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嫌われものの王子

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「姿勢が乱れてますわよ。しっかり背筋を伸ばしてキープなさい」

「言葉選びは正確に。育ちが出てしまいますわよ……いえむしろ、本以外に私と使用人からしか言葉を覚える相手がいないはずですのに何故そんな言葉遣いになったのかしら。使用人がそんな言葉遣いを?後で調べますわ」

「歴史を繰り返さない為にも、そして紡いでいく為にも学ぶ必要があります。王国の歴史を、そしてこの大陸に存在する国の歴史を。それぞれの国の言葉も必要です。貴方の記憶力は私が保証しましょう。さあ、過不足なく、先入観なく歴史を刻みなさい。後で確認の試験をいたします」

「魔法はイメージが大切です。想像力を働かせなさい……待ちなさい、何故水を出せと言ったのに一緒に炎を?水といえば炎だと思ってしまった?ああもう、そのようにちぐはぐな属性を同時に出してしまうなんて魔力が多すぎるのも問題ですわね。まずは一つに絞りなさい。基礎がしっかりしてこその応用ですわよ」

 来る日も来る日も、教鞭は緩まなかった。
 これが王子の勉学なのかは俺には分からない。
 姿勢だけで一日が終わることもあるんだが……
 もしかして妃教育も混ざっているのでは、と疑問も抱いたことがある。
 教鞭をふるってるの王妃様だからありえないことではない。

 そんなことを思いながらも俺は勉学に励んだ。

 知識は武器となる。
 今のままの俺はただ単に規格外の力に守られたサナギの状態で、どれだけ外からの攻撃に耐えられるとしても、精神面は非常に脆弱で脆い。だからこそ、知識で防壁を張り、武器を構えよと。
 イザベラ妃殿下の言うことが最初はいまいち分からなかった。
 けれど、こうも言われ続けると段々と身をもって理解する。

 彼女の言葉は時に厳しい刃となり、時に薬となるのだ。



 そうして膨大な知識を頭に詰め込まれ続けて10歳を迎えた。
 魔法は息をするように容易く発動できるようになり、それによって生活の全てを魔法で補えるようになった。何度も入れ替わる使用人をもう雇う必要が無くなったとばかりに離宮からは人が居なくなり、王妃様による勉学も数を減らしていき、最近は一人で居る事が増えた。
 食事だけは運ばれてくるが、扉の外に置いてあるので顔を合わせることはない。

「……暇だな」

 離宮の周囲は背の高い木で覆われていて、微かに王城の天辺が見えるだけ。
 その方角に王妃様や使用人たちが使う石畳の道があり、あれを辿れば王城まで行けるのだろう。だが、王城に行けばあの使用人たちと同じ顔で出迎えられるだけだろうから行きたいとは思わない。
 かといって正反対には行こうにもそこには城壁が聳え立っている。
 実質、俺が離宮以外に行ける場所などどこにもなかった。

 仕方なく体力をつけるために課されたトレーニングをしていると、木々の間から人影が現れる。

「うっわ、なにここ、馬小屋?」

「フィリップ。母上にこちらへ行ってはいけないと言われたでしょう」

 それは髪色が王妃様によく似た双子だった。
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