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本音を言って

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 断るに断れない佐和子は、加納と一緒に小洒落たショットバーへと入った。平日なのもあって人は多くないが、薄暗い店内は大人の雰囲気満載だ。
「えっと何飲みます?」
「そうだな……モスコミュールで」
「同じので」
 店員にそう告げると、店員は「かしこまりました」と言って奥に消えた。通しのグリッシーニをかじっていると、加納はもじもじとし始めた。
「あ、あの……今日は用事あったんですよね?大丈夫でしたか?」
「えっ?あぁ、大した事はないので大丈夫です」
 本当は何もない。ただ家に帰ってゆっくりしたいだけだ。三十も過ぎると寄り道したら帰るのが面倒になってしまう。もしかしたら佐和子限定なのかもしれないが。
「工藤さん!」
「な、何?」
「僕とのお付き合い……やっぱり迷惑でしたか?」
「えっ?」
「なんだか工藤さんあまり乗り気でないというか……迷惑そうというか」
 そこまで顔と態度に出ていたのか。とは言え、別に加納が嫌いだとかそういうわけではない。ここは正直になった方がいいだろう。そう思って佐和子はため息を漏らす。
「迷惑というか……単に慣れてないんです」
「えっ?」
「過去お付き合いしたのもいつだったか忘れているくらい長い間恋愛してないですし、会社終わって直帰。家でビール飲みながら過ごす。そんな枯れ果てた生活が身についてしまったんで、正直恋愛面倒だなぁって……」
 流石にここまで言えば引くだろう。そう思って加納を見ると、加納はいきなり佐和子の手をがしりと掴んだ。
「大丈夫です!僕と一緒に恋愛のリハビリしましょう!」
 何を言い出す!と思いながらも、加納の目はキラキラと輝いている。あぁ、流石は二十代。そんな風に思ってしまった。
「ねぇ、加納さん。あなたの趣味って何?」
「僕ですか?キャンプと旅行ですかね?」
 とことん合わない。やはり加納はアウトドアタイプだ。インドアの佐和子にとってもっとま相容れない存在だ。
「うん。だろうなぁと思った」
「そうだ!今度一緒に出かけましょう」
「それが面倒なんだなぁ……」
「そんな事言ってたら何も始まらないです。工藤さんには一ヶ月の時間もらってるんです。せめてその間だけでも僕といて下さい!その後、お付き合いの有無を判断して下さい」
 必死にお願いする年下男子。そこまで言われて無理と言える程の非常でもない。加納にとっての日常は佐和子には非日常だ。だがこの目の前のワンコの熱に根負けした佐和子は「わかったよ」と言った。
「正直腐りすぎて苛つかせる事あると思う。けどそれでいいなら私も一ヶ月頑張ってみるよ」
「は、はい!改めてお願いします!」
 今日一の満面の笑顔を加納は見せた。
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