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第六話
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この日も蘭姉さんの厳しい花嫁修業を終え、屋敷に戻り星永さんの部屋に向かう。
(今日は積極的に!)
正直嫌ではない。だからもっと自分からアピールしなくてはいけない。今日二度目を!という勢いのまま部屋を訪れる。
「久美子。主のお披露目は当日朝、主上に御目通りするところから始まる。私が連れて行くので安心するがいい」
部屋に入るなりお披露目の儀式の話になった。しかも朝一でこの国の皇帝、トップ中のトップに会うとは、胃薬が欲しいくらいだ。
「そんな話聞いたらなんだか緊張してきました」
「大丈夫だ。主上は気さくな方だ。きっとすぐに慣れる」
ここに来た時の気合いと緊張かとはまた別のプレッシャーに、二度目が遠のく感じがした。
「それでも緊張しますよ……」
「近くに私もいる。大丈夫だ」
そう言って私を抱き寄せた星永さん。そのままの勢いで私は星永さんに口づけをした。
「久美子?」
私からなので驚いたのだろう。星永さんは一瞬動きを止めたが、私の気持ちを汲み取った。
「いいのか?」
コクリと頷くと、再び唇を塞がれた。
「んっ……はっ……」
口づけは深くなり、私はそのまま寝台に倒された。星永さんの手が私の胸に触れるその時だった。
「あの、夜分すみません!」
コンコンと扉を叩く音と共に茜華の逼迫したような声が聞こえた。
雰囲気を削がれ、星永さんは襟元を正すと部屋の扉を開ける。
「どうかした?」
「炎珠様から久美子様に。火急紫水殿にお越し頂くようにと遣いの者が」
「私に?なんだろ?」
こんな夜遅くだ。ただ事ではない事は理解出来る。
「それと……久美子様のみで、旦那様は絶対に訪れる事なきようにとの事です」
「元々男子禁制だからな。仕方ない。久美子。馬を出す。支度を」
「は、はい!」
なんだかそれらしい雰囲気も、それどころではなくなった。急いで支度をして、私は星永さんの馬で紫水殿に向かった。
「炎珠様?何かあったの?」
紫水殿に通され、炎珠のいる王の間のような部屋に行くと、炎珠と、その目の前に見知らぬ少女がいた。まだあどけない感じで、歳で言うなら見た目詐欺の私と同じ十七、八くらいの子だ。
「うむ。大変な事になった」
「大変な事?」
いつもの飄々とした感じの炎珠ではなく、どこか困り果てたような表情だ。
「今日の夕刻、祈祷場よりその娘が現れたのだ」
「え?えぇ!」
一体どういう事だと思ったが、祈祷場から現れたと言うことつまり。
「久美子。主ではなく、この娘がこの国の御使いとなる」
(今日は積極的に!)
正直嫌ではない。だからもっと自分からアピールしなくてはいけない。今日二度目を!という勢いのまま部屋を訪れる。
「久美子。主のお披露目は当日朝、主上に御目通りするところから始まる。私が連れて行くので安心するがいい」
部屋に入るなりお披露目の儀式の話になった。しかも朝一でこの国の皇帝、トップ中のトップに会うとは、胃薬が欲しいくらいだ。
「そんな話聞いたらなんだか緊張してきました」
「大丈夫だ。主上は気さくな方だ。きっとすぐに慣れる」
ここに来た時の気合いと緊張かとはまた別のプレッシャーに、二度目が遠のく感じがした。
「それでも緊張しますよ……」
「近くに私もいる。大丈夫だ」
そう言って私を抱き寄せた星永さん。そのままの勢いで私は星永さんに口づけをした。
「久美子?」
私からなので驚いたのだろう。星永さんは一瞬動きを止めたが、私の気持ちを汲み取った。
「いいのか?」
コクリと頷くと、再び唇を塞がれた。
「んっ……はっ……」
口づけは深くなり、私はそのまま寝台に倒された。星永さんの手が私の胸に触れるその時だった。
「あの、夜分すみません!」
コンコンと扉を叩く音と共に茜華の逼迫したような声が聞こえた。
雰囲気を削がれ、星永さんは襟元を正すと部屋の扉を開ける。
「どうかした?」
「炎珠様から久美子様に。火急紫水殿にお越し頂くようにと遣いの者が」
「私に?なんだろ?」
こんな夜遅くだ。ただ事ではない事は理解出来る。
「それと……久美子様のみで、旦那様は絶対に訪れる事なきようにとの事です」
「元々男子禁制だからな。仕方ない。久美子。馬を出す。支度を」
「は、はい!」
なんだかそれらしい雰囲気も、それどころではなくなった。急いで支度をして、私は星永さんの馬で紫水殿に向かった。
「炎珠様?何かあったの?」
紫水殿に通され、炎珠のいる王の間のような部屋に行くと、炎珠と、その目の前に見知らぬ少女がいた。まだあどけない感じで、歳で言うなら見た目詐欺の私と同じ十七、八くらいの子だ。
「うむ。大変な事になった」
「大変な事?」
いつもの飄々とした感じの炎珠ではなく、どこか困り果てたような表情だ。
「今日の夕刻、祈祷場よりその娘が現れたのだ」
「え?えぇ!」
一体どういう事だと思ったが、祈祷場から現れたと言うことつまり。
「久美子。主ではなく、この娘がこの国の御使いとなる」
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