暴君王子は恋を知る

まぁ

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 キスだけと言われてもこの状況では先があるのではないかと言いたくなったアンリだが、押し倒されて顎を掴まれると本当にキス以外はしてこない。
「んっ、んん!」
 耳につく水音や自分から漏れ出る甘い声でおかしくなる。これが本当に自分から出ているものなのかと。
「あっ、ん……あぁ」
 口内の至る所を舐め回される。歯列をなぞったり口内の上側を刺激したり、口の中のどこもかしこも和史に侵されている。
「お前は本当にキスが好きみたいだな」
「べ、別に……」
 二人を繋ぐ口元の糸がキラキラと輝く。相変わらず強がっているアンリだが、紅潮した頬に潤んだ瞳はなんとも扇情的だ。
「そんな顔で言っても説得力ないぞ」
 そう言うと再びキスが開始された。嫌だ嫌だと口では言うが、体は正直な反応を見せる。
 ズキズキと痛む下半身を触ってしまいたい。だがこの男の前ではそんな事をしたくないとアンリは理性と戦った。
「触りたいか?」
「ば、バカ……そんな事……」
「ならそのままイケよ」
「んんっ!」
 激しさを増すキスに、次第に頭が追いつかず呆然としてきた。気持ちいい。それだけが頭の中にあり、もどかしいこの熱を早く発散してしまいたかった。
「んん、あっ、あぁ……」
 何かが背筋を駆け巡る。ゾクゾクとしたエクスタシーが体の中心へと集まる。そして気がつくと熱は体外へと放出されたのだ。
「本当にキスだけでイケたのか?」
「うっ、うぅ……」
 この男の前でなんという痴態を晒してしまったのかと、アンリは恥ずかしさで消えたくなった。
「ほら、風呂行きたいだろ?行って来いよ」
「だ、誰のせいだと!」
「俺のせいだな。なら風呂まで連れてってやるか」
「い、いい!一人で行く!」
 そう言っても和史はアンリを横抱きして風呂場に連れて行く。さすがにこれ以上は恥ずかしいからと、脱衣所で和史を追い出した。
「本当にキスだけで……」
 一人になったアンリは、パンツの中を覗く。いくつもの糸を引いた蜜がなんとも気持ち悪かった。
「何でオレ、あいつにいいようにされてるんだ?」
 正直、キスは気持ち良かった。だがそれでイカされる自分も自分だ。
「あんな奴、好きじゃないし!てかオレの好みじゃない!」
 自分の好みは兄のように紳士で優しく、包容力があって自分を甘やかせてくれる人だ。そんな風に好みを復唱していると、それが全て和史に当てはまるのだから困ったものだ。
「ち、違う……好きと好みはまた別だ」
 あれやこれやと屁理屈をつけては否定したいアンリだった。


 その翌日から、和史は毎日のようにアンリの部屋を訪れる。これではホテルの部屋から逃げ出した意味がないのでは?と思ったが、和史は自宅で作って来たという晩ご飯を持参してやって来た。
「仕方ないだろ?お前の家、何もないんだし」
 今日は五目ご飯にさわらの煮付け、ほうれん草のおひたしだ。
「料理も出来るなんて……」
 しかもどれもプロ並みに美味しい。
「とりあえず何もなさすぎるからな。明日家具を買いに行くぞ」
「はぁ?勝手に決めるな!」
「オレとしては出来立てのものをお前に食わせてやりたいのだがな?」
 そんな風に言われると心が揺らぐ。
「まっ、まぁ……冷めた料理より温かいものの方がいいからな……」
 こうしてその翌日、仕事終わりに二人で家具家電を見に行く事になった。
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