88 / 91
88
しおりを挟む
そう告白したエリサだったが、ディアナは特に驚く素振りは見せなかった。まるでわかっていたかのように。
「成程ね。やっぱり未練はあったのね」
「わかって、いたんですか?」
「なんとなくそうじゃないかと」
なんとなくてわかってしまう程エリサの考えは甘かったのだろうか。だがエリサは自分の心にあったものを今まで否定し続けて来た。
そうではない。そうであってはいけない。自分の勘違い。
あれこれと理由をつけては否定してきた本当の心。あの事件まではその気持ちに蓋をする事が出来た。だがマルディアスが自分をかばい傷ついたあの姿を見た時、自分の中にあった気持ちが一気に噴き出したのだ。
「きっと私が出す答えは周りを不幸にするかもしれない。一度ミリアの存在を否定された。それはこれからも変わらない。わかっている……けどあの時、本当に心が締め付けられる程苦しかったんです」
「エリサさん……恋や愛に正解なんてないのよ。例え私やエリサさんのお姉さんが止めたとしても、その恋を止められるかしら?」
ディアナの問いにエリサは涙を流しながら首を横に振った。
「でしょ?確かに私としてはこれがエリサさんにとっての最善とも思えない。けどエリサさんにとっては手放す事が出来ないのでしょ。なら私がどう言っても無駄じゃない。むしろそれならその気持ちを貫き通すのが一番だと私は思うわ」
「ディアナさん……」
どうしてこの人はこんなにも優しいのだろう。ディアナの優しさは初めて会った時から変わらない。母として強く優しい。そんな彼女にエリサは憧れた。そんな彼女はエリサの行く道を否定も肯定もしない。自分で決めるようにと言ってくれたのだ。
この恋は事情を知る周りから見れば、きっと間違いなのかもしれない。けれどそれでエリサの心が止められるわけではない。相手の言い分を聞きすぎて否定しても自分が苦しいだけだ。ならば自分に正直になった方がいい。エリサの中でもう迷いはなかった。
マルディアスが入院している病院に足を運んだエリサ。相部屋ではなく一人部屋のそこには、今は誰もいない。
「マルディアス様……」
どうやら眠ってるようだ。その寝顔を見ながらエリサは椅子に腰かけた。
「マルディアス様。私……貴方の事を愛しています。もう意地を張るのを止めます」
愛しい人の手をぎゅっと握りしめたエリサは、眠っているマルディアスに自分の気持ちを吐露していく。
「本当は気づいていました。まだ貴方を好きな気持ちを。けどずっと否定し続けて来た。自分の気持ちを受け入れるのが怖かったから。それによってまた周りに迷惑をかけてしまうと思って……でもあの時、マルディアス様が刺されて心が冷たくなりました。もし死んでしまったらどうしようかと……」
あまりいいきっかけではない。だが自分の気持ちを認識するには十分だった。すると、握りしめていた手が優しく握り返してきた。
「私も……私も貴女を愛していますよ」
「マルディアス様!」
「成程ね。やっぱり未練はあったのね」
「わかって、いたんですか?」
「なんとなくそうじゃないかと」
なんとなくてわかってしまう程エリサの考えは甘かったのだろうか。だがエリサは自分の心にあったものを今まで否定し続けて来た。
そうではない。そうであってはいけない。自分の勘違い。
あれこれと理由をつけては否定してきた本当の心。あの事件まではその気持ちに蓋をする事が出来た。だがマルディアスが自分をかばい傷ついたあの姿を見た時、自分の中にあった気持ちが一気に噴き出したのだ。
「きっと私が出す答えは周りを不幸にするかもしれない。一度ミリアの存在を否定された。それはこれからも変わらない。わかっている……けどあの時、本当に心が締め付けられる程苦しかったんです」
「エリサさん……恋や愛に正解なんてないのよ。例え私やエリサさんのお姉さんが止めたとしても、その恋を止められるかしら?」
ディアナの問いにエリサは涙を流しながら首を横に振った。
「でしょ?確かに私としてはこれがエリサさんにとっての最善とも思えない。けどエリサさんにとっては手放す事が出来ないのでしょ。なら私がどう言っても無駄じゃない。むしろそれならその気持ちを貫き通すのが一番だと私は思うわ」
「ディアナさん……」
どうしてこの人はこんなにも優しいのだろう。ディアナの優しさは初めて会った時から変わらない。母として強く優しい。そんな彼女にエリサは憧れた。そんな彼女はエリサの行く道を否定も肯定もしない。自分で決めるようにと言ってくれたのだ。
この恋は事情を知る周りから見れば、きっと間違いなのかもしれない。けれどそれでエリサの心が止められるわけではない。相手の言い分を聞きすぎて否定しても自分が苦しいだけだ。ならば自分に正直になった方がいい。エリサの中でもう迷いはなかった。
マルディアスが入院している病院に足を運んだエリサ。相部屋ではなく一人部屋のそこには、今は誰もいない。
「マルディアス様……」
どうやら眠ってるようだ。その寝顔を見ながらエリサは椅子に腰かけた。
「マルディアス様。私……貴方の事を愛しています。もう意地を張るのを止めます」
愛しい人の手をぎゅっと握りしめたエリサは、眠っているマルディアスに自分の気持ちを吐露していく。
「本当は気づいていました。まだ貴方を好きな気持ちを。けどずっと否定し続けて来た。自分の気持ちを受け入れるのが怖かったから。それによってまた周りに迷惑をかけてしまうと思って……でもあの時、マルディアス様が刺されて心が冷たくなりました。もし死んでしまったらどうしようかと……」
あまりいいきっかけではない。だが自分の気持ちを認識するには十分だった。すると、握りしめていた手が優しく握り返してきた。
「私も……私も貴女を愛していますよ」
「マルディアス様!」
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う
jun
恋愛
相思相愛の婚約者と後半年で結婚という時、彼の浮気発覚。そして浮気相手が妊娠…。
婚約は破棄され、私は今日もいきつけの店で一人静かにお酒を飲む。
少し離れた席で、似たような酒の飲み方をする男。
そのうち話すようになり、徐々に距離が縮まる二人。
しかし、男には家庭があった…。
2024/02/03 短編から長編に変更しました。
旦那様は私に隠れて他の人と子供を育てていました
榎夜
恋愛
旦那様が怪しいんです。
私と旦那様は結婚して4年目になります。
可愛い2人の子供にも恵まれて、幸せな日々送っていました。
でも旦那様は.........
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる