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崩される日常……

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「えっと?人違いじゃないの?」
「違いますよ!ちゃんと工藤さんに言ってます!」
 嘘は言ってないようだ。その目は真剣そのもの。だが彼の告白よりも何より、おしゃべり女子達を巻く事から始めたい。
「と、とりあえずここではなんですし、どこか入りませんか?」
「は、はい!」
 デートと勘違いでもしているのか。加納は若干頬を赤くしつつ、満面の笑顔になり、腰の辺には尻尾が見える。
 二人は近場のおしゃれイタリアンに入る事にした。給料日前で引き落としもしてない寂しい財布なのに。何より真っ直ぐ帰れない事がとても面倒で仕方ない。しかも二人でサルベージする際、おしゃべり女子達が「きゃー!」と叫んでいた。きっと明日は地獄だ。本当に面倒だと、久々にストレスに似たものを感じた佐和子。


「ここのお店来たことありますか?」
 突然デートのようなノリで言われたので、佐和子は心の中で大きなため息を漏らす。
「加納さん。さっきのお話ですが、何かの冗談ではないんですよね?」
「ちゃんと真剣です!」
「こんなおばさんの何処がいいのですか?向こうの席に座っているお嬢さんの方が可愛らしくて加納さんの好きそうなタイプだと思いますが?」
 あくまでビジネス口調。ここで勘違いされても困るし、実際に佐和子達が座る席の二つ向こうには、髪にも服にも気を使った若くて可愛いキラキラ女子がいる。
「たしかに可愛いかもしれませんが、工藤さんだって充分可愛いです!」
「何処が?三十過ぎた女は大抵の人は賞味期限切れだっておっしゃいますよ。実際私もそう思いますし」
「そんな事ないです!」
 いちいちリアクションと声が大きいのは加納独特のものなのか、若さ故か……そうこうしていると頼んだ料理が運ばれてきた。加納はカルボナーラとサラダのセット。佐和子はさっぱりポン酢のパスタというものを注文していた。
「残念ですが加納さんのお気持ちにお応えは出来ません」
「どうしてですか?年下は嫌ですか?あっ、僕ギャンブルとかしませんし、接待以外でキャバクラとか行かないです!」
「いや、そういう事じゃなく……」
 身の潔白を証明する必死な加納に正直に言うべきなのか。恋愛がめんどくさいと。
 おそらくそんな事を言えば、他の女子達から大ブーイングが来そうだ。
 何せ相手は高身長に高学歴、性格も良く、収入は同世代からすれば少しばかりいいだろう。佐和子に対しては年齢給込みなので、加納の方が少し少ないかもしれない。とは言っても給与体系を知らないので憶測だが。
「もしかして他に好きな人がいますか?」
「それはないのでご安心を」
「だったら!一か月でいいのでお試しで付き合って下さい」
 必死な彼のその願い。叶えてやらねば落ち込むだろし、もしかしたらまだ押してくるかもしれない。
 一か月ならいいか。どうせ休日以外会う事はないだろう。それで佐和子の残念なところを見て幻滅するといい。
「わかりました。一か月の間でしたら」
 加納は目を輝かせながら「やった!」と店中に響く声で言った。
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