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「夫とは所謂幼馴染みだったんです。お互い貧乏暮らしで、両親は共働きでいつも一緒にいたんです」
 ディアナにとって夫とは物心つく前から当たり前のように一緒にいる存在だったらしい。
「二人ともなんとか学校は行けたんですが、さすがに大学までは無理で、互いに就職活動をしたのです」
 互いに工場の下働きだったがのんとか就職が出来たらしい。ディアナは繊維工場で夫は配管工で、勤務の時間も休みも違うが、互いの交流は変わらずしていた。
「仕事も馴染んだ頃に夫から一緒になろうと言われました。私は「いつも一緒にいるでしょ」ってとぼけたフリをしていたんですけどね。いつかそうなるだろうって予感がして、受け入れました」
 それから結婚と妊娠を経て、ディアナは繊維工場を退職し専業主婦となった。無事マルタも産まれて順風満帆な家庭を築けた。その矢先の出来事だった。
「夫が勤める配管工は言わば企業向けの下請けみたいなものです。企業からの依頼によって成り立つ仕事なのですが、その大口の企業さんが経営難らしく、徐々に仕事がなくなり、夫は雇止めを受けたんです」
 そこからはなし崩しのようだったそうだ、景気はあまりよくないこのご時世で、次の働き口を探すのはとても難しかった。なかなか見つからない職。まだ小さいマルタもいて焦りはじめた夫だが、次第にそれは酒に逃げるようになった。
「わずかな蓄えも徐々に底をついていきました。明日はの希望も見出せず、だからと言って夫の心中を知っているだけに、仕事を見つけてとも言えず……そんな時にフリーク様と出会ったんです」
 ここでフリークの名が出てエリサはドキリとした。この時は夫婦仲も末期の状態らしく、夫はディアナに暴力まで振るっていたそうだ。
「あまりにも見窄らしかったのでしょうね。だから私達親子に施しを与えて下さりました」
 そんなエピソードがあったとは知りもしなかった。ディアナとフリークが会う頻度はそう多くはないそうで、会うたびにフリークはディアナにお金を手渡したらしい。だがそのお金も夫に知られた。しかし破格のお金が無条件で手に入るとなると、妻が別の男と会っていても不問としていたそうだ。
「いつかマルタに手を出すのでは……それが怖かった。私がフリーク様と会っている事を問われるのはいいとしても、マルタにだけは手出しさせたくはなかった。けど、夫はマルタに手を出しました。それが決定的でした」
 これまで黙っていたディアナだが、マルタに手を出され激怒した。すると夫は家から出て行き帰っては来なくなった。
「娼館に入り浸っていたそうです」
 他の女の元に行った夫。もう二度と帰って来ないのだろうと思っていた。これからどうすればいいのか、そんな事を考えていた時に、突然その訃報は入ってきた。
「夫が娼館の女性と亡くなったそうです。心中と言うことにはなっています。私は悲しさよりも、ようやく終わったんだなと思いました」
 もちろん情がないわけではない。しばらくは気持ちも荒んだ。
「けど、気持ちを整理する中で、最期は酒に溺れたとはいえ、私の中の夫はあの人だけなのだと思いました」
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