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「本当に目障り……」
 マルディアスから香ったその匂いにフェリシアは怒りすらも覚えた。自分はマルディアスから薔薇も贈られた事もない。それどころか夫婦としての営みすらもないのだ。
 自分とマルディアスを引き割くものは全てなくなればいい。
 気が付くとフェリシアは一人庭園にいた。その手には油と火種があった。


 あの日を境にエリサとセリカの間でギスギスとした空気が流れていた。エリサ本人もマルディアスには未練がない。そう言質もとったのだが、セリカにはそうは思えなかった。
 まだ二人が完全に別れる前、エリサはマルディアスから酷い言葉を浴びせられたと言っていた。それはエリサをけなすわけではないが、自分との子ではないミリアを殺して欲しいと。それを聞いた時、マルディアスは正気の沙汰ではないと感じたし、それがきっかけでエリサの心が離れたまではよかった。だがそれは一時的のものだったのかもしれない。
 時が経ち、マルディアスの現状もエリサと同じような状況になれば条件は同じだ。だがその先に進み悲しませる人間は数知れずになる。エリサ自身もかつて愛した人が結婚し、子供まで出来ていた事に動揺したのだろう。それがきっかけで何か心に引っかかるものが出来たのかもしれない。
「マルディアス様とエリサはどんな事をしてでも離さなくてはいけないかもしれないわね」
 そう呟いたセリカの元には数枚の紙が置かれていた。


「えっ?お見合いですか?」
「そうよ。やはり一人で何もかもこなすには大変でしょう?」
「そ、そうですが……」
 突然セリカに呼び出され何を言われるかと思ったら、エリサは数枚の調査書や写真を渡された。どれもが貴族だが、年齢も高めなのが気になる。
「さすがに貴女と同じような年齢の方っていうのは見つからなかったのよ。ましてや貴女には子供がいる事だし。だから少々条件は劣るけど、皆子供がいる事に快諾して下さいったわ」
「そんな……」
 言葉が出なかった。まさかお見合いを勧めてくるとは思いもしなかった。エリサは以前セリカに言った。自分一人でミリアは育てると。だがこうして強行してくるという事は、マルディアスとの事が関係あるのだろう。
「お姉様……私は結婚しません」
「どうして?子供には父親がいた方がいいと思うわ」
「それはただのエゴです!たとえ片親でも幸せに育っている子だっています!」
「でも私は貴女の事を心配しているのよ……だって」
「わかってます。お姉様の言いたい事はマルディアス様との事ですよね?関係ありません!私はマルディアス様と元の関係に戻りたいと思っていません!」
「本当にそう言い切れるの?」
「はい!」
 そう強く言ったエリサ。ここで心の揺らぎなど見せたら本当にお見合いさせられてしまう。マルディアスとの事があるからではないが、エリサはもう誰とも一緒になりたいと思っていないのだ。
「わかりました。とりあえずお見合いに関しては一旦保留にしておきます。けど覚えておいて。私は貴女が幸せだと思う事なら応援はしてあげる。けど、自分にも周りにも犠牲を伴う幸せならそれを阻止します」
 セリカの言いたい事はわかっている。自分自身相手の家庭を壊すような事はしたくないし、しないと誓える。ただマルディアスの愛の言葉が耳から離れない事だけはどうしたものかと思った。
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