けた。
まるで、触ってもいいよ、と言っているかのように感じ取り、ユリアスが手を伸ばすとふわふわで暖かい温もりに包まれた。
「ぶら、ゆり、すち!だいすち!」
そう言うと、少し照れたような顔で、えへへと笑うからユリアスはどうしようもなく嬉しくなる。
「俺もブランのこと大好きだよ」
ないないね、と言ってユリアスを抱き締めるかのようにして頭を両手で包み込むブランだが、ブランのお腹がちょうどユリアスの顔の位置にあり息がしづらい。
けれど、ユリアスにとってその息のしづらさが心地よかった。
そうして一夜明ければ、いつの間にかブランはユリアスのお腹の所に縮こまるようにして寝ていた。
「ま、かぁろ、」と夢の中でも甘いものを食べているのか心底幸せそうな顔をするブラン。
「可愛いやつめ」
すると、ユリアスのお腹がぐぅぅと鳴り響く。
地響きまではいかないが、一番近くで聞いていたブランはその音にびっくりしたのか、毛を逆立てながら目を覚ます。けど、目の前にいるのがユリアスだということに気がつくと、すぐにおはようのチューをユリアスの頬にする。
「ゆーり、あーよ!」
「うん、おはようブラン」
朝から元気よくきゃっきゃと笑うブランだが、その反面ユリアスは寂しい気持ちを胸に抱えていた。
2,723
お気に入りに追加
4,009
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる