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障害はつきもの

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 それからしばらくしてだった。佐和子と加納は普通の恋人同士の日々を過ごしていたが、この先についても少しづつ前向きに話を進めていこうという事になった。その報告はもちろん千枝にも報告済だ。
「良かったじゃない!とりあえずおめでとう!」
「ありがとう。でもまだ何も決めてないよ」
「まぁ、これからの方が時間かかるだろうけど。それより向こうの両親には挨拶したの?」
 そう、この挨拶というのが問題なのだ。佐和子の方は新幹線の始発駅から最終までの距離と、そこから特急に乗り換えるコースで大変な為、大きな休みが取れた時にしか行けない。とは言え何の報告もないのはいけないので、電話で両親にはそれとなく伝える。
 都会に就職して結婚関係に何の音沙汰もなかった娘だ。両親としては正直しないのだろうと思っていただけに、その知らせを聞いて驚きの方が先だった。だが年齢もいった娘なので「もらえるもんならもらってくれ」状態だった。
 そんなこんなで佐和子の家は問題がひとっつもなかったのだが、加納の方は少々問題がある。加納本人からしたらたいした事ない、普通の家と家族と言っていたが、聞けば聞くほど佐和子が引いてしまった。
「僕の両親は〇〇会社の社長ですけど、そんなたいした事ないですよ」
 その会社は誰もが知る大企業だ。それを聞いて佐和子は顔を引きつらせる。
「いや、たいした事ないの幅が私の中では振り切れてるんだけど!えっ?何?家を継ぐ系?」
「あ、それは大丈夫です。家は兄がいるんでそっちが継ぎます」
 ケロリと話す加納だが、聞けば聞くほどいろいろなワードがばらばらと出てくる。実家は都内ではないが、元々何とか道とか言われている歴史的な場所で、地図アプリの上空写真で見るとかなりの大きな家だ。しかもその一体の地主だとも言う。家そのものは母方の実家だそうで、加納の父はその婿養子でもある。
「な、何その盛りに盛った設定!そんな人種が身近に存在した事自体驚きなんだけど!」
 あまりの状況にさすがに脅え始めた佐和子。だが加納本人は何も気にしていないのか飄々とした様子でいろいろと話を進める。
「一応両親にも言うだけいいましたよ。母親からは「随分年上の方なのね」って言われましたけど、だからこそしっかりした素敵な女性ですって言いました」
 それは絶対に嫌味的なものを言われただろうと思った佐和子は、気持ちが前向きにいきかかったものが若干後ろに後退してしまった。
「それと両親から早い方がいいだろうからって、今週末に食事をしましょうって言われたんですが、佐和子さんの予定どうですか?」
 初エッチ云々のXデー騒ぎの時よりも最大級のピンチがやって来たのかもしれない。ノーと言えない状況で、佐和子は「大丈夫です」としか言えなかった。だが加納の持つその見えなかった設定にすっかりと意気消沈の佐和子。
 本当の意味でにXデーが近づいていた。
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