61 / 91
61
しおりを挟む
(きっと聖女に戻ったとしても、また同じことを繰り返してはいけない……)
人々の安寧や平穏、聖女としての秩序を守るならば戻るべきではない。
マルディアスの事は、愛や恋などの気持ちで心の中にいるのではないとエリサは思っている。ただ記憶として刻まれている。そう思っている。否、そう思いたいのかもしれない。
「なんだか頭痛くなっちゃうな……」
もし断るにしてもどう言って断ればいいのか。オルカの納得する答えを出すのもまた大変なのだ。
「さ、帰ろ。ミリアも待ってるし」
ここは神の座す場所。エリサが大聖堂に寄ったのは神の前で懺悔したかったのかもしれない。
腰を上げ屋敷に戻ろうと思い大聖堂を出た。
「やだ、雨が降ってる……」
大聖堂の中にいては気がつかなかったが、外に出ると雨が降っていた。大雨とまではいかないがそこそこ本降りだ。歩いては帰れはいと思い、馬車を見つけたい所だが、こんな時に限って馬車はそう簡単には見つからない。
「仕方ないな。ここでしばらく雨宿りか」
果たしてこの雨が止むか弱くなるかはわからない。とりあえず大聖堂の入り口で呆然としながら過ごした。
一時間程が経過しただろうか。雨は弱くなるどころか強くなっている。街を歩く人の姿はない。
「うーん……嫌だけどこの雨の中を走か……」
間違いなく帰ってセリカに怒られるだろうが、馬車がつかまらないので仕方ない。意を決して走ろうと思った時だった。
大聖堂前で一台の馬車が止まる。
「えっ?」
とてもタイミングがいい。そう思ったが、馬車の窓から姿を覗かせたのはマルディアスだった。
「エリサ様?こんな所で何を?」
「あ、雨宿りです」
「あぁ、この雨ですからね。馬車もつかまりにくいのでしたら乗って行きますか?」
「い、いえ……ご迷惑になってはいけないので大丈夫です」
さすがにマルディアスとの同乗は出来ない。そう判断したエリサは丁重に断るが、マルディアスは強引に進めて来た。
「ですがこの雨はしばらく止みませんよ。そのうち夜になります。女性を一人ここに置いておくわけにはいきまさんから、どうぞ乗って下さい」
「で、でも……」
「馬夫だって早く仕事を切り上げたいでしょうから、ここで私とエリサ様が口論していたら馬夫にも迷惑かかります」
他人を出されては何の反論も出来ない。そう思うのなら声をかけないで欲しかった。
仕方なくエリサはマルディアスの好意に甘える事にして馬車に乗った。
「行き先はエデンワースの屋敷でいいですよね?」
「……はい」
どうして最近またマルディアスと会う事が増えたのだろう。マルディアスとは対角線の位置に腰を落としたエリサはそんな事を考えた。だがもっといけないのはこの密室空間だ。早く屋敷に着いて欲しいと思う。
「あの場にいたという事は、聖女の職に戻られたのですか?」
「違います。姉オルカの所に行っていたのでついでに寄っただけです」
「そうですか。私はつい聖女に戻ったと思いましたよ」
どうして普通に話が出来るのか謎だ。それにエリサの中でこの密室空間は危険だと訴えている。早くここから出たい。エリサは心の中でそう呟いた。
人々の安寧や平穏、聖女としての秩序を守るならば戻るべきではない。
マルディアスの事は、愛や恋などの気持ちで心の中にいるのではないとエリサは思っている。ただ記憶として刻まれている。そう思っている。否、そう思いたいのかもしれない。
「なんだか頭痛くなっちゃうな……」
もし断るにしてもどう言って断ればいいのか。オルカの納得する答えを出すのもまた大変なのだ。
「さ、帰ろ。ミリアも待ってるし」
ここは神の座す場所。エリサが大聖堂に寄ったのは神の前で懺悔したかったのかもしれない。
腰を上げ屋敷に戻ろうと思い大聖堂を出た。
「やだ、雨が降ってる……」
大聖堂の中にいては気がつかなかったが、外に出ると雨が降っていた。大雨とまではいかないがそこそこ本降りだ。歩いては帰れはいと思い、馬車を見つけたい所だが、こんな時に限って馬車はそう簡単には見つからない。
「仕方ないな。ここでしばらく雨宿りか」
果たしてこの雨が止むか弱くなるかはわからない。とりあえず大聖堂の入り口で呆然としながら過ごした。
一時間程が経過しただろうか。雨は弱くなるどころか強くなっている。街を歩く人の姿はない。
「うーん……嫌だけどこの雨の中を走か……」
間違いなく帰ってセリカに怒られるだろうが、馬車がつかまらないので仕方ない。意を決して走ろうと思った時だった。
大聖堂前で一台の馬車が止まる。
「えっ?」
とてもタイミングがいい。そう思ったが、馬車の窓から姿を覗かせたのはマルディアスだった。
「エリサ様?こんな所で何を?」
「あ、雨宿りです」
「あぁ、この雨ですからね。馬車もつかまりにくいのでしたら乗って行きますか?」
「い、いえ……ご迷惑になってはいけないので大丈夫です」
さすがにマルディアスとの同乗は出来ない。そう判断したエリサは丁重に断るが、マルディアスは強引に進めて来た。
「ですがこの雨はしばらく止みませんよ。そのうち夜になります。女性を一人ここに置いておくわけにはいきまさんから、どうぞ乗って下さい」
「で、でも……」
「馬夫だって早く仕事を切り上げたいでしょうから、ここで私とエリサ様が口論していたら馬夫にも迷惑かかります」
他人を出されては何の反論も出来ない。そう思うのなら声をかけないで欲しかった。
仕方なくエリサはマルディアスの好意に甘える事にして馬車に乗った。
「行き先はエデンワースの屋敷でいいですよね?」
「……はい」
どうして最近またマルディアスと会う事が増えたのだろう。マルディアスとは対角線の位置に腰を落としたエリサはそんな事を考えた。だがもっといけないのはこの密室空間だ。早く屋敷に着いて欲しいと思う。
「あの場にいたという事は、聖女の職に戻られたのですか?」
「違います。姉オルカの所に行っていたのでついでに寄っただけです」
「そうですか。私はつい聖女に戻ったと思いましたよ」
どうして普通に話が出来るのか謎だ。それにエリサの中でこの密室空間は危険だと訴えている。早くここから出たい。エリサは心の中でそう呟いた。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
旦那様は私に隠れて他の人と子供を育てていました
榎夜
恋愛
旦那様が怪しいんです。
私と旦那様は結婚して4年目になります。
可愛い2人の子供にも恵まれて、幸せな日々送っていました。
でも旦那様は.........
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。
あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。
貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。
…あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる