モブ止まりの私がヒロインになる？

恋のリハビリ

　恋愛のリハビリを兼ねて、改めて加納と一ヶ月のお試しお付き合いをする事になった佐和子。
　今日は週末。基本的に暦通りの会社なので、土日は休み。日曜は完全オフにしたいと言ったところ、土曜日どこか行こうとなった。
　久々にお粧しをし、服も当たり障りのない膝下スカートに低めのパンプス、タンクトップインナーにカーディガンの至ってシンプルな服装だ。ちなみにその下は通販で買った大人な下着。
(いや、正直今日は何もないから)
　デート何回目というセオリー通りなら今日はまだ一回目。何もないはずだ。
　今日のデートはご定番の水族館だ。
　待ち合わせ場所に行くと、すでに加納は来ており、佐和子を見るなり満面の笑顔になる。どうしても尻尾が見えてしまう。
「工藤さん！おはようございます！」
「おはよう。もしかして待った？」
　ありきたりな会話をするのもまた定番だなと思った。ちなみにプライベートとビジネスを分けるタイプの佐和子は、会社外では加納に対しわりと砕けた口調で話すようになった。加納自身はまだ佐和子が年上というのがあるのか、口調は変わらない。が、相変わらずのわんこ気質ではある。
「あぁ……今日は別に会社ではないし、普通に話してもいいよ」
「普通とは？」
「うーん……敬語とかいらないかな？」
「だったら呼び方！佐和子さんって呼んでいいですか？」
「別に構わないけど、私は俊也君でいいのかな？」
「はい！」
　大きな声でよろしい。そんな風に思いながら、加納はスッと手を差し出した。異性と手を繋ぐなど何年ぶりだろうか。正直今の時期は少し暑いのだが、カップル達はこういう時期でも手を繋ぐ事を気にしないのだろう。
(手汗かかなければいいが……)
　おそらくそんな事は気にならないのだろうが、何分久々故にかってもわからない。
　そんなどうでもいい事を考えていると、水族館に到着。
「あっ、僕払うので」
「いいよ。私が出すよ」
「それじゃ彼氏の意味ないです……」
　しゅんとする加納に、ついつい年上のおごる癖が出てしまった。デートは相手が出すものも今では割り勘と聞いた。別に佐和子が出しても構わないのだが、加納の面子を保つ為にもお願いする事にした。
「わかった。ならお昼は私が出すね」
　そういうと「はい！」と言って見えない尻尾がブンブン振っているのがわかる。
　正直水族館に来るのは久々だ。前は友達と行っていたりもしたのだが、友達も家庭を持ってなかなか遊べない。すると自然に水族館とは疎遠になったが、久々だといろいろな発見があって楽しい。
「さすがに週末。カップルと家族連ればっかり」
「僕達も一応カップル枠で来てるんですけど……」
「それもそうだね！」
　すっかりこの状況を楽しんでいる自分がいて、とても現金なやつだと思う反面、忘れていただけなのかもしれないと思った。