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 その言葉を聞いて、エリサの中で一気に温度が下がった。
「な、何を言って……」
「私を愛しているのならその腹の子は必要ないでしょう?」
「必要あるとかないとかじゃないです!」
「子供が欲しいなら私がいくらでも子をあげます。そうすれば他の男の子は必要ないです」
 怖い。今すぐここから逃げ出したいくらいに怖いとエリサは思った。自分以外の他の男の子供は不要と言うマルディアス。それまでの紳士面を取り外した彼の本質は目の前にあるのだ。
「こ、この子は絶対に殺しません!」
「では貴女は私を愛していないのですね……」
「そうじゃない!確かにフリーク様との間に出来たこの子は予想外だったかもしれない。でも……本当にこの子にはなんの罪もないのです」
 腹に手を置き、例えフリークとの間に出来た子でも、産まれてくるのは自分からだ。愛おしいと思えるのは当たり前だ。エリサは自然と涙が溢れ出た。
「そうですか……どうやらもう貴女とは話をしても無駄のような気がしました」
「どうしてそんな事……!」
「私の貴女への愛も、貴女から私への愛も終わったのです」
「か、勝手に終わらせないで下さい!」
 するとマルディアスはもう終わりとばかりに机に置いてあるベルを鳴らし侍女を呼んだ。
「エリサ様をエデンワースけ送って差し上げろ」
「ま、待って下さい!話は終わってないです!」
 侍女に引きずられるようにして部屋を出されるエリサ。去り際、マルディアスはエリサを見た。
「さようなら愛しい人……」
「マルディアス様!」
 その顔はとても寂しそうで、自分を捨てないで欲しいと言っているかのようにも見えた。


 突然ディアナの家にやって来たマルディアスによって、ルディアース家に連れて来られたエリサ。急に姿を消した事でディアナが心配しているかもしれない。
 一言何か言いたかったのに、エリサはそのままエデンワースの屋敷へと送られた。何も言わずに出て行った家。どうすればいいのかわからなかった。
 だがそれ以上に去り際のマルディアスの顔が忘れられなかった。
「私はどうすればよかったの?」
 この子供は絶対に殺せない。そしてマルディアスを愛していないわけではない。愛していた。そう、少し冷静になると、気持ちが冷えているのに気がついた。
 甘い蜜月の時にはなかった。しかし子供の存在を知って、エリサを求める愛は次第に執着と嫉妬を含んだ。極め付けは子供を殺して欲しいと言った。これが全てだった。
「どうしてかしら?マルディアス様の事……愛していたのに……」
 気持ちは冷えてきたが、去り際の表情は忘れられない。あのまま突き放してくれれば気持ちの区切りは出来た。
 最後の最後、マルディアスはエリサの記憶から残らないような置き土産をしたのだ。


 エデンワースの屋敷を目の前にし、エリサはベルを鳴らそうとした。だがエリサがベルを鳴らす前に、屋敷から血相を変えてセリカが出てきた。
「セリカお姉様……」
「エリサ!」
 セリカは何も言わず、エリサの事を抱きしめた。
「よかった……無事で……」
「お姉様?」
 どうしてセリカはエリサに気がついたのだろう。窓から帰ってくるのが見えたのか。しかし今はそんな事よりも、久々に会えたセリカの姿を見てなんだか安堵したのだ。
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