ようこそあやかし屋敷

まぁ

文字の大きさ
上 下
25 / 35

25

しおりを挟む
 歪みの中に足を踏み入れてしばらくすると、あれほど夏菜を吸い込まんとしていた風は収まった。そして視界の先に見えたのは江戸時代のような風景。よく時代劇などで見た光景がそこには広がっていた。
「こ、ここがあやかしの世界?」
「そうだ。向こうと変わらなくてびっくりしたか?」
「いや、どちらかというともっと殺伐としたのを想像していたので……」
「あやかしと言えど、神も共存した世界で、生活する姿はあやかしも人間も変わらないですよ。皆生きる為に田を耕したり、苗を植えたりね」
 もう少し幽霊然とした荒廃した世界を想像していただけに驚いた。
 この世界の地形的は、人間の住む世界とはそう変わらないそうで、各々拠点となる場所に神が住んでいるらしい。
「人間の神様もいますよ。ただここからは遠いところですけどね」
「成程……なんとなく人間の言うところのあの世って感じですね」
「そうだな。簡単に言えばそうだろう。だからこちらに来たら還れないと言われてる」
 夏菜は今、天国とも地獄ともいえる場所にいるのかと思って二人に言うと、地獄はまた別の世界にあるのだそうだ。
「とりあえずお前が向かうのは俺達狐の長がいる社だ」
「へ?狐の長……?」
「そうだ。稲荷の取り締まりだな」
 まさかの稲荷総本山へと行く事になろうとは。だがここにいれば仁達は力が発揮できるのか、その姿をあやかしへと変えた。
「歩いてたら一日なんてあっという間だ。ほら、俺の背に乗れ」
「僕もこちらの方がいいですからこちらで向かいますよ」
 烏と狐のコンビ。なんともチープな感じだが、夏菜は少々遠慮をしながらも仁の背に乗る事にした。
「も、もふもふ……」
「何だ?」
「いえ、何にも!」
 思った以上の手触りに夏菜が感動していると、「それじゃ行くぞ!」と言って仁が駆ける。そのスピードは狐とは思えない程早い。これはしっかりと掴まっていないと振り落とされるレベルだ。


 しばらく風を切るように走った仁。正直周囲の外観などわからないうちに稲荷総本山に到着したのだ。
「こ、ここが……稲荷総本山?」
 そこは大きな神社と言ってしまったほうが簡単だ。大きな社を繋ぐように赤い漆が施された柱や橋は幾つかの社と繋がっている。
「仁様よくぞ戻られました」
「う、うわぁ!」
 どこから姿を見せたのか、こまともえ程の子供(尻尾耳付き)が現れた。それに驚いた夏菜は人の姿に戻った仁の後ろへと隠れた。
しろ様はいらっしゃるか?」
「いらっしゃいます。仁様のご帰還を心よりお待ちしております。ですがそちらの方は?」
「ちょっとした用があってな。こいつらも中に入れて欲しいんだが」
「えっと……少々お待ち下さい」
 スッと一瞬にして消えた子供に、夏菜は目を丸くしてばかりだ。仁曰く、総本山なので管理体制はとても厳しいらしい。本来稲荷や、稲荷に近しい狐以外この場に足を踏み入れる事は出来ないそうだ。これは京の烏天狗のところも同じなのだと言う。
 しばらく待つと、「話は聞いているとの事ですので、そちらの方もどうぞ」と子狐に言われ、中に入る許可が取れた。
「それじゃ白様の所へ行くか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

桃源ミーティアライト

湊戸アサギリ
ライト文芸
無敵の拳法少年がチャイニーズシティで奮闘するSF中華カンフーアクション、開幕!! 絢爛たる都市で少年と共に運命に立ち向かうのは美しき男達!! 愛、陰謀、狂気、執着、願い、欲望、美、その全てが宿命を彩る……  日本の近畿地方にある東洋最大の国際都市、柊(しゅう)。その下町で幼い時から拳法の師匠の元で兄弟同然に育った二人の少年・美翔(メイシャン)と真幌(まほろ)は行方不明になった師匠の帰りを信じて待っていた。 ある日、式部と名乗る男から師匠の行方を知った二人は師匠を探すべく動き出すが…… そんな中妖艶な美少女・小空(シアコン)とも出会い、運命は少しずつ塗り替えられていく…… 三人は「大切な人」を守れるのか!? 三人を取り巻く戦士達は何を見つめるのか!? 三人の願いが、中華大都市の未来を変える!! 更新情報はTwitterでご連絡します。アカウントは@ayaya_asagiriです 2021.4.23 表紙イラスト追加しました。椎名様に描いていただきました 2021.4.28 ジャンルカテゴリーを「SF」から「ライト文芸」に変更しました 2021.8.8 フリースペースにPV動画のリンクを貼りました 2021.9.25 登場人物のグッズ展開も開始しました。太志郎と黒影のバッグを販売しています(詳しくはフリースペースに記載しています) 2022.1.30 今年からDreameにも連載を開始しました!

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

霊感度MAXなボクでも普通の恋愛をしてみたい!

安芸 瑞葉
恋愛
 初見ならば一見普通の女の子に見間違えられてしまう本人曰く、極々普遍的な男の娘 瑞嶋(みずしま)尚(なお)は六歳の頃から霊感が敏感で、町へ一歩踏み出せばそこらじゅうに本来ならば見えてはいけない禍々しい物が一杯見えてしまう沈鬱とした日々を過ごしていた。  しかし高校へ上がってからは同じく、霊感持ちで霊媒師の血筋を持つ 社宮(やしろみや)陽菜瀬(ひなせ)と出会いやがては互いに惹かれ合っていく。  お互いに霊もとい”ソレ”が見える者同士。  並大抵の、普通の一般的なカップルとはちょっと雰囲気が違う”ゆる恋(緩い恋の事)”が今、幕を開ける!

ベスティエンⅢ【改訂版】

花閂
ライト文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて地元で恐れられる最悪の不良校に入学。 女子生徒数はわずか1%という環境でかなり注目を集めるなか、入学早々に不良をのしてしまったり暴走族にさらわれてしまったり、彼氏の心配をよそに前途多難な学園生活。 不良たちに暴君と恐れられる彼氏に溺愛されながらも、さらに事件に巻き込まれていく。 人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。 鐵のような両腕を持ち、鋼のような無慈悲さで、鬼と怖れられ獣と罵られ、己のサガを自覚しながらも 恋して焦がれて、愛さずにはいられない。

純情 パッションフルーツ

坂本 光陽
ライト文芸
大学生の深水駿介は、マザコンを自覚している。幼馴染の香里にからかわれても気にしない。何といっても、女手一つで育ててくれたのだ。日頃はそっけない態度をとるものの、エリさんのことは心から尊敬している。そんな駿介に、とても気になる女性が現れた。作家であるエリさんの担当編集者,魅子さんである。彼女は7つも年上だけど、天然気味で、小動物のように可愛らしい。ただ、実は、片想いになることが運命づけられた相手だったのだ。

日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴
ライト文芸
大学生になった河西一郎が入居したボロ借家は、日当たり良好、広い庭、縁側が魅力だが、なぜか庭には黒衣のおかっぱ美少女と作業着姿の爽やかお兄さんたちが居ついていた。彼らを花の精だと説明する大家の孫、二宮誠。銀髪長身で綿毛タンポポのような超絶美形の青年は、花の精が現れた経緯を知っているようだが……。 (表紙絵/山碕田鶴)

処理中です...