7 / 43
7
しおりを挟む
結局大人しく部屋で和史が来るのを待っていたアンリ。現地時間十九時ジャストに扉のチャイムが鳴った。
「お、遅い……」
「それは悪かったな。十八時まで仕事で、少し雑務があって遅くなった」
ベージュのパンツにボーダーシャツ、その上にジャケットを羽織った和史がそこにいた。もうオーナーの顔は剥ぎ取られ、髪も下ろしニヒルな笑みを浮かべる悪い男の顔をしている。
「べ、別に待ってなかったけど、お腹は空いたからな。し、仕方なくディナーを共にしてやる」
むっすりしながら言うアンリを見て和史はクスクスと笑った。
「何がおかしい!」
「いや、素直じゃないところもまた可愛いなと思っただけた」
「か、可愛い?可愛いというのは日本人のようなベビーフェイスなやつを言うんじゃないのか?」
確かにアンリはイギリス人にしては甘い顔をしている。だが日本人と並べば背も高いしちゃんと鍛えているので筋肉も程よくある。どこが可愛いのかさっぱりわからない。
「ほら、早くしろ。腹が減ってるんだろ?」
そう和史に言われ、文句を言いながらもアンリは和史と一緒にホテルの外へ出た。
二人が向かったのは海沿いにあるシーフード専門店だった。ほとんどの店が観光客向けなのに比べ、ここは知る人ぞ知ると言った感じのこじんまりとした店だった。
テラス席も二席ほどあり、二人は潮風の匂いと音を聞きながらテラスで食事をする事にした。
「なんでシーフード店なんだ?」
「サンディエゴと言えばシーフードだろ。苦手だったか?フィッシュアンドチップスの方が良かったか?」
「おい、イギリス人がみんなフィッシュアンドチップスが好きだと思うなよ。好きだけど……」
言っている事と本音が同時に漏れ出るアンリに終始クスクスと笑っている和史に、アンリはブスっとしながら話しかける。
「な、なんでこんなとこまで来てるんだよ……」
「さっきも言ったが。仕事だってな」
「だからってタイミング良すぎるだろ!」
「そんなの知るか。俺にも俺の仕事がある。それともなんだ?俺とお前は運命の相手だったんだなって言って欲しいのか?」
「そ、そんなの求めてない!」
ツンとした態度。相変わらず表情がコロコロ変わって面白い。
「後、なんでオレを食事に誘うんだよ……」
「いちいち確認取らないとわからないのか?そもそも恋をしたいと言ったのはお前の方だろ?」
「はぁ?だからってお前とじゃない!」
「そうか?お前のそのじゃじゃ馬的な性格は俺くらい包容力がないと彼氏は務まらないと思うがな」
「じゃ……誰がじゃじゃ馬だ!それにお前のどこに包容力が」
「包容力の固まりじゃないか。酔ったお前を介抱してる時点で」
ああ言えばこう言う。口論したところで全て和史に論破される。だが不思議と本気で嫌と言うわけではない。
「お前って……」
「和史だ」
「はっ?」
「いい加減名前で呼べよ」
「何でお前なんかを!」
「ほらまた。今度お前と言ったらその分だけキスするぞ」
「な、なんだよそのベタな話!それにキ……スは好きなやつとするものだ」
恥ずかしそうに言うアンリ。和史はそんなアンリに一瞬にして恋に落ちた事など本人にはわからないだろう。
「お、遅い……」
「それは悪かったな。十八時まで仕事で、少し雑務があって遅くなった」
ベージュのパンツにボーダーシャツ、その上にジャケットを羽織った和史がそこにいた。もうオーナーの顔は剥ぎ取られ、髪も下ろしニヒルな笑みを浮かべる悪い男の顔をしている。
「べ、別に待ってなかったけど、お腹は空いたからな。し、仕方なくディナーを共にしてやる」
むっすりしながら言うアンリを見て和史はクスクスと笑った。
「何がおかしい!」
「いや、素直じゃないところもまた可愛いなと思っただけた」
「か、可愛い?可愛いというのは日本人のようなベビーフェイスなやつを言うんじゃないのか?」
確かにアンリはイギリス人にしては甘い顔をしている。だが日本人と並べば背も高いしちゃんと鍛えているので筋肉も程よくある。どこが可愛いのかさっぱりわからない。
「ほら、早くしろ。腹が減ってるんだろ?」
そう和史に言われ、文句を言いながらもアンリは和史と一緒にホテルの外へ出た。
二人が向かったのは海沿いにあるシーフード専門店だった。ほとんどの店が観光客向けなのに比べ、ここは知る人ぞ知ると言った感じのこじんまりとした店だった。
テラス席も二席ほどあり、二人は潮風の匂いと音を聞きながらテラスで食事をする事にした。
