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聞けばあやかしにも階級みたいなものがあるらしい。仁達狐だと稲荷が最上級にある。しかしせつの場合は元々龍神の派生したあやかしらしく、せつそのものは白蛇の取り締まりのようだ。
件の京という人物も烏天狗の直系にあたる存在なのだそう。身分としては仁やこま、もえよりも上なんだとか。
「まぁ、あいつ勉強と田畑仕事以外興味なくて、全然烏っぽくないけどな」
荒らす存在の烏が食材を自ら作っていると言って仁は笑っていたが、要は変わり者なのだそうだ。
諸々の疑問は今は答えも何も出せないという事で、翌日に持ち越す事になった。
翌日は夜にどんな事が起ころうと六時起きだった。寝不足な夏菜は、大きなあくびをしながら掃除をする。だが千庄からは「昨日の事もあるので社はいいですよ」と言われ、社以外の掃除となった。ここに住む者は例外などなく、こまともえも眠たい目をこすりながら「おはようございます」と言った。
「ほら、二人とも先に顔を洗って来なさい」
「はーい……」
ここでは千庄の言う事は絶対だ。こまともえは顔を洗い、仁と一緒に庭にある野菜を取りに行く。行く時に「今日もお野菜?」「くっきーがいい」などと文句を言っていた。
これだけを切り取って見ると、とても平穏な朝の風景なのだ。
掃除が終わると朝食の準備だ。いつもはパンを食べる夏菜だが、こんな田舎にそんなものはない。よくある旅館の朝食メニューが用意されるようだ。
夏菜も朝食の準備を手伝っていると、玄関から元気のいい声が聞こえてきた。
「千庄さーん!」
「おや、この声は和子さんですね。夏菜さん。悪いですがそこにあるかごを持って玄関に行ってくれますか?」
「は、はい」
かごの中には昨日仁が持って来た野菜と、今朝の取れたきゅうりなどの野菜が入っている。
「千庄さーん!卵と漬物のおすそ分けだよ、ってあら?見ない子だね」
「えっと……初めまして。ここでお世話になっている夏菜です」
割烹着に白い頭巾をした四十くらいのおばさんが、かごを持って玄関の前に立っている。おそらく村の人なのだろう。
「あらやだ。千庄さんったらようやくお嫁さんを貰う気になったんだね」
「えっ?」
「もうここに来てずーっと一人だったから、私達村のもんも気にしてたんだよ」
「えっとあの……」
「あぁ、ここで話し込んでたら旦那が仕事に出ちゃう。それじゃこれね」
「は、はい!後これ、千庄さんから……」
「まぁまぁ今日も立派なお野菜を。お礼言っておいてちょうだいね」
それだけ言うと嵐のように去って行った。玄関に置かれたかごにはとれたての卵だろう。それが十個近くあり、瓶に入れられたなすの漬物もあった
「相変わらず和子さんは元気だなぁ」
貰った物を台所に持っていくと、千庄はニコニコしていた。だが和子は夏菜を千庄の嫁と勘違いしたままなのだが。
(こういう田舎だと噂が回るの早いのよね……)
きっと今日中にその事が知れ渡るとなると、夏菜は頭が痛くなってきた。
件の京という人物も烏天狗の直系にあたる存在なのだそう。身分としては仁やこま、もえよりも上なんだとか。
「まぁ、あいつ勉強と田畑仕事以外興味なくて、全然烏っぽくないけどな」
荒らす存在の烏が食材を自ら作っていると言って仁は笑っていたが、要は変わり者なのだそうだ。
諸々の疑問は今は答えも何も出せないという事で、翌日に持ち越す事になった。
翌日は夜にどんな事が起ころうと六時起きだった。寝不足な夏菜は、大きなあくびをしながら掃除をする。だが千庄からは「昨日の事もあるので社はいいですよ」と言われ、社以外の掃除となった。ここに住む者は例外などなく、こまともえも眠たい目をこすりながら「おはようございます」と言った。
「ほら、二人とも先に顔を洗って来なさい」
「はーい……」
ここでは千庄の言う事は絶対だ。こまともえは顔を洗い、仁と一緒に庭にある野菜を取りに行く。行く時に「今日もお野菜?」「くっきーがいい」などと文句を言っていた。
これだけを切り取って見ると、とても平穏な朝の風景なのだ。
掃除が終わると朝食の準備だ。いつもはパンを食べる夏菜だが、こんな田舎にそんなものはない。よくある旅館の朝食メニューが用意されるようだ。
夏菜も朝食の準備を手伝っていると、玄関から元気のいい声が聞こえてきた。
「千庄さーん!」
「おや、この声は和子さんですね。夏菜さん。悪いですがそこにあるかごを持って玄関に行ってくれますか?」
「は、はい」
かごの中には昨日仁が持って来た野菜と、今朝の取れたきゅうりなどの野菜が入っている。
「千庄さーん!卵と漬物のおすそ分けだよ、ってあら?見ない子だね」
「えっと……初めまして。ここでお世話になっている夏菜です」
割烹着に白い頭巾をした四十くらいのおばさんが、かごを持って玄関の前に立っている。おそらく村の人なのだろう。
「あらやだ。千庄さんったらようやくお嫁さんを貰う気になったんだね」
「えっ?」
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「えっとあの……」
「あぁ、ここで話し込んでたら旦那が仕事に出ちゃう。それじゃこれね」
「は、はい!後これ、千庄さんから……」
「まぁまぁ今日も立派なお野菜を。お礼言っておいてちょうだいね」
それだけ言うと嵐のように去って行った。玄関に置かれたかごにはとれたての卵だろう。それが十個近くあり、瓶に入れられたなすの漬物もあった
「相変わらず和子さんは元気だなぁ」
貰った物を台所に持っていくと、千庄はニコニコしていた。だが和子は夏菜を千庄の嫁と勘違いしたままなのだが。
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きっと今日中にその事が知れ渡るとなると、夏菜は頭が痛くなってきた。
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