ようこそあやかし屋敷

まぁ

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「危ない所だったね」
 ふと頭上から声が降って来たので、その声の方を見ると、黒い髪に黒い耳、黒く長い尻尾。片目が前髪で隠された男性が夏菜を覗き込んでいた。
「え、っと……あなたはあやかしよね?」
「そうよ。アタシは今あなたの前に現れた黒猫のみけよ」
 しゃべり方が独特だが、黒猫なのにみけとはまた変わった名前を付けられたものだ。
「危なかったわね。あのままあの河童小僧と話していたらあなたの魂もっていかれてたわ」
「か、河童小僧……」
 つまり河童のあやかしで、それが悪鬼羅刹の類になろうとしているのだ。だが魂を持っていかれるという事だけはいただけない話だ。
「とにかく助かりました。ありがとうございました」
「いいって事よ。それよりも暗くなってるし送ってあげるわ」
「えっ?」
 言われるまで気が付かなかったが、もうすでに日が暮れていた。これは千庄からお小言をもらうなと思っていると、みけが「大丈夫よ」と言って夏菜にウインクした。
「ちゃーんとアタシが説明してあげるから。あなた風代神社に来た子でしょ?」
「は、はい……夏菜と言います」
「なら行きましょ。最近は賑やかになったみたいだし、狐さん達にも会いたいわ」
 そこは猫の気まぐれなのか、みけは風代神社にいつでもいるわけではないそうだ。村猫として村の中をパトロールしては、仲間猫と情報を共有しているらしい。
「仲間の情報でたまたまなっちゃんがあの川の方に向かっているって聞いてね。もしかしなくてもと思って行ってみたのよ」
「もしかしなくてもって事は、あの川で変事が起こっている事に気が付いていたんですか?」
「うーん……すごくわかるってわけじゃないけど、たまにあそこの磁場が歪んで、嫌な空気を出してるのよ。それについては神社にいる狐さん達もわかってるんじゃないかしら?」
「仁さん達は何も言ってなかったけど……」
「まぁ、磁場の歪みに関しては、正直どこでも起こり得る事なのよ。ほら、人は誰しも死ぬじゃない。特にこの世に未練を残した者の魂っていうのは、その場に留まろうとするから、どうしても磁場が歪むのよ。それをいちいち気にしてられないってのもあるけど……」
 みけの言葉が止まった。おそらく幽霊などの死者とは違う歪みを清が放っていた。けれどそれが一時のものかそうではないかを今調べていたという所だろう。
「あれほど強い怨念は久々ね。この土地に流れてからは見なかったけど……」
「元々この土地のあやかしじゃないんですか?」
「そうね。ふらふらと歩いてはって感じね。あやかしそのものの怨念は生まれて五百年近くそうであった事はないし、どちらかというと人間の怨念の方ならよく出会ってたわね」
 曰く日本の真ん中で起きた大きな戦と言われたので、おそらく関ケ原の戦いの事だろう。そんな歴史的な事件に出くわした猫。そちらの方が凄い。
「でも清が言ってましたけど、この辺の磁場は緩んでいるって……」
「お盆が近いっていうのもあるけど……それ以外にも何かあるかもしれないわね。とりあえず神社に戻ってからね」
「はい」
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