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(きっと聖女に戻ったとしても、また同じことを繰り返してはいけない……)
 人々の安寧や平穏、聖女としての秩序を守るならば戻るべきではない。
 マルディアスの事は、愛や恋などの気持ちで心の中にいるのではないとエリサは思っている。ただ記憶として刻まれている。そう思っている。否、そう思いたいのかもしれない。
「なんだか頭痛くなっちゃうな……」
 もし断るにしてもどう言って断ればいいのか。オルカの納得する答えを出すのもまた大変なのだ。
「さ、帰ろ。ミリアも待ってるし」
 ここは神の座す場所。エリサが大聖堂に寄ったのは神の前で懺悔したかったのかもしれない。
 腰を上げ屋敷に戻ろうと思い大聖堂を出た。
「やだ、雨が降ってる……」
 大聖堂の中にいては気がつかなかったが、外に出ると雨が降っていた。大雨とまではいかないがそこそこ本降りだ。歩いては帰れはいと思い、馬車を見つけたい所だが、こんな時に限って馬車はそう簡単には見つからない。
「仕方ないな。ここでしばらく雨宿りか」
 果たしてこの雨が止むか弱くなるかはわからない。とりあえず大聖堂の入り口で呆然としながら過ごした。


 一時間程が経過しただろうか。雨は弱くなるどころか強くなっている。街を歩く人の姿はない。
「うーん……嫌だけどこの雨の中を走か……」
 間違いなく帰ってセリカに怒られるだろうが、馬車がつかまらないので仕方ない。意を決して走ろうと思った時だった。
 大聖堂前で一台の馬車が止まる。
「えっ?」
 とてもタイミングがいい。そう思ったが、馬車の窓から姿を覗かせたのはマルディアスだった。
「エリサ様?こんな所で何を?」
「あ、雨宿りです」
「あぁ、この雨ですからね。馬車もつかまりにくいのでしたら乗って行きますか?」
「い、いえ……ご迷惑になってはいけないので大丈夫です」
 さすがにマルディアスとの同乗は出来ない。そう判断したエリサは丁重に断るが、マルディアスは強引に進めて来た。
「ですがこの雨はしばらく止みませんよ。そのうち夜になります。女性を一人ここに置いておくわけにはいきまさんから、どうぞ乗って下さい」
「で、でも……」
「馬夫だって早く仕事を切り上げたいでしょうから、ここで私とエリサ様が口論していたら馬夫にも迷惑かかります」
 他人を出されては何の反論も出来ない。そう思うのなら声をかけないで欲しかった。
 仕方なくエリサはマルディアスの好意に甘える事にして馬車に乗った。
「行き先はエデンワースの屋敷でいいですよね?」
「……はい」
 どうして最近またマルディアスと会う事が増えたのだろう。マルディアスとは対角線の位置に腰を落としたエリサはそんな事を考えた。だがもっといけないのはこの密室空間だ。早く屋敷に着いて欲しいと思う。
「あの場にいたという事は、聖女の職に戻られたのですか?」
「違います。姉オルカの所に行っていたのでついでに寄っただけです」
「そうですか。私はつい聖女に戻ったと思いましたよ」
 どうして普通に話が出来るのか謎だ。それにエリサの中でこの密室空間は危険だと訴えている。早くここから出たい。エリサは心の中でそう呟いた。
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