暴君王子は恋を知る

10

　アンリが日本に戻る前、兄アレンが日本の有名アイドルグループの一人と熱愛スキャンダルが出たという情報を得た。
「はぁ？兄さんがあのモブ以外の女と熱愛だって？」
　このデタラメな記事を書いた記者を社会的に潰してしまいたくなった。何故ならアレンはモブ（アンリ曰く）事アレンの想い人。山下陽菜に相当ぞっこんなのを知っている。それを知っているからこそこの記事がデタラメなのだとわかる。
「とりあえず真相を確かめないと！ウィード！もう予定は何もないよね？」
「はい。後は戻るだけです」
「ならさっさと戻るぞ！」
「畏まりました」
　これから空港に向かって日本に帰る。そしてこの事について聞かなくてはアンリの気が気じゃない。もしこの記事がデタラメではなく本当だったらどうなるのだろうか。これまで遊びのような女との交友を知っているが、陽菜に対しては真剣そのものだった。きっと兄にとってこれは純愛なのだろうと思っていただけに、確認したくて仕方なかった。そんな純愛を羨ましいと思っている中、アンリはふと和史の事を思い出した。
　アンリがアメリカで仕事をしている中、和史と会ったのはあの日だけで、和史自身は早々に日本に帰ったとウィードから聞いている。
（な、なんでいきなりあいつの事を思い出すんだよ！）
　ふいに移動中、和史の事を思い出したアンリは、あの日の夜の事を思い出してしまった。仕事をしていてもつい気を抜くと思い出してしまう。
（ダメだ。仕事しよう！）
　これ以上は思い出してはいけない。そう思って仕事をする事にしたアンリ。どうして和史はアンリに執着するのかわからない。やや強引に「俺を好きになれ」と言って来る和史に対して「誰が好きになるか！」と反発する。だが本当に嫌と思っていないから困りものだ。


　日本に戻ると真っ先に向かったのは兄の元だ。どうやらこの時、スキャンダルに関する事件がもう一つ起こった後だったようだが、兄にいろいろと問いただし現地を取った。
　やはり兄は山下陽菜を愛しているのだと知り、ホッとしてあてがわれた部屋に戻った。すると戻ると同時に部屋のチャイムが鳴った。
「誰だよ……」
　急いで日本に戻り、兄の元まで行ったので疲れているのだが、休む暇すら与えないのは誰だと思った。
「おかえりなさいませアンリ様」
「げっ……」
　扉を開けるとオーナースマイルの和史がいる。久々の再会なのだが今はあまり余裕がないので余計疲れが増した気がした。
「お疲れのようですのでハーブティーをお持ちしました。中に入っても？」
「どうせ勝手に入るだろ。入って茶を淹れて出ていけよ」
「了解しました」
　ワゴンを押しながら中に入って来た和史は、手際よくハーブティーを淹れる。
「どうぞ」
「うん……」
　カモミールのいい香りが鼻孔をくすぐる。これは確かに疲れが落ち着くと思っていたが、和史はいつまでたっても部屋を出て行こうとしない。
「おい……もう用事がないなら出ていけよ」
「はい。そうですね。ですがアンリ様は今回のアレン様の件に関しては首を突っ込まない方がいいかと」
「突っ込まないよ！兄さんのとこには優秀な秘書もいるし、何かあればヒースルー家も出るから」
「なら良かったです」
「良かった？」
「アンリの心に付け入る隙はあるって事だからな」
　悪い方の和史が出た瞬間、アンリはドキッとして「隙なんてない！」と言った。すると和史は元のオーナースマイルに戻った。
「それでは失礼しますね」
「うぅ……なんだよ」
　どうも和史の顔を見ると調子が狂う。今も疲れてはいるが顔は赤くなっているのがわかるほど熱かった。