「なんでシーフード店なんだ?」
「サンディエゴと言えばシーフードだろ。苦手だったか?フィッシュアンドチップスの方が良かったか?」
「おい、イギリス人がみんなフィッシュアンドチップスが好きだと思うなよ。好きだけど……」
言っている事と本音が同時に漏れ出るアンリに終始クスクスと笑っている和史に、アンリはブスっとしながら話しかける。
「な、なんでこんなとこまで来てるんだよ……」
「さっきも言ったが。仕事だってな」
「だからってタイミング良すぎるだろ!」
「そんなの知るか。俺にも俺の仕事がある。それともなんだ?俺とお前は運命の相手だったんだなって言って欲しいのか?」
「そ、そんなの求めてない!」
ツンとした態度。相変わらず表情がコロコロ変わって面白い。
「後、なんでオレを食事に誘うんだよ……」
「いちいち確認取らないとわからないのか?そもそも恋をしたいと言ったのはお前の方だろ?」
「はぁ?だからってお前とじゃない!」
「そうか?お前のそのじゃじゃ馬的な性格は俺くらい包容力がないと彼氏は務まらないと思うがな」
「じゃ……誰がじゃじゃ馬だ!それにお前のどこに包容力が」
「包容力の固まりじゃないか。酔ったお前を介抱してる時点で」
ああ言えばこう言う。口論したところで全て和史に論破される。だが不思議と本気で嫌と言うわけではない。
「お前って……」
「和史だ」
「はっ?」
「いい加減名前で呼べよ」
「何でお前なんかを!」
「ほらまた。今度お前と言ったらその分だけキスするぞ」
「な、なんだよそのベタな話!それにキ……スは好きなやつとするものだ」
恥ずかしそうに言うアンリ。和史はそんなアンリに一瞬にして恋に落ちた事など本人にはわからないだろう。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
すれ違いがちなヒカルくんは愛され過ぎてる
蓮恭
BL
幼い頃から自然が好きな男子高校生、宗岡光(ヒカル)は高校入学後に仲間と自然を満喫したいという思いから山岳部へ入部する。
運動音痴なヒカルは思いのほか厳しい活動内容についていけず、ある日ランニング中に倒れてしまう。
気を失ったヒカルが見たのは異世界の記憶。買い物中に出会った親切な男が、異世界ではヒカルことシャルロッテが心から愛した夫、カイルだったのだと思い出す。
失神から目が覚めたヒカルの前には、記憶の中のカイルと同じ男がいた。彼は佐々木賢太郎、ヒカルの同級生で山岳部の部員だと言う。早速ヒカルは記憶が戻った事を賢太郎に話した。
過去に仲睦まじい夫婦であったという記憶を取り戻したからなのか、ヒカルは賢太郎の事を強く意識するようになる。
だが現代での二人はただの同級生で男同士、これから二人の関係をどうするのか、賢太郎の言葉だけでははっきりと分からないままその日は別れた。
溢れた想いを堪えきれずについDMで好きだと伝えたヒカルだったが、賢太郎からの返信は無く、酷く後悔することに。
主人公ヒカルをはじめとした、登場人物たちの勘違いによって巻き起こる、すれ違いストーリーの結末は……?
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ニケの宿
水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。
しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。
異なる種族同士の、共同生活。
※本作はちいさい子と青年のほんのりストーリが軸なので、過激な描写は控えています。バトルシーンが多めなので(矛盾)怪我をしている描写もあります。苦手な方はご注意ください。
『BL短編』の方に、この作品のキャラクターの挿絵を投稿してあります。自作です。
羽衣伝説 ー おじさま達に病愛されて ー
ななな
BL
麗しい少年が、おじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全12話。
仙人の弟子であるボムギュは、お師匠様のことを深くお慕いしておりました。ところがある夜を境に、二人の関係は歪なものとなってしまいます。
逃げるように俗界へと降りたボムギュでしたが、村の子供達に読み書きを教えているという男に心を奪われてしまい…。
ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる