暴君王子は恋を知る

まぁ

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 予定外の業務を強いられていた和史は、顔には出していないが心の中ではかなりの悪態をついていた。
 まさか客同士を同じ部屋にダブルブッキングさせるというあってはならないミス。その対応をしていた和史は、今日はさすがにアンリの元へ行く事は出来ないと思った。
 夕飯の準備は出来ない、トラブルがあった旨を電話で伝えると、アンリは「わかった」とだけ言ったが、心なしかその声は拗ねているようにも聞こえた。
 アンリ自身が気づいていない。もしくはいつものツンツン発動で言わないだけかもしれないが、アンリが和史に好意を抱いているのはわかっている。いや、最近まではそうではないか?くらいにしか理解していなかったが、行動や態度が初めの頃とはだいぶ違う。
(口にして欲しい所だが、あの素直になれない所がまた可愛いんだがな)
 あのツンツンしたアンリの口から「好き」なんて言われた日には、一晩中抱き潰す勢いだ。
 そんな事を考えていた和史だが、今日はアンリのマンションに行かない予定だが、やはり顔は見たいし、あの拗ねた声を聞けば会いに行かざるおえないだろう。
 誰にも触れられた事がないからか、アンリは快楽に弱い。そんなアンリの尻へ自分のものを入れて泣かせたら……などと不埒な事を考えながら帰り支度をし、ホテルの外へ出た時だった。
「おい、お前……」
 やたら乱暴な英語で話しかけられたが、その声の主には覚えがある。
「あぁ、これはアンリ様の秘書のウィードさん」
 すでにプライベートモードだが、一応はオーナーモードで現れたウィードを相手にした。
「お前とアンリ様はどういう関係だ」
「直球ですね。しかし私とアンリ様の関係はプライベートの事なのでお答え出来かねます」
「とぼけるな!お前、アンリ様に手を出してるだろ!」
(あぁ面倒な奴だな……)
 やたらキーキー煩く牽制をかけてくるウィードをどうにか撒きたい和史は、人の良い仮面を脱ぎ捨てる。
「だったらどうだって言うんだ?」
 態度の様変わりにはウィードは少し驚いた。だが怯むことなく和史を責める。
「アンリ様はヒースルー家のお方だ。お前みたいな奴は相応しくない!」
「へぇ、ならお前だったらアンリと同等でいられるっていうのか?」
「そうは言ってない!」
「残念だな。あいつは俺の事が好きなんだよ。自分で口説けない奴は黙って尻尾巻いてろ」
「な、なんだと!」
 この男がアンリに気があるのは知っている。それに和史とアンリが釣り合わないと言ったが、この男もそうだ。一応ヒースルー家に代々仕える一族の人間なのは知っているが、家柄なんかでアンリとの仲を邪魔されたくはない。
「ただ黙っているだけの奴がアンリとどうこうなれるか。あいつはお前の事なんて秘書程度にしか思ってないよ」
「言わせておけば……」
 図星なのだろう。これ以上の反論が出来ないようだ。時間の無駄を過ごした。和史は黙っているウィードの横をすり抜ける。
「それじゃあな。従順な秘書君」
 わなわなと肩を震わせるウィードだが、好きならさっさと言えばよかったのだ。後から焦ってたところで遅い。
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