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「もし、私が聖女に戻ったとして、マルディアス様と何か関係がありますか?」
「ないですよ。以前は聖女を剥奪されて随分と悩んでいましたからね。聖女である事がエリサ様にとって何より大切なものと思いましたが、最近はそうではなさそうですね」
「えぇ……今は仕事もありますし、娘もいますので……」
「そうですね。やはり貴女は以前の貴女とは全く違うようだ」
 何だろう。どこか色を含んだような物言いに違和感がある。危険とはわかっていても、これ以上近寄る事を拒否する為にも言わなくてはいけない。
「マルディアス様……もう園に花束を贈るのをやめてくれませんか?」
「どうしてですか?」
「一度ならまだしも、二度、三度と続くと不審に思います。現に貴方にも家庭があるのですから、奥様に誤解を招くような行為だけはやめたください」
 はっきりと告げた瞬間、場の空気が変わった。こんな事が以前にもあった。そう、ミリアがまだお腹にいた時、ミリアを殺して欲しいと言われたあの時に似ている。
「ようやく貴女の口から私のプライベートの部分が出たかと思うと……別に花束は私がしたいだけでやったのですが、気に入らないようですね」
「ですから!貴方にだって……」
「レティシアとの関係は偶然です。互いに愛情などありません」
「ぐ、偶然?」
「ええ、偶然です」
 一体どういう事なのか。だがその先には踏み込みたいとは思わなかった。それにマルディアスは互いに愛情はないとは言っていたが、レティシアの方は違う気がした。レティシアはマルディアスの事を心底慕っている風にも見えた。
 まるで過去の自分を見るように……
 すると馬車はエデンワースの屋敷に到着した。
「と、とにかく。これ以上マルディアス様と関わるつもりはありません。今日はありがとうございました。それでは失礼しま……」
 足早にその場を去ろうとした瞬間、腕を引かれ、その反動で体制が崩れマルディアスにもたれる形になった。
「マルディアス様!」
「状況はあの時と随分変わりましたが、偶然にもあの日貴女と再会出来た事は幸運だと思っています」
「は、放して下さい!」
「貴女が自ら事業を始めようとする事は、もちろん仕事柄噂として耳にしていました。まさかあのエリサ様がと驚きましました。けど出会ってわかりました、貴女ならやり遂げるのだろうと……」
「もういいから放して下さい!」
 掴まれた腕をなんとか放そうと必死になったが、ビクともしない。それどころかマルディアスはエリサの腰に手を置いて引き寄せる。
「再会した時思いました。これは神が与えたチャンスなのだと」
「言っている意味がわかりません!それに貴女には奥様もお子様もいる」
「関係ない。私は今も昔も貴女を愛している。だからこのチャンスを逃さない。私はまだあの時の事を根に持っているのですよ」
「知りません!私が大切なのはミリアだけ!貴方との事はもう終わったのです!」
「終わってませんよ。今度こそ貴女を手に入れる。その為なら何だってしますよ」
 ゾワリと背筋に悪寒が走る。今のマルディアスはやると言ったらやる。そんな恐怖に言葉を失った時、マルディアスがさらにエリサを引き寄せたと同時に、その唇を奪われた。
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