捧げられし贄と二人の皇子

まぁ

文字の大きさ
上 下
1 / 5
Prologue

1

しおりを挟む
―私には前世の記憶が残っている。その記憶を継承したまま、新たな人生をこの世界で迎える事になった……


 どこにでもある田舎町。そこで前世の記憶を継承したまま生まれたアストリアは、生まれて今日までを元気に過ごしていた。
 前世でアストリアはまだ十七歳を迎えたばかりだった。しかし日常は急に奪われた。建設現場の鉄骨が落下し、挟まれて死亡。漫画やドラマでよく見る状況がまさか自分の身に起こるとは思えなかった。
 そんな非業の死を遂げ転生したアストリアは、前世の自分が死んだ十七歳という年齢になる。その日もいつものようにこの世界での母や父と過ごしながら、家にいる家畜の世話をする。穏やかな人生をこの世界で送りたい。それがアストリアの切なる願いだった。
 だが運命とは皮肉なものだ。


 その日アストリアの家に、町の外れにある神殿から巫女とその従者数人がやって来た。俗性と切り離された場所に存在する神殿の巫女達。アストリアを始めとした町の人達は、巫女達神殿の者が何をしていて、また神殿の人材がどこからやって来るかも知らない。故に巫女達が町に来るのは一大事でもあるのだが、両親は驚く事はなかった。
「アストリア……ちょっと来なさい」
 いつものように家畜の世話をしていると、両親に呼ばれた。二人共真剣な表情をしていた。単に巫女達が来た事で緊張しているのかと思った。だがそれだけではなさそうだ。
「アストリアよく聞いて。あなたはこれからある所に行って、ある方に嫁いでもらいます」
「えっ?どういう事?」
 両親の言っている意味が全くわからなかった。急に呼ばれたかと思うと、嫁がされる。この世界では親の決めた結婚というのはよくある事だが、まさか自分がそんな事を言われるとも思わなかった。
 前世では見合い結婚など古に近い風習で、恋愛結婚が主だっていたので、アストリア自身前世の記憶がある分、恋愛結婚をするのが当たり前なのだと思っていた。
「で、でも……」
「拒否は許されぬ。そなたの両親とはそなたが産まれた時、そういう契約を交わしておるのだ」
 断りを入れる間もなく、横から巫女に言われた。だがその言われた内容そのものが初耳だった為、アストリアは一瞬にして戸惑った。
「どういう事?契約って何?」
「ごめんなさい……でも、これが決まりなの」
「決まり?どういう……」
「時間の無駄だ。こちらからちゃんと説明はする。そなたには神殿に来てもらおう」
「えっ?ちょ、お母さん!お父さん!」
 説明も家族との会話も何一つなく、アストリアは巫女と一緒に来ていた従者に腕を引かれてその場を後にした。母親は涙を流し、父親はそんな母を励ます。一体どういう事なのか。これは悪い夢なのだろうか。


 腕を引かれながら馬車に乗り、町を出ていく。その時の町の人々はひそひそと噂のようなものをしている。きっと巫女が現れたものだから噂をしているに違いない。いや、もしかしたら両親同様に何かを知っているのかもしれない。
 カーテンかかった窓の隙間から外を眺めていたアストリアは疑心暗鬼になっていた。せっかく転生しても自分には明るい未来など待ってはいないのではいか。
 巡る思考を働かせていると、町はずれにある神殿へと馬車は到着していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

大好きな推しを追いかけておっかけから奥様になったあの子の話。

菜津美
恋愛
高校の頃に憧れたあの子。 わたしに生きる楽しみ(バンドのおっかけ)をくれたあの子が、急にいなくなってしまった。 彼らを追いかけていたら、いつかまた会えるんじゃないかと思って わたしなりにあの子を探して 再会してから、あの子に聞いた、いままでの 彼女の最推しの彼と、彼女のお話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

精霊に転生した少女は周りに溺愛される

紅葉
恋愛
ある日親の喧嘩に巻き込まれてしまい、刺されて人生を終わらせてしまった少女がいた 。 それを見た神様は新たな人生を与える 親のことで嫌気を指していた少女は人以外で転生させてくれるようにお願いした。神様はそれを了承して精霊に転生させることにした。 果たしてその少女は新たな精霊としての人生の中で幸せをつかめることができるのか‼️ 初めて書いてみました。気に入ってくれると嬉しいです!!ぜひ気楽に感想書いてください!

処理中です...